とても静かでひそやかなアルバムだ。曲の大半はゆっくりとしたテンポで、どちらかといえば地味な印象だし、唯一アップ・テンポな曲である「サテライト」もそのトーンは限りなく内省的だ。爽やかでキラキラした夏休みの思い出のようなギター・ポップを期待して本作を聴くと肩すかしを食うだろう。ここにあるのはむしろひとつひとつ大事に拾い上げられ、ほこりを払って磨き上げられ、試され、丹念につなぎ合わされた言葉の強さだ。そうやって言葉を紡ぎ出すことに対する山田稔明の妥協のなさがこの作品の本質だ。
日常の中で僕たちが経験するさざ波のような心の動きがどこから立ち上がってくるのかということを山田は息を詰めるような緻密さで確かめようとする。そしてそれをできる限り正確に言葉に写し取ろうとする。そのような感情と言葉の写像に不可避的に内包されている限界、歪みを痛いほど知りながら、山田はそれをすら正直に、生真面目に跡づけようとするのだ。その試みの結晶がこのアルバムであり、雰囲気だけのぞんざいな言葉遣いでありふれた愛や夢を描くソングライターたちに、言葉の持つ本来の力を見せつける。
もちろん、音楽にもそれと同様の注意は払われている。驚くほどくっきりと届いてくる輪郭の確かなメロディ、そしてここしかあり得ないという場所にぴたりと収まっているひとつひとつの音色。これは放縦な才能よりはむしろ言葉や音楽に対する深い愛情と少しでも心象風景のありのままに近づこうとする真摯な態度が生み出した端整なアルバムであり、あてのない魔法ではなく自分の頼りない力のありったけで極点を超えて行こうとする試みだと言っていい。曖昧な記号性の背後に顔を隠したジャケットだけが残念だ。
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