彼らのアルバムを聴くたび、僕たちはオートマチックに「バンドワゴネスク」の幻影を探し続けてきた。激しいフィードバック・ノイズの向こうから漂うように聞こえてくる美しいメロディとハーモニー。どこか壊れたようなその取り合わせは不穏だった。何かただならぬことが目の前で進行しているようでざわざわと血が騒いだ。ただの「いい歌」ではない、確かにロック的なヤバさがそこにあったのだ。僕にとってはそれがTFCの原体験だった。それからだんだん「いい歌」化して行くTFCを、僕は複雑な気持ちで追い続けた。
メジャー・レーベルと契約が切れ、自ら設立したレーベルからの5年ぶりとなるオリジナル・アルバムだ。今作では流れるようなポップ・ソングは意外と少ない。どの曲も敢えて大げさな盛り上がりを避けるように、淡々と、あくまでストイックに、ミニマルに歌われて行く。オルガンの音が効果的に配され、実際には凝ったアレンジがされているのだが、非常に整理されたシンプルなサウンド・プロダクションがミニマルな印象を一層高めている。メロディもハーモニーももちろん美しいが、ポップな爽快感は見当たらない。
だがその静かで端整なアルバムが僕をより深く音楽の中へと引っ張って行くのだ。心地よい半覚醒の中で聴く音楽のように、このアルバムは僕の脳味噌のふだんあまり使わないところにいつの間にか忍びこみ、知らない間に浸透する。TFCのアルバムにこういう中毒性とか習慣性みたいなものを感じたのは久しぶりのことではないかと思う。解き放たれることのないメロディとハーモニーの美しさがひたすら内向して依存性のある特殊な世界を形作る。この方法論、そう、これはTFCのサイケデリック・アルバムなのかもしれない。
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