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ROAD TO ROUEN Supergrass 7竹

アルバムを出すごとにどんどんオーソドックスになって行くスーパーグラスの3年ぶりの新譜である。ブリットポップが盛り上がっていたさなかにデビューし、「レニー」でスマッシュヒットを飛ばしていかにもハイプ的な扱いをされていた彼らだが、そうした安っぽいムーヴメントにつぶされることなく、正統派ロックに正面から挑みつつここまで生き残ってきたのは評価されてしかるべきだろう。考えてみれば彼らも既に10年選手であり、いかにもやんちゃ坊主だったギャズも写真を見ればすっかり大人になった。

今作ではオーケストレーションに幅を広げ、ストリングスなども巧みに導入した中期ビートルズ的なサウンド・プロダクションが耳に残る。彼らとしてはある種の実験、冒険を見せたアルバムなのかもしれないが、ボーカルへのリバーブのかかり方がまったくジョン・レノンな曲もあるし、全体としてはある時期のロックを非常に正統にこの2005年の空気の中で鳴らしてみたという印象が強い。ドラム、ベース、ギターというスリーピースを軸にした何の意外性もない音作りでここまでの展開力を備えたバンドは多くない。

アコースティックでメロウな曲が中心という評もあるし、それはそれで正しいのだが、大切なのは彼らが実に奔放に、しかし強い確信を持ってこの音を鳴らしているということである。「サンクト・ペテルスブルグ」や「サッド・ガール」といったメロウな曲から、モンティ・パイソンふうのインタールードをはさんでゴリゴリのロック・チューンに展開して行く流れもしっかりと計算されたものだろう。この自信が慣れに変わって行かないようにと前作のレビューで書いたが、彼らはまだまだ老成せず走っているようだ。
 

 
LOVE KRAFT Super Furry Animals 7竹

いつの間にか業界にしっかり独自の足場を築いてしまった彼らの7枚めのアルバムである。新譜が出るたびに骨折より脱臼を狙う関節技だのロック拡幅工事だの柔構造だのいい加減なことを書き散らしてきたが、今作では彼らのそんな「ちょっとヘンな感じ」は影をひそめ、ストリングスを導入したロマンチックなスロウ・ファンクというかソウルというか、そういうメロウな感じに仕上がっているのが意外である。もちろん微妙にパースが狂っているような彼ら独特の位相というかおかしみのようなものは変わりようもないが。

「大胆かつ独創的。ホワイト・アルバムの頃のビートルズが地下のエコー・チェンバーで演奏しているようだ」なんてNMEも絶賛しているようだ。確かに曲想はバラエティに富み、ゴージャスなオーケストレーションやコーラスが素晴らしい音響を生み出して、ひとときの至福を与えてくれる。インタビューによれば彼らは意図的にアップ・テンポなナンバーを外し、スロウなラブ・ソング集にしたのだという。これはこれで美しい。彼らの新しい境地だと評価してもいい。しかし、僕にはこのアルバムはどうにも物足りないのだ。

こういうスロウ・ダウンしたアルバムを作れること、それを新譜としてリリースできることは疑いもなく彼らの成長の証左であり、自信の表れに他ならないと思う。しかし、カタルーニャの暑さの中で製作されたこのゆったりとしたアルバムがこれからの彼らのスタンダードになって行くとは僕には思えない。そういう意味でこのアルバムは佳作ではあっても、彼らの代表作になって行くものではないと思うのだ。もっとウェールズの暗い森、ケルトの血の濃さを宿命的に感じさせる、それでいてポップなSFAを次作には期待したい。
 

 
A SUNFLOWER AT CHRISTMAS The Pearlfishers  
ZILCH Shack  
YOUNG, GIFTED, AND BLACK COUNTRY The Mighty Lemon Drops  
THE GLASGOW SCHOOL Orange Juice  



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