logo 2003年4月の買い物


JETSTREAM LOVERS Captain Soul 8竹

ギター・ポップという表現の本質を損なわないままコンテンポラリーな問題意識でその方法論を更新して行くことは難しい。キラキラしたギターと甘いメロディがあるだけではそれはギター・ポップの残骸に過ぎない訳であり、そんなふうにギター・ポップという記号の表面をなぞってもそれは墓を暴いて死体を掘り返すだけの意味しかない。自らの営為をそのように看破し敢えてそれを歌ったフリッパーズ以降、その行為に墓暴き以上の何かを付け加え得たバンドはないと言っていい。世界中探しても、だ。

このキャプテン・ソウルのデビュー・アルバムもそんなギター・ポップ自家中毒症のひとつだったと思う。もちろん僕たちは今は死に絶えてしまったギター・ポップの美しい残骸を拾い集めて抱きしめることもできる。そして実際に少なくないバンドがそうした死体愛好者の手によって生かされてきた。時間の止まった永遠の夏休みの中で僕たちはどこにも行き着かないモラトリアムのソーダ水をテーブルに並べ続けた。その間にも僕たちは容赦なく年をとり続け、少しずつ死に続けていたというのに。

だが、このセカンド・アルバムは少しばかり感触が違う。ここには予定調和的なギター・ポップの枠をはみ出して僕たちに語りかけてくる攻撃性がある。意外なほどギターが力強く鳴っているし、風のように吹きすぎて行くメロディが聴き終わった後の心に何かを残して行く。オーソドックスなポップ・ソングのフォーマットを忠実に踏襲しながら、2003年のユース・スピリットみたいなものを確実にそこに盛りこんでいるのだ。画期的なアルバムではないが、ギター・ポップがまだ戦えることを示した作品。
 

 
ELEPHANT The White Stripes 8梅

相変わらず強い。前作をレビューしたのは去年の7月頃だったと思うが、その後、こいつらは日本でも大きくフィーチャーされ、このアルバムは都心の外資系大型CD店では山積みだった。僕は前作の時、これはロックだと断言したものだが、今作を聴いたらやっぱりこれはどうもブルースじゃないかという気がしてきた。音楽的にはむしろとっつきにくくなっているかもしれない。だってだいたい編成がギターとドラムだぜ。あの山積みのCD、コアな洋楽ファン以外だれが聴くのよ。楽しくないだろ、これ聴いても。

もちろん表現の強度という意味ではこれは前作にも増して傑作だと思う。有無を言わせず「聞かせる」吸引力と喚起力。このシンプルでイレギュラーな編成のバンドのどこにそれほどの奥行きが備わっているのかと思わせる強引なまでの普遍性。これはただ一人で深い井戸の底に降り立ったことのある者だけが鳴らすことのできる強い音楽だ。闇の中で自分の歌うべき歌を探し求めたことのある者だけが歌うことのできる歌だ。だからこそ歪んだギターのリフひとつが驚くほどまっすぐ僕たちに届くのだと思う。

オルタナティブという言葉が、メインストリームの存在を前提にしながらそこに決して包含され得ないもうひとつの世界の存在を示唆するものだとしたら、このアルバムこそはオルタナティブなものだ。決してシーンをリードしたりシーンの中心になったりすることのない、そんなことをするべきでもなくそんな必要もない、複線的で脱制度的な世界観の担い手としての変てこなブルースでありロックンロールである。そうした二つの世界を往復しながら僕たちの耳は少しずつ豊かに、柔軟になって行くのかもしれない。
 

 
EVERGREEN REVIEW Georgie Fame  
IS THIS MUSIC? V.A.  



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