logo 2004年3月の買い物


RAMSHACKLE BEAUTY Daniel Wylie 7松

アラン・マッギーがクリエーション・レーベルを離脱して新しく始めたポップトーンズからアルバムを発表していたコズミック・ラフ・ライダーズのソングライダーでありリード・シンガーであったダニエル・ワイリーがソロとして発表したファースト・アルバムである。コズミックスがワイリー抜きで制作した最新アルバムは昨年7月にレビューしておりそれも参照して欲しいが、要はティーンエイジ・ファンクラブに代表されるグラスゴー系ネオアコ、ギターポップの今日的展開の最前線である。

コズミックスの新譜についてはちょっとシニカルな書き方をしてしまったが、このダニエル・ワイリーのアルバムを聴いて僕はもうこの音楽が何をキックしようとしているのかなんてどうでもよくなってしまった。というかそういうことを考えること自体がアホらしくなってしまった。なぜならこうした「永遠の夏休み」体質そのものが彼の(あるいは彼らの)業なのであり、これ以外のことはできないのであり、そうやって永遠の夏休みを生き続けなければならないということ自体が既にロック的だからである。

もちろんこのアルバムもそうした意味での宿命的な永遠の夏休みである。終わらない思春期でありキラキラした木漏れ日の思い出である。もちろん僕たちはグラスゴーの子供ではないのだからそんな夏休みはどこにもなかったかもしれないが、にもかかわらずこの音楽を聴いたときに目の前に鮮やかに広がるイメージの強力な喚起力は巧みなソングライティングとサイケの流れを汲むカラフルなアレンジの賜物だ。フリッパーズやプライマルズのように強引に夏休みを終わらせられない弱さこそが僕たちに切実に響く。
 

 
DOWN AT THE HOP BMX Bandits 7竹

スローライフとかスローフードとかいう言葉が流行ったのは最近のことだが、とにかく時間に背中を押されるみたいなあわただしい生活をちょっと見直そうという考え方は少しくらい根づいたのだろうか。すごいスピードで働き、歩き回り、メシを食い、休みの日ですら人混みに飛びこんでレジャーをこなし、そんな忙しい毎日が、しかし、人間としての本当の豊かさとか幸せというものと何か関係があるのだろうか、というその疑問は確かにすごくまとものなものだ。日本という国もようやくそこまで成熟したのか。

もちろんそんなことはない。スローライフもスローフードもただのスローガンに過ぎない。そんな雑誌の特集や活字の大きい新書をありがたがっていること自体が全然スローじゃない証拠だ。僕なんかはむしろ、よくみんなこんなギリギリのヤバいところでスローダウンできるなと不思議になってしまう。スローに生きられるに越したことはないのかもしれないが、僕の毎日はもっとテンパっているし、僕の生きるスピードそのものがあわただしいのだから仕方がない。ウソ臭いスローライフなんてまだまだ先の話だ。

本当に豊かなスローライフを過ごしたいのなら少なくとも日本に住んでいる限りまずムリだろう。どんな田舎に逃げても、社会の回転速度自体が速すぎるのだからそこから完全に自由になるのは難しい。アメリカもヤバい。おそらくヨーロッパ辺りがそういう意味ではいちばん文化的に成熟しているんじゃないかと思う。本当に、今ここにあるもののささやかな反射光の中に生きる意味を見つけたいと思うなら、それくらいの覚悟がないとやって行けないはず。そう、グラスゴーなんかはちょうどいいかもしれないな。
 

 
ANSWER スーパーカー 7松

スーパーカーといえば何といっても「ラッキー」に尽きるよねという僕はおそらく反動的なスーパーカー・ファンの典型みたいなものなのかもしれないが、3枚目、4枚目のアルバムがその完成度の高さ、音楽性の先鋭さにもかかわらず心に残らなかったのは、おそらくそれに耐えて僕自身の日常とひとつひとつ突き合わせてみるだけの体力が僕になかったからなのかなと思ったりもして、別に当時より体力が回復した訳でもないとは思うけど、取りあえず旧譜もiPodに入れてみたいような気分にはなったものだ。

だって「ハイヴィジョン」なんかは買ったものの数回聴いてレビューもせず放置してたんだよなということを思い出して、その辺の文脈をきちんと把握しないままこのアルバムを聴いても意味がないんじゃないかと考えつつ、通勤電車でダラダラとこのアルバムを何回か聴いていると、覚醒感というかあるいは逆に混濁感というか、妙にはっきりしていてこれは夢だと分かっている夢を見ているような、そんな感じがしてくることに気づいて僕は、そうだ、スーパーカーというのはこういうバンドだったと思い出した。

前2作に比べればいくぶん直接的になっており、意外にギターの効いたロックやスローな歌ものもあるけど、だからといってそこに何か親密なものがあるかというとそんなものはもはや微塵もなく、要は不穏な不協和音、あらかじめすべての知ったかぶりや冷笑をさえ拒否するような硬質のコミュニケーションだけがそこにあって、そのためにリスナーは高いテンションを保ったままこのアルバムに向かい合うことを強いられる訳であり、この、何というか気位の高さこそがスーパーカーなのだということだろう。
 

 
DELIVERANCE Cosmic Rough Riders  
TO EACH... A Certain Ratio  
SHOOT SPEED (MORE DIRTY HITS) Primal Scream  
EACH TIME 大滝詠一  
色色衣 スピッツ  



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