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FIRST IMPRESSIONS OF EARTH The Strokes 7竹

都心の大きなレコード屋に行くと試聴機が備えられている。これでCDを聴くとたいていかなり大きめの音で再生されるのだが、そうすると少々アレなレコードでも結構よく聞こえてしまったりするから不思議だ。それで判断を誤って買ったジャンクがいったい何枚あることか。いや、もちろんストロークスの新譜がそうだということではない。ただ、ロックにとって大きな音で聴くということは確実にひとつの大きな要素であるということが言いたいのだ。大きな音で聴かれることをその属性として内包する音楽、それがロックだ。

このストロークスのアルバムはその中でもスピーカーから空気を揺らして鳴らされることで力を獲得する種類の音楽ではないかと思う。最近の常として買ってきたCDはだいたいリッピングしてiPodに流しこみ、通勤の電車の中で聴くのがふだんの流れなんだが、その聴き方では今回のアルバムは今ひとつピンと来なかったのだ。それが家のオーディオから音を出してみると、何だ、全然OKじゃん、みたいな感じで。これは何を意味しているのだろう。それはたぶん、このアルバムが「場」を飲みこんで成立するような作りだからか。

文句なしにポップだった前作から比べれば、このアルバムでは音楽的な幅が広がり、音の作りこみの奥行きもグッと深まったと思う。しかしその一方で一点突破的な初期衝動の高まりは確実に減衰している。「ストロークスはロックンロールの初速を落とさないまま音楽的に成長して行くという困難な実験に挑んでいる」と前作のレビューに書いたが、その実験が本作で幸福な実を結んだとはまだ言い難い。いい夢の途中で目が覚めちゃって、続きを見るために必死で目を閉じてみたような、そんな感覚が残ってしまうアルバムだ。
 

 
THE LIFE PURSUIT Belle And Sebastian 7松

ベルセバの最初の3枚くらいのアルバムを聴くと、最初の部分の音量がすごく小さいのに気づく。ここで人は否応なく耳をそばだてる。あるいはオーディオのボリュームを上げる。知らない間に僕たちは一所懸命メロディを追いかけ、気がつくとアルバムは佳境に入って音量は随分大きくなっている。あわててボリュームを下げる。何回かこれを繰り返すうちに僕たちは気づく。これはわざとやっているな、と。最近iPodでベルセバの旧譜を続けて聴いていて改めてそれを思った。うん、どう考えてもわざとやっている。

素朴で純真に見えながら、その実ベルセバが非常に戦略的で意識的なバンドであることは少し真面目に聴いている人なら分かっているだろうが、核戦争か何かでほとんどの人が死に絶えた後で、残されたその持ち物だけをひとつひとつたどりながら、そこにあり得たはずの人々の営みを復刻してみせるような、そんな美しくも残酷で、場合によっては冷酷な緊張感というのは前作辺りから少し和らいできたような気がする。本作でも音楽的には随分カラフルだし、最初の曲を殊更にひそやかに入ってみせるような小技もない。

その分、多くの人がベルセバらしさと思っているであろう純朴フォーク路線は後退し、曲本来の力、「歌」としての通用力が前面に出てきているのだが、そのような「ナマ本番」勝負になったときに、意外とモノをいうのがスチュアート・マードックの頼りないヘロヘロのボーカルだということに気がついた。サウンド・プロダクションがいくらにぎやかになっても奇妙な「腰折れ感」が払拭できないところと合わせて、すぐに裏返る細い声のボーカルが、どこまで行ってもベルセバの自意識を支えているのが分かるアルバム。
 

 
MY CHAIN BMX Bandits 6松

もう最近おっそろしい勢いで時間が過ぎて行く。年を食うと年月の過ぎるのが速くなるとは聞くが、実際一週間なんてあっという間だ。昨日と見分けのつかない今日が際限なく繰り返されて、気がつくと一ヶ月とか、一年とか、簡単に過ぎてしまっている。そのうちメシでも食おうよ、とか、また飲みに行こうか、とか、適当に愛想をバラまいている間にもう数年会ってなかったりする。そして僕は昨年40歳になり、たぶん、人生の半分は終わってしまった。ここはどこだ。オレはいったい毎日何をしているんだ。

仕事ももちろん忙しいのだが、それだけじゃない気がする。社会の回転速度が毎年上がる中で、僕自身が毎日を繰り越すためのアップダウンの周波数もどんどん波長が短くなってきているんじゃないかと思うのである。今日を明日へと更新するので精一杯というか。そんな中で強烈に違和感を覚えるのが、最近流行の「スローなんとか」の類である。最初は「スローフード」辺りから始まったのだが、最近では食い物にとどまらず、生き方にまで「スロー」が蔓延し始めたようなのだ。「スローライフ」だとかさ。

うん、ゆっくり行きたい人はそうしてもらって構わない。のんびりしたい人は休んでてもらっていい。それもいいんだろうなと思うし、たまにはゆっくりのんびりしたいとも思うけど、普通の人はそんなペースで毎日を食いつなぐ訳にも行かない。みんながスローになっちゃったら僕たちの社会はたぶん立ち行かないのだ。そういう意味でこのアルバムはすごくスローライフ的。のんびりすることがもはや特権的ですらある環境では、これは贅沢な作品だ。いずれもっと年を食ったらゆっくり聴き直すんだろうな。
 

 
RADIATOR Super Furry Animals
THINGS LEFT BEHIND... My Bloody Valentine
ファースト ミドリ
20 ORIGINAL MOD CLASSICS V.A.



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