ビートルズになれるバンドはいない。時代性とか偶像性のようなものも含めて、あのビートルズというバンドの存在感をそのまま再現できるバンドはあり得ない訳だが、それでも時折なぜかビートルズを思い起こさせるバンドというのはある。例えばザ・ラーズがそうだった。リー・メイバースのクセのある節回しが初期のビートルズのポップ・ソングを思わせたのだ。あるいはハウスマーティンズもそうだった。潔い前のめりのビート感がやはり初期ビートルズのコンパクトなロックンロールを想起させたのだった。
このヴァインズも少しビートルズを感じさせる。確かにその音楽的な方向性はラーズやハウスマーティンズに比べるとはるかにヘヴィで現代的である。しかし今どき明快なリフや特徴的なフックのあるメロディラインを聴くと、アニキがこのバンドを語るのにジョン・レノンを引き合いに出していたのも肯けるところが確かにある。この展開力の確かさ、アルバム全体としての完成度の高さは、間違いなくひとつひとつの曲の存在感の強さから来ていると言っていいだろう。中期ビートルズ的な覚醒感がみなぎっている。
若干ハッタリの入った最初の2、3曲になじめれば、後は驚くほどオーソドックスで真面目なギターロックだ。むしろ地味に感じられてしまうくらいシンガーソングライター的でストレートなロックなのだが、ひとつひとつの曲にくっきりとした顔があるので退屈はしない。およそあらゆる種類の音が鳴らされ尽くしたようにさえ思える21世紀初頭にあって、まだギターとベースとドラムと、そして人間の声だけでこれだけの「歌」が紡ぎ出せるということの高らかな宣言であると言っていいだろう。CCCDでなければなあ。
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