logo 全曲バージョン解説25(241-250)


[241] 永遠の迷宮
アコースティック・ギターのコード・ストロークが印象的なミドル・テンポの軽快なフォーク・ロック・ナンバー。テンション・コードやシンコペーションなど、このアルバムにあっては幾分カラフルなアレンジを施され、アルバム全体の内省的で個的な感触を和らげてラストのクリスマス・ソングへと架橋する役割を担っているかのようだ。とはいえ自らの内側に沈潜して行く静的なモメントがこの曲のトーンを決定しているのもまた確か。

若い時期の燃え上がるような熱情、互いを激しく求め合う性急さとは異なり、静かではあっても運命的で代え難い、それ故何よりも強い切実さを歌うラブソング。「今までの隙間を全て埋めたい/そっと時を遡って」というラインには、これまで通り過ぎたものへの慈しみと、生きることのできなかった選択肢への悔恨や憧憬が強く示唆されている。我々は誰も、生という永遠の迷宮を彷徨っていて、だからこそ誰かを愛さずにはいられない。
[113] 或る秋の日
●アルバム ●オリジナル
●2019.10.9 ●DaisyMusic ●POCE-9396
●曲順:7 ●バージョン:(A)
●表記:永遠の迷宮
●英文名:Labyrinth
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[242] エンタテイメント!
疾走感のある8ビートのギター・ポップ。エフェクトの薄いギターの音色とシンプルなリフは80年代イギリスのポスト・パンクのバンドのいくつかを思い起こさせるが、考えてみれば佐野の作品にはあまりないタイプの曲かもしれない。ベスト・アルバムのボーナス・トラック的に発表された新曲であり、いずれかのオリジナル・アルバムのアウト・テイクか。「It's just an entertainment!」の不定冠詞の「n」をきちんと発音してるのがいい。

歌詞はショー・ビジネスのことを歌っているようでもあり、同時に書き割りのような都市風景の中で演じられる安っぽいショーのような現実を揶揄しているようでもある。簡単に祭り上げられ、もてはやされた挙句、些細なことで炎上し容赦なく叩きのめされるパートタイムの偶像たち。「それはただの『お楽しみ』だ」と繰り返す佐野の視線は、しかしそこにおける僕たちの立ち位置をも問うているようだ。それはショーなのか、現実なのか。
[114] エンタテイメント!
●シングル ●オリジナル
●2020.4.22 ●DaisyMusic
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:エンタテイメント!
●英文名:Entertainment!
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。ウェブサイト「MWS」で公開されたジャケットには「ENTERTAINMENT!」の英語表記があるが記事中では「エンタテイメント!」と日本語で表記。
[116] THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020
●アルバム ●コンピレーション
●2020.10.7 ●DaisyMusic ●POCE-9399/400
●曲順:1-4 ●バージョン:(A)
●表記:エンタテイメント!
●英文名:It's Only Entertainment
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:エンタテイメント!
●英文名:ENTERTAINMENT!
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[125] 2022 LIVE AT SENDAI...
●アルバム ●ライブ
●2022.11.18 ●DaisyMusic
●曲順:4 ●バージョン:(B)
●表記:エンタテイメント!
●英文名:ENTERTINMENT!
●バージョン名:LIVE 仙台電力ホール 2022.5.22

2022年5月22日に仙台電力ホールで行われた「WHERE ARE YOU NOW」ツアーでのライブ。
[128] 今、何処 東京国際フォーラム 2023
●アルバム ●ライブ
●2024.3.6 ●DaisyMusic ●DMA-042/043
●曲順:13(2-1) ●バージョン:(C)
●表記:エンタテイメント!
●英文名:記載なし
●バージョン名:LIVE

2023年9月3日、東京国際フォーラムでのライブ。


[243] 合言葉 - Save It for a Sunny Day
新型コロナウィルス感染症の蔓延によってさまざまな社会活動が大きな影響を受け、ライブの中止など音楽業界も打撃を受けた2020年の終盤にリリースされたメッセージ・ソング。佐野自身、企図していたライブ活動が行えない中で、フィルム・フェスティバルと称したネットでの動画配信などの活動を模索しており、「Save It for a Sunny Day」はそうした活動のタイトルでありスローガン。これはそのテーマ・ソングとも言うべき曲だ。

曲自体は穏やかでハッピーなミドル・テンポのポップ・ソング。しかし「ゆっくりと世界は息を吹き返す/その日を待って望みを集める」「計画はみんなムダになった/でも構わない/まだチャンスはあるよ」といったラインは、感染症の影響下で世界とのつながりを失った心に静かに染み通り、僕たちは自分が知らずに激しく損なわれていたことに思い至る。のんびりした曲調にラジカルでシリアスなメッセージを託した佐野の覚悟を見る。
[118] 合言葉 - Save It for a Sunny Day
●シングル ●オリジナル
●2020.10.30 ●DaisyMusic
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:合言葉 - Save It for a Sunny Day
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:5 ●バージョン:(A)
●表記:合言葉 - Save It for a Sunny Day
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[244] 街空ハ高ク晴レテ - City Boy Blue
アコースティック・ギターとヴィンテージ・キーボードを上手く使ったシンプルなアレンジの速いロックンロール。短いフレーズを重ねてイメージを喚起して行く手法は『情けない週末』や『Rock & Roll Night』など初期のいくつかの曲を思い起こさせる。3分強の短いサイズの中に、ロードムービーのような視点の移動と、この街で生きて行くという強い意志を盛りこんだメッセージ・ソング。ただのポップ・ソングとしても聴けるのがいい。

還暦を越えてなお自らの居場所を都市の中に見出し、そこに生きる「City Boy」のことを歌う佐野の視線の先にあるものは、自己決定と自己責任のパッケージとしての「自由」に他ならない。頼るものも戻るところもなく、ただ自らの足で立ち、冷んやりとした孤独の鉄の味を感じながら、日々を転がし続けて行くこと。そうしたシンプルな都市生活が難しく、息苦しくなりつつある現代にこそ、約束は更新されるべきなのだと佐野は看破した。
[119] 街空ハ高ク晴レテ - City Boy Blue
●シングル ●オリジナル
●2021.4.23 ●DaisyMusic
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:街空ハ高ク晴レテ - City Boy Blue
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:4 ●バージョン:(B)
●表記:街空ハ高ク晴レテ
●英文名:CITY BOY BLUE
●バージョン名:Alternative version

別ミックスと思われる。ウェブサイトMWSの情報ページではバージョン名が「additional recorded ver.」と記載されている。


[245] 銀の月
やや速めのビート・チューン。告知サイトでは「どこか80年代を感じるポップ・ロック」と紹介されているが、ギターのカッティングもしっかり聞こえてきて、まぎれもないコヨーテ・バンドの音だと分かる。このバンドの演奏がいつの間にか記名性を獲得したことを改めて感じさせる作品。ストレートな曲調だが、Aメロに戻らずサビ、間奏、サビと展開して行く構成が先に進む佐野の意志を明らかにし、ストーリーを紡いで行くかのようだ。

弱い者同士が互いに追い詰め合う不寛容な世界、限りある余裕を奪い合いながら今日という日を生き延びる窮屈な隙間を、等しく照らし出す銀の月は「負のエネルギーを引き出し、それを正のエネルギーに置き換える」のか。かつて「銀の雨」について、また「紅い月」について歌った佐野が、いま銀色の月の光の下に見るものはなにか。悲観的すぎるシナリオを書き換え、愛しいとも思う理由を信じる力を切実に求める、困難な時代の祈りだ。
[121] 銀の月
●シングル ●オリジナル
●2021.10.22 ●DaisyMusic
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:銀の月
●英文名:Silver Moon
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[123] WHERE ARE YOU NOW
●アルバム ●オリジナル
●2022.7.6 ●DaisyMusic
●曲順:3 ●バージョン:(A)
●表記:銀の月
●英文名:Silver Moon
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[125] 2022 LIVE AT SENDAI...
●アルバム ●ライブ
●2022.11.18 ●DaisyMusic
●曲順:5 ●バージョン:(B)
●表記:銀の月
●英文名:SILVER MOON
●バージョン名:LIVE フェスティバルホール 2022.5.29

2022年5月29日に大阪・フェスティバルホールで行われた「WHERE ARE YOU NOW」ツアーでのライブ。
[128] 今、何処 東京国際フォーラム 2023
●アルバム ●ライブ
●2024.3.6 ●DaisyMusic ●DMA-042/043
●曲順:3(1-3) ●バージョン:(C)
●表記:銀の月
●英文名:記載なし
●バージョン名:LIVE

2023年9月3日、東京国際フォーラムでのライブ。


[246] この道
新型コロナウィルスの感染者が日本国内でも増加し、2020年4月7日、政府は初めて緊急事態宣言を発令した。この曲はその翌日にYouTubeでMVとともにパブリック・ドメインとして無料で公開された。未知のウィルスに日本中が不安になり、浮足立ち、イライラしているとき、佐野は「この曲で、コロナ禍で疲れた人たちを応援します」とコメントした。ネットを介しバンドメンバーのそれぞれの自宅でマルチレコーディングされたものらしい。

「応援」という言葉から、リスナーを鼓舞し勇気づけるような力強いビート・ナンバーを想像していた僕の期待はあっさり裏切られた。そこにあったのはのんびりしたレゲエ。それは「まあ、そうカリカリするなよ」というメッセージだった。「この道はもっと大らかでいい」と歌う佐野は、僕たちをどこか遠い場所から叱咤し励ますのではなく、僕たちの不安やいらだちにどこまでも付き添うことをこのとき決めたのだと思う。それは覚悟だ。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:3 ●バージョン:(A)
●表記:この道
●英文名:BLUE SKY
●バージョン名:2022mix version

2020年4月にYouTubeで無料配信したバージョンとは別ミックス。ウェブサイトMWSの情報ページではバージョン名が「additional recorded ver.」と記載されている。


[247] 新天地
アップ・テンポのビート・チューンだが、2拍目、4拍目の表にアクセントを付けずにドライブすることでテンションを持続して行くスタイルは『優しい闇』などと共通するもの。大サビがなく全体でも3分強とシンプルな曲で、敢えて劇的な盛り上がりを避けメッセージを静かに浸透させようとしているようだ。英文タイトルは「スウィートな亡命者たち」。行き場をなくしさまよう魂を亡命者や難民に見立てて迷路のような現代を問うている。

偶然ではあるが、ロシアがウクライナに侵攻した2022年4月の状況からは「たそがれただれかのための理想」「だれも望まないような未来に迷いこんで」といった歌詞はあまりにも預言的に響く。多くの人が戦乱から逃れ国を離れて庇護を求めている現実は、この曲になにかその意図を越えた意味合いを与えてしまった。夜空にまたたく人工衛星のように、僕たちは逃れようもなくこの世界をめぐり続ける。この矛盾に満ちた、愛すべき世界を。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:6 ●バージョン:(A)
●表記:新天地
●英文名:SWEET REFUGEES
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[128] 今、何処 東京国際フォーラム 2023
●アルバム ●ライブ
●2024.3.6 ●DaisyMusic ●DMA-042/043
●曲順:14(2-2) ●バージョン:(B)
●表記:
●英文名:記載なし
●バージョン名:LIVE

2023年9月3日、東京国際フォーラムでのライブ。


[248] 東京に雨が降っている
ミドル・テンポのオーソドックスなポップ・チューン。心地よいツイン・ギターの響きが互いにからみ合うように曲全体を引っぱって行く。コヨーテ・バンドの強みを生かしたシンプルだが印象に残るアレンジになっている。テーマはCOVID-19で傷んでしまった世界と、それでも再生に向けて準備を始めようとする我々の営みのことか、それとも夏を待ちながら青い芝生と黒猫を眺める日常のスナップショットか。いかようにも聴けるのがいい。

あるいは街に積もった禍々しいものを洗い流す「救済としての雨」を待ち望んだ『新しい雨』へのアンサーソングとして聴くこともできる。「ずいぶん遠くに来てしまった」「すべては夢のよう」というどこか感傷的な視線も、「この雨の向こう 濡れた街を歩いて行こう」というギリギリの楽観主義へと昇華されて行く。それは世界がどのようであってもここで生きのびるという意志の表れ。そこにあるのは生の肯定であり祝福に他ならない。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:7 ●バージョン:(A)
●表記:東京に雨が降っている
●英文名:RAINY DAY IN TOKYO
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[249] 悲しい話
典型的なブルース・ナンバー。特徴のあるリフをベースにブルース進行で組み立てられており、『ヒナギク月に照らされて』や『タンポポを摘んで』、古くは『Please Don't Tell Me A Lie』などを思い起こさせる。こういうベタなブルースもまたレパートリーとして取りこんでしまうところに、佐野の音楽的なバックボーンの豊かさ、懐の深さを感じるのだ。思えばブルースという言葉も、そのスタイルも佐野から学んだのではなかったか。

ブルースの流儀に則って佐野はままならない日常を歌う。悲しい話、デタラメな話、ムカつく話、しかしそれが具体的に語られるわけではもちろんない。それはなにより嘆きの歌だからだ。しかし深い悲嘆はときとしてその背後に強い怒りを隠している。この歌でも嘆きの裏側には、心のない者たち、のぼせたヤツらへの憤りがあると考えた方がよさそうだ。みんなは一体どこへ行くのか。みんなとはもちろん僕たち自身のことに他ならない。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:8 ●バージョン:(A)
●表記:悲しい話
●英文名:JAMMING
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[250] 少年は知っている
アップ・テンポなロックンロール・チューン。ハモンドの音色の効いたシングル向きのジャンプ・ナンバーだ(実際にはシングル・カットされていないが)。佐野自身が還暦を過ぎ、リスナーの多くもそれに近づいている中でボーイズもないだろうという意地悪な見方ももちろんできるわけだが、それでも佐野は定期的に少年性について言及している。本作では特に『ダウンタウン・ボーイ』を思い起こさせるストレートな歌詞が印象に残る。

そこにあるのは「少年」という特権的なありようだ。だれもがかつてはそうであったように、社会に対するメンドくさい責任を背負いこむ前の、勝手な都合でふてくされることが許された短い期間に、僕たちは世界の実相を一瞬だけ確かに垣間見たのではなかったか。それは失われて初めて価値を持つ、残像のような記憶だ。「君」を主語にしつつ「この夜の息の根を止めてやれ」と歌う佐野は、それが決定的なものであることを知っている。
[122] ENTERTAINMENT!
●アルバム ●オリジナル
●2022.4.8 ●DaisyMusic
●曲順:9 ●バージョン:(A)
●表記:少年は知っている
●英文名:BOYS KNOW WHY
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[123] WHERE ARE YOU NOW
●アルバム ●オリジナル
●2022.7.6 ●DaisyMusic
●曲順:15 ●バージョン:(B)
●表記:少女は知っている
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

アルバム「WHERE ARE YOU NOW」のボーナス・トラックとしてダウンロードで提供されたバージョン。オケはオリジナルと同じと思われるが、「少女」を主人公にして歌詞が書き換えられており、ボーカルがリテイクされている。



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