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EMPIRE Kasabian 7松

前作を聴いていないので比較という意味ではよく分からないが、売出中のバンドのセカンドである。エレクトロニックで重厚なグルーヴを基礎にしながらその上にギターを中心とした伝統的なブリティッシュ・ポップの歌を乗せて行く手法は必ずしも彼らの専売特許という訳ではないだろうが、それをきちんと消化して自らの一部にしているという意味ではセカンドと思えない手堅さだ。たたずまいとしてはフランツを思い起こさせるものもあるが、どっちが残るかといえばレンジの広さでこっちじゃないかと僕は思う。

サイケデリックな曲の展開が「異端」の評価を生んでいる面もあるようだが、ここにあるものの本質はあくまでも正統な音楽への興味と自信。彼ら自身がオアシス、プライマル・スクリーム、ストーン・ローゼズという名前を口にしているように、そうしたバンドが紡いできたブリティッシュ・ロックの今日的展開の遺伝子を彼らは非常に自覚的に継承しようとしている。だが、それはもちろん、彼らの音楽がそうしたバンドと似ているということではまったくない。むしろ、彼らの音楽はそのどれとも似ていないのだ。

ここで自覚的に継承というのは、そうしたバンドがブリティッシュ・ロックの中で果たした役割、立ち位置のようなものを、このバンドが受け継ごうとしているということに他ならない。それが本当に果たせるかどうかはまだまだ長いテストを経なければ分からないし、おそらくはもっと先になってから実はそうだったと後で分かるような類の話かもしれないのだが、このバンドがそのテストに参加するという意志をこのアルバムで表明していることは確かだし、その最初のテストに彼らは合格したと言っていい。力作。
 

 
THE STARS LOOF DIFFERENT FROM DOWN HERE Cosmic Rough Riders 7竹

前作はいかにもスコティッシュなギター・ポップ感満載のキラキラしたアルバムだった。こういう音の需要は常にあり、僕も決して嫌いではないのだが、そうした作品を聴くたびにケチをつけたくなるのは、やはりそこで、今、この日本というヤバい国で、いやテロと内戦の10年になりそうな00年代のヤバい世界で、毎日何だか異様なスピードで無理無理に生きている僕たちの焦燥のテンパり方とそうした音楽が本当のところどこでフックしているのかが分からなくなってしまうからだ。スピード感が違いすぎるのだ。

そういう意味でキラキラしていながらも僕の現実感覚と辛うじて交点があるのはティーンエイジ・ファンクラブくらいであり、このコズミック・ラフ・ライダーズも前作まではその品のいいレプリカに過ぎなかった、少なくとも僕にとっては。しかし、本作ではその「選ばれた庭だけを照らす太陽」的な内輪受けのキラキラ感は明らかに後退し、見違えるほどタフになったロックが鳴らされている。もちろん歪まないギターの音色を大切にした音作りは変わらないのだが、曲のドライブ感が格段に進化しているのである。

僕はパワー・ポップという言葉はあまり好きではなくて、パワーのあるポップはそれ自体ロックだと思っているのだが、このアルバムではXTCやスクイーズなどの系譜に連なり、ティーンエイジ・ファンクラブとも肩を並べる力のあるポップ・ソングが聴ける。これはもう特定の仲間だけに向けられた秘密のメッセージではなく、現代という奇妙な時代に否応なく生きざるを得ないすべての人に対して開かれた歌であり、その意味でポップそのものだ。忘れた頃にレコード屋で見つけた新譜だが見逃さなくてよかった。
 

 
ODE TO OCHRASY Mando Diao 7松

前作では見事に泣きの入ったオアシス節になってしまい、その堂に入ったオアシスっぷりに思わず爆笑を誘ったマンドゥ・ディアオだったが、アルバムとして、曲としてはまったく悪くなかった。いや、あまりにオアシスそのものであったことを除けば。あまりにオアシスだったということは、要はビートルズ直系のポップでメロディアスな曲をパンク以降の近さで鳴らしたということであり、その選択肢自体はまったく間違ってはいなかった。彼らの音楽的バックボーンの確かさはそこにはっきり表れていたからだ。

このアルバムで彼らはさらにその音楽的レンジを広げてきた。ポップでありながら性急で、伝統に忠実でありながら今ここにある痛さや気持ちよさと確実にリンクしている。そしてそれを達者なソング・ライティングとスピードのあるアレンジで下支えする。あらゆるロックの底流にある基本的なフォーマットを踏襲してはいるが、もうだれにも似ているなんて言わせないという「オレ様」感が横溢している。ハイプでも二番煎じでもなく、ロックンロールの歴史の中に自身の名誉ある地位を占めようという作品だ。

オルガンが効果的に鳴っている。前作よりは勢いで押し切ったファーストを思い起こさせるが、荒っぽさが芸になっていたファーストに比べれば格段に音楽的になっており、その分おとなしく聞こえる部分はあるがアルバムとしての完成度はグッと上がっている。リバティーンズ的な破綻を売り物にするのではなく、普通のロック・バンドとして音楽の内実で勝負することを選び、その選択に忠実に組み立てられた誠実なアルバムである。次が分水嶺になると思うが、実力の確かさを示したアルバムと言っていいだろう。
 

 



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