logo BAILE TOKYO


FC東京の2015年シーズンを追ったドキュメンタリー。我々FC東京サポーターとしてはほぼ既知の内容であり、もちろん選手らのインタビューなどの付加価値もたくさんあるが、「ストーリー」自体は我々自身が経験し誰よりもよく知っているはずの2015年である。

フィッカデンティ監督の下で戦う2年目のシーズンとして、我々は何よりも結果を重視し、勝利にこだわるフットボールを旗印に長丁場のシーズンを戦った。「塩試合」という言葉が頻繁に聞かれたように、まずしっかりした守備をベースに失点を減らし、ワンチャンスでの得点を守りきって勝つというパターンの試合が増えた。

こうした戦いでは、ひとたび失点すれば、見せ場のない、「惜しい」も「内容はよかった」もない、単なる「負けただけ」の試合になる。それでも我々はボールを支配し敵を圧倒しながらカウンターの一発で負けるより、たとえPKでも敵のオウン・ゴールでも勝ち点3を積み上げた方が順位が上がるというシンプルな事実と、その重さを学んだ。

それは、我々の戦いの新しいステージを拓くという意味で重要なシーズンだった。「やりたいこと」をやるのではなく、明確な目標から逆算した「やるべきこと」をやりながら、ひとつひとつのマイルストーンを順番に踏んで行くということ。これほどチームとしての成長を実感したシーズンはかつてなかった。

我々はそれで過去最高の勝ち点を得たし、4位という好成績も残した。しかし、勝負どころで鹿島、浦和といったクラブに勝つことができなかったし、タイトルを得ることもできなかった。何ができ、どこまでたどり着けたか、その一方で何ができず、何が課題として残ったか、そうしたことがこれほど明確だったシーズンもなかったと言っていい。

そのシーズンをカメラは丁寧に跡づけて行く。試合のシーンではひとつひとつに明確な記憶がある。選手のインタビューでは「こんなことがあったのか」「こんなふうに考えていたのか」という新鮮な驚きもあるが、彼らの言っていることの意味はどれもよく分かる。そして、1点が取れずチャンピオンシップを逃した最終節。そこにあるのは紛れもなく僕自身の2015年だ。

微笑ましいシーン、苦いシーン、歓喜、そして悔しい思い。そのすべてに強烈な感情が喚起される。試合に出る「怖さ」を率直に話し合う橋本と野澤、ケガをしたときに榎本からかけられた一言の大きさを話す石川、サポーターへの思いを語る吉本などには、深くうなずくしかない。湘南戦で負傷した森重が、浦和戦に強行出場した事情の一端も明かされる。羽生と徳永のトークも味わいがあっていい。

新しいシーズンが始まる直前に、我々が昨季できたこと、できなかったことを改めて総括し、見返すことは重要だ。もちろん、以前にも書いたように、昨季4位だったからといって今季をその続きの4位から始めることはできない。しかし、自分たちの立ち位置、昨季の到達点を改めて確認することは、今季をいかに戦うかを考える上で必要なことに違いない。

今季、我々は城福監督を迎え、「アクション」をキーワードにして攻撃面の力強さ、魅力をテーマにしながらタイトルを目指すことを公言している。しかし、徳永との対談で羽生が話していたように、「2015年の勝利に対する強いこだわりがその前提になることは当然」だ。我々の今季の戦いは、単なる「守備から攻撃へのシフト」としての「逆コース」ではなく、昨季経験した「固い守備からスタートする意識」の上に積み上げる攻撃の強化であるはずだ。

だが羽生は「その意識はすぐに失われてしまうもの」とも言っている。常にそこに立ち戻る態度がなければ、せっかく手にしたと思った勝利への強い執着や結果へのこだわりは容易に失われてしまうということだ。だから「自分たちがそれをしっかり伝えて行かなければならない」と徳永は言う。今季のポイントは、その意識をどれだけの選手がきちんと対象化し、自分の中の規律として持ち続けることができるかということに他ならないと僕は思う。

そして、多くの選手がタイトルへの思いをはっきりと口にしている。この映画を見ていると、このメンバーとタイトルを獲りたいと思える。開幕前の、この時期にこそしっかり見るべき作品だと思った。



Copyright Reserved
2016 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com