● 刹那 小沢健二 |
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この選曲を見たとき、何じゃそりゃ、と思った人も多かったことと思う。「戦場のボーイズ・ライフ」も「Buddy」も「ある光」も「ダイスを転がせ」も入ってない。何よりあの「恋しくて」が入ってないじゃないか。確かに「恋しくて」はバングルスの「マニック・マンデー」をサンプルしたチープなバックトラックの他愛ない曲だ。「痛快ウキウキ通り」や「さよならなんて云えないよ」や「流星ビバップ」みたいにいきなり生の意味に肉迫するような完成度、高く舞い上がる力は望むべくもないかもしれない。
だけどあれは僕の大好きな曲だったのだ。別れてしまった恋人のことを四六時中思い出して泣きたくなる訳じゃない、ただ「思い出すたび何か胸につっかえてるだけ」という歌詞のリアルさや、間奏に入る前の「ベイビー」というシャウトの頼りなげな男の子っぽい哀しさやせつなさに僕は何度も涙したのだ。小沢健二は一切の手続きを省いて真実を露わにする文学性と同時に、極めて俗っぽい少年性や恋愛観を持っていたし、その肉体性の裏づけがあればこそ彼の文学性もまたリアルに響いたのに他ならない訳だ。
もちろんここに収められた「痛快…」や「さよならなんて…」、「流星…」にもそうしたキラキラ感は横溢している。だからこのアルバム単体で聴いてもこの時期の小沢が持っていた特別な輝きのようなものは十分に堪能することができるだろう。おそらくはこのアルバムをリリースすることで小沢はそれ以外の音源を封印することにしたんじゃないかと思う。しかし過ぎ去った少年期をなかったことにすることはできない。あの時「ベイビー」と叫んだ灼けるような胸の内からの連続性をこそ見せて欲しかった。
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● THE FABLE SESSIONS Shack |
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長い沈黙を破ってリリースされた1999年の「H.M.S.Fable」はその年のNMEのベスト・アルバムになったが、実はそのアルバムのレコーディングに先立って彼らはプロデューサーのヒュー・ジョーンズとともにスタジオに入り、アルバム1枚分のレコーディングを終えていた。バンドとプロデューサーのいさかいがもとで放棄され、封印されたそのセッションのテープをリリースしたのがこのアルバムである。こういうのがこっそり出るんだからいつも行くショップでも必ず「シャック」のコーナーをチェックしててよかった。
「H.M.S.Fable」は素晴らしいアルバムだった。マイケル・ヘッドのソングライターとしての能力と、華麗なアレンジがなんのためらいもなくストレートに開花していたし、何より素晴らしかったのはそうした美しさが浮世離れしたものに響かず、かき鳴らされるギターによってきちんと僕たちの美しくない日常と接地していたことだ。去年のアワードで大賞になった最新作より内容的には「H.M.S.Fable」の方が断然いいのだが、まあ、去年のは99年の大賞を同点だったトム・ウェイツにやった埋め合わせということで。
で、この「失われたセッション」の方だが、これがまた捨てがたい。「H.M.S.Fable」より暗く、難解な部分はあるが、マイケル・ヘッドの書く曲の美しさはリリースされたアルバムとまったく変わらないし、むしろその荒々しいむき出しの力は僕たちの胸の中の柔らかい部分をいきなりわしづかみにする直接性を孕んでいると言っていい。そしてこれを聴いてからもう一度「H.M.S.Fable」を聴くと、その美しさの意味がいっそう際だってくる。適当なタイトルでこっそり新譜としてリリースしてもよかったかも。
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● ONCE LIKE A SPARK Jetplane Landing |
7竹 |
イギリスのバンドだと知って驚いた。ファーストをジャケ買いした行きがかり上、このセカンド・アルバムも一応買ってはみたものの、どうもそのアメリカン・ガレージ的というかエモ的というかそういうノリ一発パンク魂みたいなものになじめずにいたのだ。ファーストの時も確かにギターはガシガシ鳴ってたような記憶はあるが、もうちょっとポップというか僕の腹に入って来るものがあったのになあ、でもそれは時折マイナー調になるメロディの運びに残ってるかなあ、とか何とか思っていた。
だが、何度か聴くと、ガシガシのギターのハメの外し方というか、激しさの行儀がとてもいいのに気づかずにはいられない。おらおら、こんな世の中やってられないぜ、ガツンと一発ぶちかまして全部ブチ壊そうぜ的な、大雑把でアメリカンな、そしてその大雑把さの温度をひたすら上げて行くことで奇跡のような正面突破が生まれてしまうような体力勝負とは少しばかり違う次元でギターが内省的に鳴っている訳だ。そういえばファースト買ったときもレコード屋のアオリにUKと書いてあったかな。
激しいのに内省的なギター、というのは語義矛盾のように聞こえるかもしれないが決してそんなことはない。ジーザス&メリーチェインを、ライドを思い起こしてみればいいのだ。外向性や攻撃性の性能を上げることがアメリカンなエモの方法論であるとすれば、この内部に沈潜するようなベクトルはやはり湿っぽい土壌から出たものだと納得してしまう感じ。最近のロックンロール・ブームに乗るには華々しさが足りないが、そんなものに乗ってもらう必要もない、生真面目なギターロックだと思う。
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● WAITING Fun Boy Three |
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● SPLIT MILK Jellyfish |
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● SINGLES, VOLUME 1-3 Elvis Costello |
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● IDLEWILD Everything But The Girl |
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● OUT OF TIME R.E.M. |
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● ECHO & THE BUNNYMEN Echo & The Bunnymen |
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● CROCODILES Echo & The Bunnymen |
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● HEAVEN UP HERE Echo & The Bunnymen |
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● MODERN LIFE IS RUBBISH Blur |
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● ULTRA MODERN NURSERY RHYMES Terry, Blair And Anoushka |
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● MORE SONGS ABOUT BUILDINGS AND FOOD Talking Heads |
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● REMAIN IN LIGHT Talking Heads |
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