silverboy club presents disc review
my shopping bag february 2000




XTRMNTR Primal Scream

僕はアルバム「Screamadelica」のことをロックの臨死体験だと書いた。ボビーの「I'm Losing More Than I'll Ever Have」での「オーイェー」がアンディ・ウェザオールによって「Loaded」のクライマックスにでっち上げられたとき、ロックという言葉の意味は確実に変わった。まるでパチンと音を立ててスイッチが切り替わるように、ボビーは、プライマル・スクリームは、ロックという表現は1度死んで新しく生まれなければならないのだということを鮮やかに示したのだった。

そうした意味であの曲は重要だったし、フリッパーズ・ギターがあの曲をあれほど原曲に忠実にパクらなければならなかった理由もそこにある。だから、それ以降のプライマル・スクリームに音楽的な軸も柱もないのは当たり前だ。「ロック」そのものの「死」を一度体験してしまったバンドが、8ビートやメロディ、「歌」の有効性を楽観的に信じられる訳がないのだから。ボビーはただ強烈な体験としてのロックの真実を探す巡礼のようなものだ。圧倒的なものとしてのロックを。

そんな圧倒的なものとしてのロック体験を求めるとき、ボビーがこのアルバムを作らざるを得なかった理由もまた自ずから明らかになって行くだろう。暴力的な音像はもちろんこれがオリジナルではなく、本当の意味では新しくも何ともないが、この最新型のフェイク、ハッタリは確実に2000年対応している。曲の途中で携帯の呼び出しが鳴ってもSEかと思ってしまうくらい「現代」の音としてハマっているし、それがボビーの思う「ロック」なんだろう。重要作。9点の梅。


SHOWBIZ Muse

注目の新人ミューズのデビュー・アルバムである。レディオヘッド似という評もあって確かに実際そんな感じもしないでもないが、まあこの際そんなことは横に置いといていいだろう。ファルセットを多用してさまざまな表情を見せるボーカル、劇的な曲展開とはっきりした歌メロ、ハードに鳴るギターと効果的に挿入されるキーボード。ジョン・レッキーのプロデュースということを割り引いても、こいつらが一定の技量を備えた達者な新人だということは容易に理解できる。

だが僕はどうもこのバンド、このアルバムに入れこめない。それは彼らがこの達者な音楽的ボキャブラリーと確かなテクニックに乗せて伝えたい衝動がうまく伝わってこないからだ。僕は別にロックに明確な主義主張があるべきだとは思わない。いやむしろそんなものは邪魔だとすら思っている。だが、それとは別に、アーティストにはその音楽に向かわざるを得ないやむにやまれない衝動が、臨界に達した切迫感があるはずだ。僕はそれを見たい。

そういう意味でこのアルバムは達者すぎる。このバンドをギター・ロックの救世主だなんて持ち上げるのはもう少し成り行きを見極めてからにした方がいい。アルバムの構成そのものはきちんとメリハリがついているのに、聴いているうちになぜだか退屈になってくると言ったら言い過ぎか。自分の内に、早く外へ出さなきゃ息が詰まって死んでしまうくらいの肥大し続ける「何か」があるのか。その「何か」は例えば「空虚」でも構わないのだ。次作は買うがその次は分からない。7梅。


STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS Oasis

特集「オアシス・クロス・レビュー」へ




Copyright Reserved
2000 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@t-online.de