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WINNING DAYS The Vines 7竹

ビートルズになれるバンドはいない。時代性とか偶像性のようなものも含めて、あのビートルズというバンドの存在感をそのまま再現できるバンドはあり得ない訳だが、それでも時折なぜかビートルズを思い起こさせるバンドというのはある。例えばザ・ラーズがそうだった。リー・メイバースのクセのある節回しが初期のビートルズのポップ・ソングを思わせたのだ。あるいはハウスマーティンズもそうだった。潔い前のめりのビート感がやはり初期ビートルズのコンパクトなロックンロールを想起させたのだった。

このヴァインズも少しビートルズを感じさせる。確かにその音楽的な方向性はラーズやハウスマーティンズに比べるとはるかにヘヴィで現代的である。しかし今どき明快なリフや特徴的なフックのあるメロディラインを聴くと、アニキがこのバンドを語るのにジョン・レノンを引き合いに出していたのも肯けるところが確かにある。この展開力の確かさ、アルバム全体としての完成度の高さは、間違いなくひとつひとつの曲の存在感の強さから来ていると言っていいだろう。中期ビートルズ的な覚醒感がみなぎっている。

若干ハッタリの入った最初の2、3曲になじめれば、後は驚くほどオーソドックスで真面目なギターロックだ。むしろ地味に感じられてしまうくらいシンガーソングライター的でストレートなロックなのだが、ひとつひとつの曲にくっきりとした顔があるので退屈はしない。およそあらゆる種類の音が鳴らされ尽くしたようにさえ思える21世紀初頭にあって、まだギターとベースとドラムと、そして人間の声だけでこれだけの「歌」が紡ぎ出せるということの高らかな宣言であると言っていいだろう。CCCDでなければなあ。
 

 
きみになりたい。 V.A. ---

ピチカート・ファイヴの小西康陽が「若い」女性歌手たちに提供した曲を集めたコンピである。90年代の仕事を中心に、89年の松本伊代「有給休暇」から2003年の野本かりあ「アデューは悲しい言葉」まで全16曲を収録している。大半の曲は既に廃盤であり音源としても貴重なのは間違いがないが、それだけではなく、とにかく15年近くの間に発表された曲がバラエティに富みながらもどれもこれもきちんと「小西節」であり、アルバム全体として一つのトータルな世界を構築しているのには驚かされる。

野宮真貴が加入してからのピチカート・ファイヴは、それ自身同じ意匠の反復による「焼き直し」の大量リリースでポップ・ミュージックというものの本質を看破しながら、それによって世の中の「ロック的」なるものへの痛烈な反撃を試み、そうした態度そのものがこの上なくロックであるという重層性、多義性を獲得していた稀有なバンドであったし、そうしたすべては本来「ロック的」でも何でもなかった小西の一種の「復讐」に他ならなかった。そんな時期の提供曲には当然同じ種類の毒がある。

ここで語られるのはあまりに陳腐で男に都合のいい「女の子」像である。これはユーザーの年齢層を意識したマーケティングなんかじゃない。小西自身の歪んだ「女の子」像の自然な表れなのだ。たぶん小西は若い頃モテなかったんじゃないか、と僕のガールフレンドは言ってたけど僕もそう思う。そういう個人的なルサンチマンを小西は黙々と晴らし続けているのだ。このコンピの「凄み」はこれがそうした小西の骨髄の恨みから発していること。野本の「アデュー」は別格として、細川ふみえがいい。
 



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