logo 2003年3月の買い物


BREAK ROCK Scoobie Do 7松

小ぎれいでさっぱりとして口当たりもお行儀もいいロックにはもう飽き飽きした。過不足なく盛り上がり終わった後には何も残らないスポーツのようなライブにはもううんざりだ。君がそんなもので満足できるのだとすれば、君が日常の中で抱えている苛立ちや怒り、切なさや悲しさが、所詮その程度の平板でありきたりのものでしかないということなんだからな。違うだろ、君が理由もなく目を覚ましている夜中の2時頃にどこからともなく湧き上がる説明のつかない衝動はもっと異様でグロテスクでどうしようもないものだろ。

だからロックは本来カッコ悪いものなのだ。肥大した自意識が出口を求めてやみくもに暴発する様子は滑稽だし醒めた目の第三者的に見ればイタいとしか言いようがない。だがそのイタさを小ざかしく先回り的に避け続けた結果が行儀のいいスポーツ・ロックなのだとしたら、僕たちの聴くべきロックはむしろそのイタさをものともしない正面突破の方向にこそ見出されなければならないだろう。ロックは見るものが傍観者的な薄笑いを浮かべる余裕などないくらい圧倒的で確信に満ちた自意識をたたきつけなければならないのだ。

いなたい白ジャケット、ベタなMC、けれん味たっぷりのボーカル、このスクービー・ドゥのパフォーマンスも第三者的にはかなりイタい。しかしイカ臭い初期衝動をこれだけ不敵にたたきつけることのできる確信の強度には揺るぎがないし、それを裏づける音楽的骨格も驚くほどしっかりしている。黒っぽいグルーヴの上に構築されたスピード感のあるビート・ポップといえば正統派モッドだが、スカしたスタイル先走りのモッドであるよりは腰にくるダンス・ビートとしての実用性の高さがこのバンドのカッコよさ。ステキだ。
 

 
SABRINA HEAVEN Thee Michelle Gun Elephant 8梅

初めてミシェルを聴いた時の衝撃は忘れない。一時帰国したときに寄った心斎橋のレコード屋で、僕はチバのただごとではないボーカルに一発でやられてしまった。ロックというものが本来持っているべき危うさとかヤバさみたいなものが文句なくそこにあると僕は思った。とりあえず昨日の続きの今日を肯定しながら毎日を転がっている僕に、彼らのロックンロールは鋭い先端を突きつけていた。鳴るはずのない非常ベルが鳴っている、何か起こってはいけないことが起こっている、そんな気持ちにさせる不穏さだったのだ。

だけどある時期から僕はミシェルを真面目に聴かなくなった。それは彼らのすさみ方が結局ありがちなチンピラ・ロックに見えてきたからだ。チンピラ、暴走族でも「狂い咲きサンダーロード」辺りまで行けばそれはそれですごいが(あの映画の後味の悪さもただごとじゃなかったよな)、それが長渕剛的な自足を見せるのならそれはもう僕が聴きたい音楽ではないと僕は思った。破れかぶれなハイテンションがスタイリッシュなモッズ的世界観に裏打ちされていればこそ、僕はそれをロックという名の下に認め得たのだから。

今作でミシェルはいつの間にか音楽的な幅を獲得している。「太陽をつかんでしまった」を聴けばそれは明白だ。かつての無謀なまでのテンパり方とスピードを考えれば、彼らがこんなに音楽的な場所に着地できたのは一種の奇跡のようにも思える。そしてチバの切羽つまったボーカルはそうした場所でも相変わらず非常ベルを連打し続けている。脳みそが溶け出して耳や鼻から流れ出してきそうな時代に最もビビッドに響くロックンロールはこれでしかあり得ない。身体中の液体がぶくぶく沸騰している人のための音楽だ。
 

 
BOOMSLANG Johnny Marr & The Healers 7梅

ザ・スミスは聞き手を厳しく選ぶバンドだったと思う。音楽的にはまったくオーソドックスで美しいギター・ポップなんだが、モリッシーのあの念仏ボーカルはそれに呼応するコードを自らのうちに持たない者には高いハードルだった。ジョニー・マーは自分の音楽的才能のすべてを傾注してモリッシーの言葉を我々の共通言語に翻訳しようとしたのだったし、それによってザ・スミスは他に類のない高い音楽性を獲得した訳だが、結局のところ我々の脳裏に焼きついたのはモリッシーの「あの声」だった。

僕はかつてザ・スミスはジョニー・マーによるモリッシー救済の音楽だと書いたが、そういう意味ではジョニー・マーは霊媒のようなものであった。彼は媒体(メディア)としてどこまでもポップな曲を書き、この上なく美しいギターを奏でたのだ。あれから10年以上、ザ・ザ、エレクトロニックを経て、今、自らのために音楽を鳴らし始めた彼の最初のアルバムがこれだ。そして驚いたことにジョニー・マーはここで自ら歌っている。少し頼りなげで、しかしあくまでまっすぐで誠実な、これが彼の肉声だったのだ。

ここで聞ける彼らの音楽はとても肉体的だ。そしてジョニー・マーのギターはとても奔放に鳴っている。一方でとても真面目にポップ・ミュージックとしてのフォーマットを守っており、ギタリストのプロジェクトにありがちな、演奏能力は高いが音楽としてはからっぽ、みたいな駄作感はまったくないと言っていい。もちろんモリッシーの「声」に匹敵するような記名性がどこかにあるかと言えばそこまでのテンションは見当たらないかもしれないが、初めて自分の名前でアルバムを出したこと自体を僕は買いたいと思う。
 

 
HOW DO YOU LIKE IT? Gerry And The Pacemakers  
SONGS FROM THE MATERIAL WORLD V.A.  



Copyright Reserved
2003 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com