スローイング・ミュージズはクリスティン・ハーシュがタニヤ・ドネリーと始めたバンドである。僕が卒業旅行と称して友達とロンドンへ遊びに行っていた1989年初頭、地下鉄の壁に彼女らのサード・アルバム「ハンクパパ」のポスターがベタベタと貼られていたのを思い出す。クセのある音楽をリリースすることで定評のある4ADは、当時の僕にはまだ「怖い」レーベルだったが、ミュージズは4ADが初めてリリースしたアメリカのバンドだったのだそうだ。たぶん僕が買った初めての4ADのアルバムでもあったはずだ。
その後、タニヤ・ドネリーはミュージズを抜け、ブリーダーズを経てベリーを結成した。ミュージズは1996年のアルバム「リンボ」を最後に活動を休止していたが、このアルバムで久しぶりの復活を遂げた訳だ。昔はもっと歪んでて、もっと怖い感じがしていたのだが、こうして新譜を聴いてみると以外にもシンプルかつストレートな、正道のアメリカン・オルタナティブ・ロックであり、ピクシーズらとともにニルヴァーナ辺りへつながって行くオーガナイザーとしての役割を果たした往年を思い起こさせる。
考えてみればこの人も精神に病を抱えていた80年代から20年にわたってそういうコアな音楽をやり続けてきた訳だが、そういうおばさんがここへ来てこういうラウドでストレートなロック・アルバムを作るというのは何かちょっと凄みというか、ドスの利いたものを感じる。おそらく彼女にとってロックとは、何歳になっても自分自身の生活というか生そのものと切り離せないものなんだろう。結婚しようが子供が産まれようが、自分の歪んだ精神の鏡としてロックを求め続けるおばさん。自分の母にはしたくないが。
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