スローライフとかスローフードとかいう言葉が流行ったのは最近のことだが、とにかく時間に背中を押されるみたいなあわただしい生活をちょっと見直そうという考え方は少しくらい根づいたのだろうか。すごいスピードで働き、歩き回り、メシを食い、休みの日ですら人混みに飛びこんでレジャーをこなし、そんな忙しい毎日が、しかし、人間としての本当の豊かさとか幸せというものと何か関係があるのだろうか、というその疑問は確かにすごくまとものなものだ。日本という国もようやくそこまで成熟したのか。
もちろんそんなことはない。スローライフもスローフードもただのスローガンに過ぎない。そんな雑誌の特集や活字の大きい新書をありがたがっていること自体が全然スローじゃない証拠だ。僕なんかはむしろ、よくみんなこんなギリギリのヤバいところでスローダウンできるなと不思議になってしまう。スローに生きられるに越したことはないのかもしれないが、僕の毎日はもっとテンパっているし、僕の生きるスピードそのものがあわただしいのだから仕方がない。ウソ臭いスローライフなんてまだまだ先の話だ。
本当に豊かなスローライフを過ごしたいのなら少なくとも日本に住んでいる限りまずムリだろう。どんな田舎に逃げても、社会の回転速度自体が速すぎるのだからそこから完全に自由になるのは難しい。アメリカもヤバい。おそらくヨーロッパ辺りがそういう意味ではいちばん文化的に成熟しているんじゃないかと思う。本当に、今ここにあるもののささやかな反射光の中に生きる意味を見つけたいと思うなら、それくらいの覚悟がないとやって行けないはず。そう、グラスゴーなんかはちょうどいいかもしれないな。
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