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SEE THIS THROUGH AND LEAVE The Cooper Temple Clause 7竹

自分の20歳前後の頃のことを考えると今でも顔から火が出そうになる。あんなにバカでよく臆面もなく毎日生きてたなと思う。よく20歳の頃に戻ったらとか人生をやり直せるとしたらとかいうバカな質問があったりするが、僕は決して「あの頃」になんか戻りたくない。やっと36歳になれたのだ。いろいろ恥をかき、くだらないことを言い放ってひんしゅくを買いながらどうにかここまでやってこれたのだ。今さらそんな苦労をもう一度繰り返したくないと思うのが普通の神経じゃないか?

でも、確かに若いからこそできたことというのもあって、その若さゆえの無根拠な自信というか自惚れみたいなものは貴重だったなと思うことはある。泣きたくなるほどつたない小説もどきを書いて当時のガールフレンドに送った原稿が引越の古い荷物から出てきて、こりゃ今じゃ恥ずかしくて書けないけど、だからといって書かれたことにまったく価値がないというほどひどくはなかったり。ただその自惚れをバネにして開花するほど大したものじゃなかったんだなと残念に思いはするが。

今でも音楽雑誌の新人バンドのインタビューなんかを読むと、そういう過剰な自意識に出会うことがままあって、そのほとんどは無根拠なその場限りの自惚れに過ぎないんだが、たまにその自惚れを踏み台にして世に出たものが意外な力を秘めていることがある。オレはすごいんだというやみくもな確信がまぐれ当たりであれ一片の真実を含んでいるとき、それは結構強いリアリティを持って迫ってくる。無茶な部分もあるがそういう類のバンドなのではないかと思った。これは要注意だ。
 

 
ETC Lloyd Cole 6松

タイトルからしてアウト・テイクやアルバム未収録曲のコンピじゃないかと思われるんだが詳しいことは分からない。というか分からなくてもいい。1枚のアルバムとして十分聴くに耐える出来だし、ここにはロイド・コールの美学みたいなものがとても率直に、とても誠実に溢れているからだ。やみくもに前に突っかかるだけだったコモーションズ時代の歌声に比べれば、ここでのロイド・コールはとても抑制的に歌っているし、それが逆に彼の声の力を引き立たせていると言っていいだろう。

このアルバムでロイド・コールは、いつも最後のいちばん「美味しい」フレーズを歌わずに終わらせているような気がする。引っ張って、盛り上げて、最後に声を張り上げた大サビが来るのかと思っていると肩すかしを食らう。当然決めのフレーズが来るはずの場所は歌われないままポッカリと空洞になっているかのようだ。僕たちはロイド・コールが歌わずに投げて寄越した最後のフレーズを自分の心の中でもう一度反芻しなければならない。ここではそのようにして音楽が流れて行くのだ。

一番大事なことを言わずにすませてしまうことは常に誤解のリスクを伴う。だれもが自分の言いたいことを的確に推測してくれる訳ではない。それでもロイド・コールは曲をガチガチに完成してしまうより、一番聴いて欲しい大切なフレーズを歌わないまま僕たちにこのアルバムを届けることを選んだ。いつの間にかロイド・コールはそれだけの自信を手にしていた。今、彼が無造作に投げ出した曲を手にとって、僕たちはアーティストの成長ということの意味を知るのだ。
 

 
WHITE BLOOD CELLS The White Stripes 7竹

一発もののハイプかと思っていたのだが、よく調べてみるとどうもこれが3枚目のアルバムらしい。昨年辺りからNMEが妙にプッシュしており、日本でもこのアルバムの国内盤がリリースされたりして最近注目を集めている男女二人組で、一説には姉弟だとも夫婦だとも恋人だとも言われているが実際のところはよく分からない。まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、ルックスも含めた得体の知れないたたずまいやキッチュなアートワークから、どうもある種の胡散臭さがあったのは事実。

構成は男が曲を書きギターを弾いて歌う、女はドラムをたたくというシンプルなもので、いかにも眉にツバをつけて聴きたくなるサイド・インフォメーション満載な訳だが、ともかく聴いてみて欲しい。カントリー、ブルース、ガレージ、フォーク、いろいろな要素がブチこまれているがこれは紛れもなくロックンロールだ。ギターとドラムだけの編成だがロックンロール以外の何者でもない。何か今ここで歌われなければならない切羽詰まったもの、という意味でこれはロックンロールなのだ。

このホワイト・ストライプスというのはアメリカのバンドなんだけど、こいつらの「とにかくオレに歌わせろ」的な迫力というのはやはりあの国の国力というか競争のあり方というかそういうものに大きく影響されていると思う。おそらくこんなバンドはあの国にはいくらでもいるんだろう。その大半は才能のないクズだろうが、テンパッたヤツが何万人もいれば中には力のあるバンドも出てくるはずだ。そういうシビアな社会からしか出てきようがないからこそロックンロールなのかもしれない。
 

 
PORCUPINE Echo And The Bunnymen  
OCEAN RAIN Echo And The Bunnymen  



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