logo 役に立つドイツ旅行のポイント おカネについて


●海外旅行をする時に持って行くおカネのことで悩んだ経験のある人は多いでしょう。いちばん手堅いのは日本であらかじめ行き先の国の現金を手に入れて行くことですが、日本の銀行では米ドル以外の外貨の現金はまず準備していませんし、旧外為銀行だった某行辺りで何とか両替してもらってもあまりのレートの高さに卒倒する危険さえあります。これは別に銀行があこぎな商売をしているからではなく、銀行にとって外貨の現金を手許に置くことが為替リスクと資金効率の両面から最悪の運用手段で、そのコストがレートに織り込まれているからです。外為法が改正されて外貨の両替が自由化されたそうですが、日本で欧州通貨が比較的手に入りやすくなるのはユーロの現金通貨が発行される西暦2002年以降かもしれません。もっとも、まったく旅行先の現金が手許にないのは不安だという人は、仕方ないので成田や関空にある某行のオフィスで、レートには目をつぶって本当に必要最小限だけを両替するのがいいでしょう。

●トラベラーズ・チェック(T/C)は現金に代わる支払手段として、安全性、流動性にも優れています。両替のレートも現金に比べればずっと有利です。これまで欧州通貨のT/Cは現金ほどではないにせよ入手に骨が折れましたが、ユーロ建てのT/Cが普及してくれば少しは買いやすくなるでしょう(ユーロについては後述)。僕は正直言ってT/Cというものを使ったことがほとんどないのですが、ヨーロッパの銀行や両替屋ではまず問題なく現金化できるはずです。手数料等の詳細は知りません。但し、ヨーロッパで使うのなら初めからその国の通貨(またはユーロ)のT/Cを持ってくるべきでしょう。もしそれが日本で容易に手に入らないようなら、円建てのT/Cを持ってくるのが次善の策です。米ドル建てで持ってくるのは最悪ですからやめた方がいいでしょう。だって2回も換算が発生してそのたびに目減りするんだもん。

●T/Cの使い方は皆さん知ってますね? 何? 知らない? それは銀行で訊いてくれと言いたいところですが僕も銀行員なので一応説明しておきましょう。まずT/Cを買ったら銀行のカウンターで2つあるサイン欄の片方にサインします。枚数が多かろうが窓口が混んでいようが行員がイヤな顔をしようが構いません。100枚あるなら100枚全部に漏れなく1回ずつサインして下さい。持って帰ってゆっくりやろうとか思っていると泣きを見ます。まったくサインがないか、2つあるサイン欄の両方にサインのある状態で盗難されたり紛失したT/Cは払い戻しを受けられないことになっています。このサインは別にパスポートのサインと同じでなくても構いませんが、海外で高額の両替・買い物をするときには本人確認としてパスポートの提示を求められることがあり、このときパスポートとT/Cのサインが違うと面倒くさいことになるリスクがあるということは認識しておいた方がいいかもしれません。

●また、T/Cを買ったときに、計算書とは別に購入契約書(Purchase Agreement)というシケた紙切れをもらいますがこれは大事です。これはT/Cそのものとは別に保管するようにして下さい。一緒に盗まれたりなくしたりすると何の意味もありません。盗難・紛失時の再発行のために極めて重要な紙切れです。まかり間違っても捨てたり家に置いたまま旅行に出たりしないように気をつけましょう。あと、盗難・紛失時の連絡先は必ずどこか複数の場所に控えておいた方がいいです。例えばメモを財布とカバンに入れてパスポートの見返しと手帳にもメモっておくとか。必ず「助かった」と思うときがきます。大した手間でもないでしょ。

●で、現金化・買い物をするときには、T/Cのもう一方のサイン欄に店員の面前でサインします(一般商店ではT/Cは受け取ってくれないので銀行で現金化すべしと「歩き方」には書いてある)。ホテルで先にサインして行ったりしちゃダメです。業界ではこれを「カウンター・サイン」と呼んでいます。盗まれたりなくしたりしたときは、あわてずに控えておいた連絡先に電話しましょう。何? 一切合切盗まれて連絡先が分からない? そこまではちょっと責任持ちかねますねえ。でも、確かなのは、邦銀の最寄り支店に電話しても要領を得ない答えが返ってくる可能性が高いということ。邦銀の海外支店は一般に今リストラの真っ最中で日本人職員は劇的に減っており、彼ら(というか僕ら)もT/Cだの国際キャッシュカードだのの盗難・紛失に対応できる態勢になっていません。「サービスセンター」の電話番号を教えてそっちへかけ直してくれと言うのが精いっぱいの対応だったりします。だから緊急連絡先の控えは必ずとっておいて下さいね。外国にも取引銀行の支店くらいあるだろうというのは甘い考えです。

●次に今はやりの国際キャッシュカードです。どこの銀行発行のカードかにもよりますが、ドイツではATMはきちんとネットワーク化されているので、少なくとも都市部で自分のカードで引き出しのできるATMが見つからないということはまずないと思います。外資系のC銀行の支店もあります。レート的にはどうか知りませんが、一説にはT/Cとどっこいどっこいだという話も聞きます。気をつけなければならないのは、まず計算書をその辺に捨てないこと。ドイツでは一部計算書の出ないATMもありますが、もし出てきたときには不退転の決意で日本まで大事に持って帰って下さい。計算書には暗証番号は載っていないにしても口座番号などの重要情報が記載されていることがあります。何に悪用されないとも限りません。ホテルとかでも捨てない方が無難でしょう。あと、ATMが建物の中にあって、入り口のドアがロックされていることがあります。そのときは入り口横のカード・リーダーにカードを通すとロックが解除されますから中に入って下さい。それから、ATMが故障していることもあり、まったく受け付けないのならともかく、カネが出てこない、カードが返ってこないということも稀にあり得ます。また、現金やカードを取らずにまごまごしていると防犯のために一度出てきた現金やカードが再び機械に吸いこまれる仕組みになっていることもあります。不幸にしてこういう事態になったら翌日営業時間中にそこの銀行にもう一度出かけて行って、昨日こういうことがありましたと説明するしかありません。がんばって下さい。

●ドイツではあまりないとは思いますが、壊れたATMでまごついている観光客を標的にしている詐欺の事例もあるようです。それでなくともATMコーナーから出てくればそれは「今カネをおろしましたよ〜」と宣伝しているようなものですから、身の回りには特に注意しましょう。夜などに人気のない寂しい場所でカネをおろすのは避けた方がいいでしょうね、常識的に言って。その辺で話しかけてくるあやしげなヤツは相手にしないことです。よっぽどタイプならともかく。

●あとはクレジット・カードですが、これについては言うこともないでしょう。職業柄個別の銘柄をあげて優劣を論じるのは避けますが、国際的なカードはどれもまず問題なく通用します。ただし日本を根拠地にする某カードは、日本人が多い観光地ではともかく、普通の商店、レストランなどではややビハインドがある感は否めません。

●結論として何をどういう組み合わせで持って行くのがいいかといえば、「ホテルの支払いや高級レストラン、レンタカー、ブランドでの買い物など大口の支払いはクレジット・カードで、その他の買い物、お茶、食事などのための現金は国際キャッシュ・カードで引き出して、どうしても心配な人は着いてすぐに必要になる最低限のおカネだけ事前に現金で用意して行く。但しリスク・ヘッジのためにユーロ建てか円建てのT/Cをいくらか持って行く」ということでしょうかね。何にせよひとつのバスケットに全部のタマゴを入れてはいけないという投資におけるリスク・ヘッジの鉄則はここでも当てはまります。ありきたりですが複数の手段を組み合わせて、全部一度になくしてしまわないように、なくしても対応ができるようにしておくことが大事です。しつこいようですけど盗難・紛失時の連絡先はきちんと控えて行って下さい。よろしく。

●さて、欧州統一通貨ユーロについてです(ちなみにドイツ語では「オイロ」と読みます。ああ、だっせえ)。ご存知のようにヨーロッパの主要国では1999年の1月から統一通貨ユーロが導入されました。といっても現実にユーロと書かれたコインや貨幣が流通している訳ではありません。今行われているのは参加した各国通貨の交換比率が不可逆的に固定されたこと、そして決済通貨としてのユーロの導入です。

●参加国は今のところ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー、オランダ、オーストリア、ルクセンブルグ、これでいくつですか、ええと、9カ国ですか、あと2つ、そうそう、フィンランド、それから、それから、ええと、ああ、アイルランドですね、この11カ国です。主な不参加国はまずイギリス、スイス、それから北欧諸国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)ですが、イギリスは参加を検討しています。スイスはたぶん入らないでしょう。

●これら参加国通貨相互の交換比率は固定されました。例えばマルクと仏フラン、リラとの間にはもはや為替リスクは存在しません。もちろん参加国通貨とユーロの交換比率も固定されています。今後、ユーロの現金通貨の発行を経て、各国通貨の廃止にまで進む予定です。ユーロのT/Cは既に発行されていますから、これを持って行けば、手数料は別として所定の交換比率で参加国の通貨に両替できる建て前になっています。従って、ドイツ、フランス、イタリアなど大陸諸国を回るときには、各国別のT/Cを用意する必要はなく、ユーロ建てのT/Cだけを持っていけばいい訳ですね。イギリスやスイスにも行きたいという人は勝手にして下さい。もちろんユーロのT/Cはイギリスでもスイスでも使えますが、ポンドやスイス・フランに両替するときに為替リスクが残りますし、円からユーロ、ユーロからポンドと2回交換する訳ですから当然その分目減りします。ユーロのT/Cだけを持ってイタリアからスイス経由でドイツに入る人は、スイス領内では何も買わないという固い決意が必要でしょう。

●クレジット・カードでの支払いをユーロ建てにしてもらうことも可能です。マルクの金額を1.95583で割った金額がユーロです。でもこれには日本からの旅行者にとって現実的な意味は今のところありません。マルクでカードを切っても同じことです。

●最後になったけども1マルクは99年7月現在だいたい60円から70円の間と思っておけばいいでしょう。これまでのマルクの最安値は58円だかそれくらいだったので、現在の水準はかなりの円高です。マルクの最高額紙幣は1000マルク札ですが、ふだん流通しているのは100マルク札までで、200マルク札以上はあんまり見かけません。まあ、そんな高額紙幣使うことはないでしょうけどね。それでは皆さん、防犯には気をつけて、楽しく旅行して下さい。じゃね、チュース。



Copyright Reserved
1999-2004 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com