logo 2002年5・6月の買い物


STORYTELLING Belle & Sebastian 5竹

僕はこれまでベルセバを高く買ってきた。今ここにないものへの強い憧れ、僕たちがなかったことにしてしまったものたちへのレクイエム、それは日常に取りまぎれながら忘れて行く自分を許そうとする僕たちへの強烈な一撃だったし、だからこそ彼らの音楽は常に限界まで張りつめながら僕たちにそれを愛するか嫌うかの明快な二者択一を迫っていた。それは僕たちが失い続ける永遠の少年期を切り取ってピンで止めるような生々しく痛々しい営みだったし、僕はそれを支持してきたのだ。

このアルバムはサントラでありこれまでの彼らのオリジナル・アルバムとは異なる。ボーカルの入ったトラックはほんの数曲しかないし、映画のワンシーンだと思われるセリフなんかも随所に挿入されている。だが、それを割り引いてもこのアルバムは僕にはまったく物足りない。そこには何かを拒絶することで自分の切っ先の鋭さを確認するしかなかったあのギリギリの潔癖さのようなものはもう見当たらない。残念だがここにあるのは穏やかで緩やかな、ありふれたムード音楽でしかない。

もちろんこのアルバムだけで結論を出す訳には行かないが、ベルセバというバンドが何らかの転機にさしかかっているのは確かなことのように思われる。だがこれまで彼らが作り上げてきたイメージはあまりに鮮やかすぎるし、それを裏切りながら成長するにはこのバンドはナイーブすぎるのではないのかと僕は心配してしまう。というより成長を拒絶したブリキの太鼓みたいな頑なさこそこのバンドの力だと思うのだ。コアなファン以外は買う必要のないアルバムと言っていいだろう。
 

 
MURRAY STREET Sonic Youth 8竹

素晴らしい作品だと一言書いて終わりにしたいアルバムだ。ソニック・ユースといえば前衛的な実験音楽に傾倒してよく分からない「コワい」音楽を作るバンドというイメージが強いかもしれないが、そういう先入観を抱いてこれまでソニック・ユースを敬遠してきた人が入口として聴くには悪くない。このアルバムでは彼らの(というかサーストン・ムーアの)ロック、ロックンロールに対する憧憬が実にストレートに、明快に表れていてごく当たり前の意味で「聞き易い」からだ。

とはいえもちろんそこはソニック・ユースのことだから「コワめ」の味つけも効いているしノイズも確かに入っている。それはもう人間でいえば持って生まれた「性格」のようなものだから変えようがないのだ。だが彼らがロックに向かい合う姿勢は他に比べるもののないほど純粋で真摯だ。なぜなら彼らはこれまでロックであることをいったん拒否した場所からどんな音楽を鳴らすべきかということを追い続けてきたバンドだから。そしてその答えがこの「ロック・アルバム」なのだ。

それはパラドックスかもしれない。だがサーストン・ムーアは自分がそのように所詮は「ロック」からは離れられないことを知りつつ敢えて遠くまで虹を探しに行ったのだと思う。そのような過程を経て今こうして再び鳴らされるロックにはとてつもない「凄み」がある。それは長い間ひたすらロックンロールだけを鳴らしてきたストーンズなんかの「凄み」とはまた違ったものだ。系譜としては「ダーティ」に繋がるが、これまでの作品のどれがなくてもここにはたどり着かなかった。
 

 
ALICE Tom Waits 7松

このアルバムはハンブルグで93年に初演されたミュージカルのスコアを新たにレコーディングしたものだそうだ。だからここに収められた曲はどれも10年近く前のものなのだが、この人に限ってはそんなことはどうでもいいと言う他ない。どんな歌を歌おうと、彼が歌う限りそれはトム・ウェイツという音楽でしかあり得ないからだ。だれもトム・ウェイツのように歌うことはできない。彼が歌い始めたら、僕たちにできるのはただ耳を傾けることだけだ。それがトム・ウェイツなのだ。

作品そのものとしてのテンションは前作「ミュール・バリエーションズ」の方が高かったと思う。この作品では我々はもう少し自由に、リラックスしてトム・ウェイツの歌を聴くことができる。それはトム・ウェイツが自らいったん過去のものとした作品を10年近く後になって再発見し、レコーディングした経緯によるものかもしれない。その間に個々の曲は熟成し、彼自身の中でもこれらの曲の持つ意味合いが一層はっきりしたはずで、それがある種の余裕になって現れているように思う。

ここでの彼は実に自由に、実にのびのびと歌っているように聞こえる。あるいはとても無邪気に歌っていると言ってよいかもしれない。我々が「楽しい」とか「優しい」とかいう言葉を普通に使うのとは最も遠い意味で「楽しい」アルバムだし「優しい」音楽だ。人の一生の大部分は取るに足りない泡のような感情の起伏に過ぎないが、このアルバムはそんな劇的でない日常にこそ最も劇的な意味があるのだということを明らかにしている。同時発売の「ブラッド・マネー」も買って損はない。
 

 
BLOOD MONEY Tom Waits  
21SINGLES 1984-1998 The Jesus And Mary Chain  
AT THE BBC The Jam  
GET UP Scoobie Do  
EIICHI OHTAKI SONGBOOK 2 V.A.  
SOMEDAY COLLECTOR'S EDITION 佐野元春  
HAPPY END PARADE V.A.  



Copyright Reserved
2002 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com