logo 全曲バージョン解説23(221-230)


[221] あつさのせい
アルバム「Blood Moon」初回限定盤の特典として配布されたボーナス・トラック。パッケージに同梱されたカードにダウンロード用のパスワードが記載されており、専用サイトからダウンロードする仕組。大滝詠一のカバーでオリジナルは1972年リリースのアルバム「大瀧詠一」に収録されている。作詞・作曲も大滝詠一。佐野が自作以外のカバー曲を公式にリリースするのは初めてであり、2013年末に亡くなった大滝への追悼と見るべきもの。

アレンジは原曲に忠実で、軽快で乾いたロックンロールに仕上がっている。アグレッシヴなギターのリフが曲をドライブし、間奏やアウトロで挿入されるマンドリンが意表を突く。原曲を尊重することで大滝に対する佐野の率直な敬意を表現しながら、パフォーマンス自体はまぎれもない「佐野の作品」に昇華されており、カバーとしての完成度は高い。大滝の遺志を継ぐ者のひとりとして、その業績の最良の部分を伝えようとする名演である。
[104] Blood Moon
●アルバム ●オリジナル
●2015.7.22発売 ●DaisyMusic ●POCE-9390
●曲順:13 ●バージョン:(A)
●表記:あつさのせい
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。アルバムのボーナス・トラックとしてダウンロードで配布された。


[222] 新しい雨
軽快な16ビートに乗せたポップ・ソング。手数の多い小松シゲルのドラムが楽天的に曲をドライブし、中音を巧みに使った聴かせるリードギターは藤田顕か深沼元昭か。「つぶされそうな毎日」「デタラメに散らかったこの世界」の中で、それでも「誰が文句を言っても気にしない」「行きたい場所は自分で決めるさ」と前を向く肯定性は佐野の原点だが、長い年月を経てその認識は経験に裏打ちされ、直接性と説得力は大きく更新されている。

ギターの音がしっかり聞こえるパワー・ポップ・チューンで、バンドによる「チュルル」というコーラスも楽しい。「オレの世代/君の世代」という対比、今ここにあるものを見つめながら先に進もうとする視線、君がさっきから待っているのは乾ききった世界への恵みの雨なのか。それはきっと生を肯定するための手がかりであり、その新しいスタンダードを示そうとする試みが、これほど屈託なくポップな曲に結実したことが素晴らしい。
[105] 或る秋の日
●シングル ●オリジナル
●2016.11.11発売 ●DaisyMusic ●DMANP-012
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:新しい雨
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:7 ●バージョン:(A)
●表記:新しい雨
●英文名:New Rain
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[223] 或る秋の日
EPのタイトル・ソング。シンプルなミドル・テンポの8ビートで、ピアノとアコースティック・ギターの音色が心地いいし、抑え気味に鳴らされるハモンドも効いている。ラブ・ソングだが、佐野のコメントにある通り「発情したボーイ・ミーツ・ガールの恋愛ソングではない」。ある時愛し合い、一度は別れた男女が、時を経て再びめぐり会いまた恋に落ちるという「別れても好きな人」的なストーリー。落ち着いた曲調が情感を添えている。

淡々とした描写を積み重ねる手法や声を張り上げることのないボーカルなどは『詩人の恋』や『新世界の夜』を思わせる。こうした曲作りは佐野の音楽表現の成長、成熟を感じさせるものだ。丁寧にひとつひとつのシーンを歌うことで、その奥にある感情、去来する思いを生き生きと聴き手の中に呼び起こす。それは予め聴き手の中にあったものだが、そこに「呼応」する何か、それが表現のマジックなのだと思う。リスナー冥利に尽きる作品。
[105] 或る秋の日
●シングル ●オリジナル
●2016.11.11発売 ●DaisyMusic ●DMANP-012
●曲順:2 ●バージョン:(A)
●表記:或る秋の日
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[224] 私の人生
フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを思わせる、深いリバーブの効いたミドル・テンポのフォーク・ロック。2015年4月にキャノンマーケティングジャパンが商品プロモーションのためYouTubeで公開したWebドラマ「遠まわりしようよ、と少年が言った。」の主題歌として提供されたもので、1年半を経て音源化された。「このEPのための新しいミックス」との佐野のコメントがある。渡辺シュンスケのピアノがドラマチックな曲。

愛は使い捨ての記号であり空回りの理想、運命は後でつけた理屈でありただの暇な憂鬱、だれも愛や運命のことなんて分かっていないけれど、それでも続いて行くありふれた日々の人生を「愛すべき」ものだと佐野は歌う。なぜならそれは他ならぬ私の、私自身の代えの効かない人生だからであり、どのようなものであれ、それがそうあること自体が祝福されているからだ。肯定することの力は何よりも強い。意志の力を信じてきた佐野の達成。
[105] 或る秋の日
●シングル ●オリジナル
●2016.11.11発売 ●DaisyMusic ●DMANP-012
●曲順:3 ●バージョン:(A)
●表記:私の人生
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[225] 純恋(すみれ)
アルバム「Maniju」からの先行シングルとしてダウンロード、ストリーミング配信のみでリリースされた。曲調はシンプルな8ビートのロックンロール。深沼と思われるリズム・ギターがラウドに全体を引っ張って行く一方、渡辺のピアノがドラマティックなストロークでこの曲のトーンを形作る。ストリングスを模したシンセサイザーの音色も印象的だ。リード・シングルに相応しいビート、スピード、メロディを具えた推進力のある曲だ。

タイトルはまるで女性の名前のようだが、内容的には「恋に落ちればもう/誰もが愚かになるよ」と歌うシンプルなラブ・ソング。「君がいなければ/この心は闇にさまようだけ」という身も蓋もないほど率直な恋への眼差しはまるでティーンエイジャーのよう。この曲がどういうリスナーのどんな心情にフックするのか興味がある。間奏のささやき声のポエトリー・リーディングも新鮮。すべての安定と老成を揺さぶる痛烈なストロークだ。
[108] 純恋(すみれ)
●シングル ●オリジナル
●2017.6.30発売 ●DaisyMusic
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:純恋(すみれ)
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:9 ●バージョン:(A)
●表記:純恋(すみれ)
●英文名:Sumire
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[226] 白夜飛行
深沼のギブソンの軽快なカッティングから始まる、アルバムのオープニング・ナンバー。高桑のベースがよく歌っている16ビートのダンス・チューンであり、オーバーチュア的な役割も担っている。かつての『ミスター・アウトサイド』や『インターナショナル・ホーボー・キング』など、アルバム全体のテーマやトーンを示唆する優れたオープニングの系譜に連なる曲だ。アルバム終盤に収められた『夜間飛行』との呼応、対比も興味深い。

「目を開いて一歩前に前進」(『星の下 路の上』)、「魂のスクリューをじょじょに加速して」(『トーキョー・シック』)など、過去のフレーズのリファレンスが効果的。一方で、「気休めのダンス」「浮気な観客たち」といった言葉遣いには、深刻な現実認識にも関わらず、それだからこそ「今ここ」でのダンスに重要な意味を見出そうとする佐野の視線が窺えるし、それをポップなダンス・チューンに仕上げたこともまた重要なはずだ。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:白夜飛行
●英文名:Midnight Sun
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[227] 現実は見た目とは違う
深沼が弾く12弦ギターの印象的なリフと高桑のソウルフルなベースでグングンとドライブして行くアップ・チューン。アウトロで聞こえるリード・ギターには逆回転ぽいエフェクトも。『白夜飛行』を受けてアルバム全体を加速するアクセラレイター的な位置にある曲だが、ボーカルはポエトリー・リーディングに近いトーキング・スタイル。メロディを拒否し、吐き出すように短いフレーズを繰り返し叩きつける硬質なメッセージ・ソングだ。

「本物の聖者」と「見せかけの聖者」を対比したアフォリズムを繰り返しながら、「現実は見た目とは違う」「真実は見かけとは違う」と、外ヅラのいい「見せかけの聖者」を痛烈にこきおろして行く。世界中に広がるポピュリズムやフェイク・ニュースなど、飽和する情報の中で逆に何が真実か混沌とする状況をくっきりと切り取る喚起力が印象的。何が「本物」で何が「見せかけ」なのかは、あくまでリスナー自身の当事者性に委ねられた。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:2 ●バージョン:(A)
●表記:現実は見た目とは違う
●英文名:The Mirror of Truth
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[228] 天空バイク
穏やかなスロー・ソング。深沼の12弦ギターによるイントロのリフが印象的でビートルズの『Here Comes The Sun』を思わせる。導入部分に特徴的な音色はシタールにも聞こえるがクレジットには記載がなく、ギターのエフェクトか、シンセサイザーによるものか。全体に中期ビートルズを思い起こさせる、オリエンタルでサイケデリックな雰囲気の曲。サビで大きく盛り上げるよりは淡々とメロディを反復しながら情感を喚起して行く手法だ。

「彼女は僕のラヴ」と歌うラブ・ソングで、「ラヴ」を連呼するのは『恋する男』を思い出させる。バイクの後ろに恋人を乗せて走るイメージの歌詞。クルマに比べてバイクが歌詞に登場することは少なく、「壊れたバイクを直して」と歌った『スウィート16』以来ではないかと思う。アルバムの導入から上げてきたテンポをここでいったん落ち着かせ、次の『悟りの涙』に流れを引き渡す重要な位置づけの曲。たゆたうようなビートが美しい。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:3 ●バージョン:(A)
●表記:天空バイク
●英文名:Cosmic Bike
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[229] 悟りの涙
ハネたビートの、ダンサブルでスムーズなソウル・ナンバー。クレジットによれば収録曲の中で最も遅く、唯一2017年に入ってから録音された作品。井上鑑の編曲によるストリングスが曲想の中心となっており、印象的かつ効果的に曲をドライブして行く。しかし、そのポップでスタイリッシュな曲調に乗せられた歌詞はシリアスで政治的なもの。おそらくは沖縄の普天間基地移設、辺野古での代替施設建設をモチーフにしたものと思われる。

そのことは「あの人はやってくるだろう/ブルドーザーとシャベルを持って」というフレーズから強く窺われる。ここにあるのは国際政治や党派闘争が結局のところひとりひとりの「涙」の問題に帰することへの嘆きであり怒り。僕たちにできるのは「寄り添う」ことだけなのか。「悟り」とは何を意味するのか。このプロテスト・ソングをこの上なく流麗でポップなナンバーに仕上げたところに佐野の表現者としての矜持と力量を見る思い。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:4 ●バージョン:(A)
●表記:悟りの涙
●英文名:(She's not your)Steppin' Stone
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[230] 詩人を撃つな
ミドル・テンポでハネたリズムのモダン・ソウル。アルバム「THE SUN」を思わせるフュージョン系のクールな曲調に仕上がっている。大サビはなく、基調になるグルーヴが淡々と曲をドライブして行く。シンプルなバンド・サウンドだ。「できることだけをやってみた」「今はただ虚しいだけ」と歌うこの曲の歌詞には「詩人」というキーワードは登場しない。ここで歌われる「あの人」とは誰のことなのか。歌詞は内省的でやや難解である。

佐野はインタビューで「詩人は撃たれてしまいます。いつの時代でも殺されます」と述べ、「通り一遍の言葉では誤解される世の中で言語表現を抽象化して、現実を超えた表現で相手にタッチしていく詩人もいる」と語っている。この曲のタイトルはこうした佐野の「詩人」観をベースに、表現空間、言論空間が次第に窮屈になりつつあることへの異議を申し立てているもののようにも思われる。「詩人」であることの意味を問う示唆的な作品。
[109] MANIJU
●アルバム ●オリジナル
●2017.7.19発売 ●DaisyMusic ●POCE-9393
●曲順:5 ●バージョン:(A)
●表記:詩人を撃つな
●英文名:Dead Poet
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。



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