logo 2003年1月の買い物


THE CORAL The Coral 7竹

英国ポップの系譜というのがあって、それは例えば雑誌「ストレンジ・デイズ」なんかが好んで取り上げそうなバンドとでも言えば分かる人には分かってもらえるんだろうけど、例えばXTCとかスクィーズとか、10ccとかデフ・スクールとか、ロイ・ウッドとかELOとか、そういう少しひねりの入った、一筋縄では行かないマニア好みの音楽のことを一般に指している。そこにはノリ一発のロックンロールとはまた違う、深い音楽的素養やポップ音楽の歴史への愛情と造詣に裏づけられたひそかな愉しみがある。

しかし、そういう系統の音楽の深奥に分け入って行くと、確かによくできているしレベルは高いかもしれないが、ロックとしての突破力がいつの間にか消えてしまっているような例に出会う。そこにはロック音楽が本来備えているべき雑種の強さとか猥雑さみたいなものが時として欠落している。もちろん先に名前を挙げたようなバンドはロックの訴求力とポップの深みを兼ね備えている訳だが、そういう音楽がややもするとチマチマした箱庭みたいなせせこましいものになってしまいがちなのは事実だと思う。

リバプール出身の新人コーラル。こいつらは過去の音楽的遺産をきちんと踏まえた英国ポップ系の音作りをしているのだが、それが理論的に整理されて戦略的に構築されているというよりは、雑多なまま血肉化して猥雑で原初的な躍動感、生命力に昇華されていると評していいだろうと思う。愛好家の狭い鳥かごの中で愛玩されるより、堂々と表通りで放し飼いにしたい力強さと面白さを持ったバンドだ。まあ、もっとも表通りを歩いている普通の人たちは少しばかりイヤな顔や変な顔をするかもしれないが。
 

 
UP THE BRACKET The Libertines 7竹

ロック業界にももちろん流行があって、最近はストロークスに代表されるようなロックンロール路線が主流なのだそうだ。そういえば日本でも「ぶっちゃけ」が若い世代の多用語になっているようで、要は率直にガツンと行ったものの勝ちだということなのかもしれない。世の中の回路が洗練されればされるほど逆にコミュニケーションとしての率直さが復権するというのも奇妙な話のように思えるが、食品業界や原発業界を見れば、何かをごまかしたり隠したりすることが難しくなりつつあるのもまた事実なのだろう。

もっとも、そこで求められる率直さの質量というのは決して牧歌的に呑気なものではない。企業が不祥事を起こしたときのことを考えれば分かるが、それは単に率直であればいいという訳ではもちろんなく、もうこれ以上後はないというギリギリの地点まで自分を追い込んで本当にそこに残ったものから出てきた言説なのかということが厳しく問われているのだし、それはごまかしようのないものだ。ロックとはもともとそういうものだが、ストレートなロックンロールでそれを実践し続けることは容易ならざる作業だ。

ストレートなロックンロールで後のないギリギリの言葉をたたきつけるというのは結局パンクのやったことに他ならない訳だが、ここではピストルズやクラッシュが持っていた時代性、ことさらな反抗のようなものよりも、さらに僕たちの日常に近い「率直さ」が表現の核心をなしていてそれがとても新しい。あるいはそれは、あらゆるアティチュードが消費され尽くしてきた後の、最後のパーソナリティまでもを僕たちが消費し始めたということなのだろうか。ストロークスに対するイギリスからの答えと言っていい。
 

 
RED LETTER DAYS The Wallflowers 7松

何度も言っていることだが、僕はアメリカのバンドをあまり聴かない。もちろんアメリカにもいいバンドがたくさんいることは知っている。だけど例えば雑誌の記事を読んでこれはよさそうだと買いに出かけても、レコード屋の店頭の推薦文でアメリカ産だということが分かると急に買う気が失せたりするのだ。我ながら理不尽だと思うが、まあ、個人の好き嫌いに論理的な一貫性がなければならないという決まりはないので仕方がない。自分でカネを出して買うCDを自分の好き嫌いで決めて何が悪い、ということだ、結局。

例えばこないだボックスセットを買ったライド。あのかたくなで無愛想な、幅の狭い音楽を僕は愛している。少年期の終わりに特有の潔癖な世界観の青臭い結晶みたいな、あらかじめコミュニケーションを拒否した壁のような音楽。ああいう音楽はアメリカでは出てこないものだと思うし、出てきてもあんなふうには認められないんじゃないだろうか。僕にはアメリカのバンドがおしなべてたたえている熱量のようなものが時として鬱陶しく思える。そこにシャイでいることを許さないような圧力みたいなものを感じるのだ。

このウォールフラワーズ、実はアメリカのバンドと知らずに買ったしまった。確かなバックボーンの存在を感じさせる奥行きのあるソングライティングだし、オーソドックスな音作りの中にエモーショナルなグルーヴを備えたスケール感のあるバンドだと感心したんだけど、アメリカ産だと知って、なんだ、そういうことかと少しがっかりした。この音がアメリカから出てきたのかイギリスから出てきたのかでは意味合いがまったく違うということ。アルバムとしては素晴らしいし、だからこそ僕はアメリカが嫌いなのだ。
 

 
THE VERY BEST OF THE STONE ROSES The Stone Roses  
I AM SAM V.A.  



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