例えばアンディ・パートリッジとかトッド・ラングレンとかだと、資質としてはとてもポップでキャッチーなフレーズを持っているのに、それをことさらに気難しげなイディオムの奥に隠してしまうことが多い。リスナーはその一瞬の「ポップの残像」を追い求める間に彼らの音楽の奥深さを知らず知らずに体験する訳だが、そのためには一種のディシプリン(修練)が必要な仕掛けになっていて、素直にポップ・チューンだけを楽しませてもらう、美味しいところだけをつまみ食いするという訳にはなかなか行かないのだ。
BDBも同じような人かと思っていたら前作「ABOUT A BOY」(同名映画のサントラ)はかなりストレートにポップな出来で意外だったのだが、それから数ヶ月のインターバルでリリースされたこのオリジナル・アルバムはさらにゴージャスで美しいポップに仕上がっており、ファースト・アルバムで僕が感じた、どうしてもひとひねり入れずにはいられない偏屈ポップ職人気質みたいなものは思い違いだったのかと一瞬戸惑ってしまった。もしかしたらこの人は本当にポップ・ミュージックの好きな、人のいい吟遊詩人なのかと。
だが、このアルバムを何回か聴いているうちに、そんな心配は無用だということが分かるだろう。むしろポップな表層の奥にこそ、サブリミナルな歪みやひねりが横たわっているのだ。それはおそらくこの人自身が気難しいとか偏屈だとかいうのではなく、素直にポップ・ミュージックを作ろうとしながらもそのようなある種の破綻が不可避的に忍びこんでしまうという運命的な資質の問題であるはずだ。そうした重層的な構造がポップという一点でコマーシャルに結実した傑作だと言い切ってよい。買ってよかった。
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