logo 2001年1月の買い物


PAINTING IT RED The Beautiful South 6梅

懐メロ、という言葉がある。懐かしのメロディ、そういえばこんな曲もありましたね、流行りましたね、そうそう、ちょうどこの曲が流行った頃に僕は当時つきあってた彼女と別れて、思い出のこの曲、是非もう一度聴きたいです、リクエストします、なんて感じ。まあ、端的にいって虫酸が走るが、そういう音楽とのつきあい方もこの世の中にはあるってこと。でも、じゃ、古い曲がみんな懐メロになるかというとそうじゃない。例えばビートルズ、あれを懐メロと呼ぶ人は少ない。

それよりはむしろアバやベイ・シティ・ローラーズなんかの方がよっぽど最近なのにもはや歴然たる懐メロ感が漂っている。それは何なんだろう。つまりある種の音楽はどんなに時間がたっても「現役の」音楽として生き続けるけど、別の種類の音楽は、たやすく消費され、忘れられ、そして懐メロに成り下がるということなのかな。でも、だとしたら、ある音楽が、いつまでも「現役」として生き残ることができるかどうか、そのボーダーラインはいったいどこにあるのだろうか。

大変よくできたポップ・アルバムだが、どうも僕は初めっからバーチャル懐メロみたいな「上がり」感を払拭できない。現役として今ここにあるものに強くコミットするモメントが決定的に足りない。フォーマットが保守的なのはいい。ただ、保守的なフォーマットであればこそ、その存在を主張する切迫感がなければならないはず。前作から参加のファットボーイ・スリムことノーマン・クックのおかげか生き生きとした躍動感のある曲もあって、その辺に出口があるんじゃないのかな。
 

 
PARACHUTES Coldplay 8梅

結構トラヴィスの文脈で語られちゃっている新人バンドのデビュー・アルバム。ギターを中心にしてメロディのはっきりした穏やかなポップを歌うという点ではもちろん共通するものもあるとは思うけど、「美しさ」の純度をひたすら上げることによって「美しくない」世界への違和感を冷酷に際だたせるのがトラヴィスだとしたら、このバンドは「美しくない」世界とのせめぎ合いをそのまま曲の中に忍び込ませることで「美しさ」の虚構をあらわにしてしまうような気がする。

いうまでもないことだが僕たちの日常なんてまったく美しくない。でも、トラヴィスはだからこそ美しい歌を歌おうとする。美しい歌を美しく歌うことで、その美しさを先鋭化させることで、美しくない日常に対峙しようとする。それに対してコールドプレイは、どんなに美しい曲を作ろうとしてもそこに入り込んでしまう「雑音」のことを歌っている。完璧なものを作ろうとしながらそこに宿命的に内在する「破綻」について歌うことで僕たちの日常を肯定しようとするのだ。

もちろんそれはどちらがいいという問題ではない。僕が言いたいのはトラヴィスとコールドプレイは異なるベクトルを持ったバンドだということなのだ。僕はこのバンドの音楽の流れるような美しさを愛するよりは、その中にどうしようもなく潜む引っかかりのようなものに耳を澄ませたいと思う。このバンドの音楽にはある種の性急さが間違いなく隠れているし、そうした引っかかりこそが、美しくない日常を生きることの不自由を解放するヒントになるはずなんじゃないだろうか。
 

 
RATED R Queens Of The Stone Age 8梅

何回か書いてることだけど、僕はアメリカという国があまり好きではない。というかあの国はやっぱりどこかおかしいと思う。自由と自己責任の国だし、ダイナミックな競争があって優劣がはっきりしていて、いろんなことが合理的かつシンプルに理解できる国なので、僕が好みそうなところではあるのだが、あの国がそうしたダイナミズムの代償として内部にため込んでしまったものの重さ、醜さ、とりかえしのつかなさ、そういうものがおそらく僕の気を重くさせるのだと思う。

そういう意味では日本もヨーロッパも、基本的に同質なものを基盤にして、歴史的に積み上げた共同幻想のようなものの上に成り立っている部分が大きいから、合理性やダイナミズムだけでは割り切れない、説明しきれない「約束事」みたいなものに支配される部分がある。ところがアメリカにはそういう緩衝剤のようなものがないので、むき出しの欲望の激突が社会の運動原理になってしまい、生きることはタフなゲームになってしまう。面白いかもしれないがしんどい社会だ。

だが、そういう国からは時折そういうタフさをそのままエネルギーにした思いもよらないロック表現が生まれてくることがある。例えばニルバーナがそうだったと思う。落差が大きいほどそこで生み出されるエネルギーは大きい。メイン・ストリームでスタジアムを満員にするようなバンドではないのかもしれないが、NMEが2000年のベスト・アルバムに選出するのも「ある意味」理解できる、アメリカでしか生まれ得なかったアルバム。島国でこれに勝つのはやはり難しい。
 



Copyright Reserved
2001 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com