logo ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 限定編集版


ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
限定編集版


2008.6.4発売
Sony Misic Direct / MHCL 1325-7

DISC 1
PRODUCER
佐野元春、Colin Fairley
RECORDING ENGINEER
Richard Moakes、John Etchells
MIXING ENGINEER
John Etchells、Colin Fairley

DISC 2
PRODUCER
佐野元春
RECORDING ENGINEER
阿部保弘、John Etchells、木村史郎
MIXING ENGINEER
坂元達也、John Etchells、渡辺省二郎

作詞・作曲・編曲
佐野元春
DISC 1
ORIGINAL TRACKS

●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
●陽気に行こうぜ
●雨の日のバタフライ
●ボリビア
 −野性的で冴えてる連中
●おれは最低
●ブルーの見解
●ジュジュ
●約束の橋
●愛のシステム
●雪−あぁ世界は美しい
●新しい航海
●シティチャイルド
●ふたりの理由
DISC 2
RARE TRACKS

●新しい航海
 (The Heartland demo version)
●シティチャイルド
 (The Heartland demo version)
●愛のシステム
 (The Heartland demo version)
●愛することってむずかしい
 (Album outtake)
●枚挙に暇がない
 (Unreleased)
●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
 (Studio live mix)
●ジュジュ
 (Studio live mix)
●愛のシステム
 (Studio live mix)
●モスキート・インターリュード
 (Album outtake)
●雪−あぁ世界は美しい
 (The Heartland demo version)

アルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」に、同時期のレア音源を集めたCD、1989年の横浜スタジアムでのライブの模様を収録したDVD、当時の雑誌記事などの資料を収録した冊子を合わせ、「完全生産限定盤」としてリリースされたスペシャル・パッケージ。もっとも、これまでリリースされてきた「SOMEDAY Collector's Edition」「VISITORS 20th Anniversary Edition」「The Essential Cafe Bohemia」はいずれもオリジナルの発売20周年を期してリリースされたものだが、この作品はどういう訳かオリジナルの発売から19年しか経っていない。その辺の経緯は謎であるが、あるいは何か契約上の理由があったりするのかもしれない。

オリジナル・アルバムをそのまま収録したDISC 1は、ブックレットには記載はないが2005年12月にリリースされた紙ジャケット盤と同じリマスターと思われる。アルバムそのものについてはオリジナル・アルバムのレビューを参照されたいが、ロック言語としての日本語の可能性に挑んだ佐野のポエトリーと、パブ・ロックの強者を揃えたレコーディング・ミュージシャンの切れ味鋭い演奏、コリン・フェアリーのオーソドックスでシュアなプロデュースが高い次元で統合された本作の価値は、リリースから20年近く経った現在においてもいささかも減じていないことは間違いない。

レア・トラックを収録したDISC 2の最大の目玉は何といっても未発表曲「枚挙に暇がない」だろう。ロンドン・セッションでレコーディングされたもののお蔵入りとなり、佐野自身も「すっかり忘れていた」というこの曲は、スペシャルズあたりを思い起こさせる軽快なスカ・ナンバー。歌詞はシニカルなものであるが、楽曲そのものにはアルバム本体には欠けているオプティミズムがあふれており、この曲がアルバムに収録されていればアルバム全体の印象も異なったものになっていたのではないかと思わせる。失われたリングとして興味深い曲であると同時に、それ自体としても高く評価できる佳曲である。

その他には、ロンドン・レコーディングに先立つ、所謂「失われた東京セッション」でレコーディングされていた「新しい航海」「シティチャイルド」「愛のシステム」「雪」のハートランド・バージョンが収められている。これらはいずれもアルバムに収録されたバージョンとはかなり感触が違っており、コンピレーション・アルバム「GRASS」に同じセッションから収録されたアウトテイク「ブッダ」「ディズニー・ピープル」と共通するモメントを感じさせる。

抜けがよくエッジの立ったオリジナルに比べると、ハートランドによるこれらのバージョンはよりロックンロールとしての疾走感、ドライブ感に重点が置かれているように感じられる。その分重心は低く、内向的な印象を受ける。当時の佐野が、これらのテイクに満足せず、結果としてこれらをお蔵入りにして同じ曲をロンドンでレコーディングし直したことを考えれば、佐野が当時何を思い、何を求めていたのかが窺われるような気もする。貴重なテイクであり、「デモ」とクレジットされているが十分リリースに耐える魅力的なトラックである。特に「愛のシステム」はオリジナルより佐野の意図が明快に表現されているのではないかと思う。

これら以外には、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」「ジュジュ」「愛のシステム」のスタジオ・ライブが収録されている。これはいずれも1991年4月に衛星放送WOWOWで放送されたアンプラグド・ライブ「Goodbye Cruel World」からの音源であるが、「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」と「ジュジュ」はシングル「また明日…」のカップリングとして、「愛のシステム」は同じく「誰かが君のドアを叩いている」のカップリングとして発表済みの音源であり「愛のシステム」はライブ・コンピレーション・アルバム「THE GOLDEN RING」にも収録されている。これらのライブ音源を改めてここに収録することにどれだけの意味があったのかは大いに疑問のあるところだ。同じ「Goodbye Cruel World」から収録するのであれば、これまでCD化されていない音源をこそ発掘するべきではないだろうか。「Goodbye Cruel World」は番組全体をまとめてDVD化するのがあるべきリリース形態であると考える。

さらに疑問が残るのは、アルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」からカットされたシングルのカップリング曲が、「愛することってむずかしい」を除いて収録されていないことである。ブックレットには「トピックとなる“ザ・ハートランド・セッションズ”との併合・兼ね合いが悪く、これまでコンピレーション盤などに収録されている既存曲よりも未発表曲が優先された結果」との説明がなされているが意味不明である。上記のような既発表のライブ音源を収録するくらいであれば、「水の中のグラジオラス」「君が訪れる日」「風の中の友達」など、まさに「ザ・ハートランド・セッションズ」に属するスタジオ音源をきちんとしたリマスターで聴かせるべきではないのか。これらの音源が収録されなかったことで、残念ながら今回の「RARE TRACKS」は価値が半減してしまったと言わざるを得ない。

ブックレットは全112ページ。収録されたテキストはオリジナル発表当時の記事やインタビューが中心だが、佐野の新しい「ハートランドからの手紙」や楽曲解説、リスナーのアルバム評なども収められており、貴重な写真も多い。僕もレビューを提供しているので参照して欲しい。

DVDは1989年8月24日に横浜スタジアムで行われたライブ「横浜スタジアム'89・夏」の模様を収録したものだが、詳しくは別稿でレビューする。

最後に、こうした企画盤のリリースについて書いておきたい。本作のように日本のロック史上に記憶されるべき名盤に、レア・トラックや関連映像を丹念に拾い上げパッケージとしてリリースすること自体には確かに一定の意味はあると思う。レア・トラックの選曲に不満はあるものの、その企て自体を否定するつもりはない。しかし、8,400円という価格設定はいかがなものだろうか。「おまけ」がたくさん付いているとはいえ所詮は既発アルバムの「豪華盤」に過ぎないものであり、せいぜい5,000円程度に抑えて欲しいところ。どういう層にどういう意図で売ろうとしているのか、マーケティングが今ひとつ明確でないのではないかと思う。



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