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HEATHEN CHEMISTRY Oasis 8梅

端的に言って音楽的には何の価値もないアルバムだ。ここにあるのは既にずっと昔に死に絶えたロックの残骸に過ぎない。それは彼ら自身ですら10年も前に一度通り過ぎた道だし、そこには新しく始まるものは何もないのだ。もしあなたが本当に真面目にロックというものと向かい合い、その言葉の意味するものを問いたいのならこのアルバムを聴くべきではないと思う。ここには答えはない。どんな問いに対する答えもここにはない。これはそんなものを求めるだけ無駄なアルバムだ。

そう、オアシスというのは初めからそういうバンドだったのだ。彼らはもともと「答え」とは無縁な存在だったのだ。だが、だれがそんな「答え」を欲しがるだろう。そんなものを欲しがっているのはロックは何かに答えなければならないと思っている評論家だけかもしれない。ロックは変化し続けなければならないと考えている進歩主義者だけかもしれない。ここにあるのは恐るべき停滞であり、大いなる思考停止なのだが、僕たちはそれをこそカネを出してまで買い続けてきたのだ。

この作品でノエルはオアシスが進歩と無縁のバンドであることをついに看破したし、それでいいのだということを明確に意識していると思う。音楽的に無価値であることがオアシスの存在意義であるということをこのアルバムは証明している訳だ。僕はこのアルバムを繰り返し聴き続けるだろう。音楽的に何の価値もないからこそ、オアシスのアルバムとして聴くに値するのだ。ゲムの書いたM3を聴けばこの作品が普遍的な意味を持つ「オアシスのアルバム」であることが分かるはずだ。
 

 
EVIL HEAT Primal Scream 9梅

前作「XTRMNTR」は世界の変容をロック化したという点でその音楽的位相に関わりなく重要な作品だったが、今作はそれに比べると格段に「音楽的な」アルバムだと言うことができる。だがもちろんそれはこの作品が「安心して聴ける」ロック・アルバムだということではない。凶暴さはさらに膨張し、トリップはさらに加速しているのだが、それがケヴィン・シールズやアンディ・ウェザオールの力で一つの音楽としていわばすごく強引に統合されているということだ。

ボビーというヤツは音楽的自殺志願者であり既に彼岸を見てきた男だと僕は何度も書いてきた。多くの自殺志願者が実際には最も生きたい人たちであるように、ボビーもまたロックの死を強く夢見ながら現実には最も深くロックの再生という物語を信じているのだし、その物語を生きるためには今どれだけのスピードが必要かということをだれにも真似のできないやり方で本能的に認識している。このアルバムはそうした彼の認識が2002年という時代と先鋭的に共鳴した結果生まれたものだ。

サイケデリックという言葉を、すべての「かくあるべし」という規範を取り除いた後に残る原初的な意識のほとばしりであると定義するなら、このアルバムは間違いなくサイケデリックだし、それがロックとして結実したことはまさに奇跡のようなできごとだ。仮にロックが宿命的に進歩というテーマから逃れられないのだとしたら、その答えを知っているのはボビーとケヴィン・シールズだけかもしれない。2000円でこのアルバムが買えるのはどんな価格破壊よりすごいことだ。
 

 
THE REMOTE PART Idlewild 7松

正直言って前作の時はあまりいい印象がなかった。真面目にやってることはよく分かったし曲も悪くなかったが、これだ、と人の手を止めて曲に聴き入らせるだけの運命的なモメントが足りない、というようなことを僕はレビューに書いたと思う。もちろんそれは曲に派手さやハッタリが足りないという単純なことではなく、聴き手に何かの決断を迫るような有無を言わせぬ切迫感というか胸の中心に直接ヒットする緊張感みたいなものが足りなかったということ。

それは曲の調子の良さとかビートの激しさとはまったく違った次元のものだ。例えばギター一本でもいきなり心のどこか深い部分をわしづかみにする音楽というのは間違いなく存在する。どんなににぎやかでポップでも終わった途端に忘れてしまう曲もある。そして僕がロックを聴くのは結局そうした訳の分からない喚起力や説得力に出会いたい、その本質を見極めたいと願っているからに他ならない。「いい人」がやっている「いい曲」になんて何の意味がある?

ところがこのアイドルワイルドの新譜はどうだ。レビューを書こうと何度繰り返し聴いても僕の中に「印象」を残してくれなかった前作に比べて、くっきりと際立った曲毎の陰影と輪郭、エモーショナルでリリカルなメロディ、何よりオレたちがアイドルワイルドだという強い自信と確信がアルバム全体から聞こえてくるようだ。このアルバムが今ひとつなら次からは買うのをやめようと思っていたがこれは買ってよかった。立派な「ロック・アルバム」の誕生だ。
 

 
THE VERY BEST OF ELVIS COSTELLO Elvis Costello  
GENTLE GUITAR DREAMS V.A.  
KINKY BOOT V.A.  



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