logo 全曲バージョン解説19(181-190)


[181] 折れた翼
前半はピアノで流れを作るミドル・バラードだが、大サビから展開するロック・チューン。破れたギターをフィーチャーした構成も工夫されており、改めて聴けば興味深い組み立てではあるが、コンピレーションなどには収録されず、ライブでもあまり演奏されることのない地味な作品。大サビからの展開もカタルシスをもたらすような派手なものではなく、どこか躊躇や逡巡を感じさせる控えめなトーンであり、印象は必ずしも強くはない。

英文タイトルの『Live On』は、『君の魂 大事な魂』の原タイトルでもあり、『Sail On』と対をなすもの。おそらく『君の魂』を作品化した後も、佐野の中に「Live On」つまりは「生き続ける」というフレーズが捨て難く残っていたのではないか。歌詞の内容は「君のいい相棒になる」という比較的シンプルなラブ・ソングだが、「僕の過ち/僕のエゴ」「僕の苛立ち/僕の嘘」への許しを乞うラインは示唆的。この曲を理解するヒント。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:4 ●バージョン:(A)
●表記:折れた翼
●英文名:Live On
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[182] 呼吸
ピアノとアコースティック・ギターを牽引役に、淡々と歌を紡いで行く三拍子のバラード。サビはあるものの、途中から入るドラムは最後までリムショットであり、曲の構成はシンプルで全体に地味な印象の曲。語りかけるように言葉のひとつひとつを丁寧に歌う佐野のボーカルが、この曲のゆったりした曲調にマッチしている。直線的なビートより、たゆたうようなワルツを選んだのも、歌詞をきちんと届けたいという佐野の意図なのだろう。

「目覚めた後に訳もなく/涙に濡れてしまうとき」「何もやる気が出ないのは/君のせいだなんて思わないで」「そんなにまで自分のことを責めないで」といった歌詞からは、メンタルにダメージを受けた大事な人の存在が想像される。「そばにいる」、そして「君の味方」「君の力」だと思っていてくれ、という「寄り添う」アプローチはこれまでのラブソングとは異なったもの。人生の苦い局面でこそ、音楽の持つ力を僕たちは必要とする。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:5 ●バージョン:(A)
●表記:呼吸
●英文名:On Your Side
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:76(5-12) ●バージョン:(A)
●表記:呼吸
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[183] ラジオ・デイズ
2006年11月発売の金子マリのアルバム『B-ethics』に「思い出のレイディオ・ショー‐Radio Days」のタイトルで提供した楽曲を自らレコーディングしたもの。佐野がかつてDJを担当した「Motoharu Radio Show」などのラジオ番組をイメージしたかのような歌詞で「思い出のレディオ・ショー」と歌う。ギターのカッティングとオルガンが印象的なミドル・テンポのロック・チューンで、ラジオで熱心に音楽を聴いた時代への憧憬がにじむ。

2009年にNHK-FMで「Motoharu Radio Show」が再開され佐野がDJとして復帰したときには、この曲のインストがテーマ曲として毎週流された。番組は残念ながら2014年3月をもって終了となったが、その際にはDJナレーションや番組ジングルをダビングし一部を編集したシングル・バージョンが制作された。もったりとした曲調で疾走感や躍動感に欠け、正直曲そのものとしてそんなに好きな作品ではないが、明快なテーマで記憶に残る一曲。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:6 ●バージョン:(A)
●表記:ラジオ・デイズ
●英文名:Radio Days
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:77(5-13) ●バージョン:(A)
●表記:ラジオ・デイズ
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[97] ラジオ・デイズ
●シングル ●オリジナル
●2014.3.12 ●DaisyMusic ●(No Number)
●曲順:1 ●バージョン:(B)
●表記:ラジオ・デイズ
●英文名:記載なし
●バージョン名:

担当するラジオ番組「Motoharu Radio Show」が2014年3月に終了するのに際し番組テーマ曲に追加録音・編集を行いシングル・バージョンとしてリリースしたもの。中間部とアウトロを編集し1分以上短縮、DJのナレーション等をダビングしエンディングはフェイド・アウトに。


[184] Us
タメの効いた16ビートのファンク・ロック。アコースティック・ギターのストロークが曲の骨格を作り、やかましいエレキ・ギターがそこにキャラクターを加えて行く。歌うような高桑のベースも存在感がある。6分近くの比較的長尺の曲で、歌い上げるような大サビはなく、地味な印象の曲ではあるが、コヨーテ・バンドの演奏としては珍しく、ビートよりもグルーヴを感じさせる仕上がりになっている。ライブでもしばしば披露されていた。

「Us」というタイトルや歌詞の言い回しは多義的に見える。「どうして僕らは憎しみ合わなきゃいけない?」「友達になれたらいいな」という歌詞からは、友人との関わり合いを歌ったものとも、恋人への語りかけのようにも思えるし、もしかしたらもっと政治的で大きな関係のことを歌ったもののようでもあり得る。社会の中で疎外されタッチを失いそうになっている困難な同志たちに、ギリギリの手を差し伸べたアンセムだと僕は解したい。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:7 ●バージョン:(A)
●表記:Us
●英文名:Us
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[116] THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020
●アルバム ●コンピレーション
●2020.10.7 ●DaisyMusic ●POCE-9399/400
●曲順:2-6 ●バージョン:(A)
●表記:Us
●英文名:Us
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[185] 夜空の果てまで
アコースティック・ギターのリフで始まるミドル・テンポのフォーク・ロック・チューン。曲想はオーソドックスだが、高桑のベースが小気味よく8ビートを刻んで曲全体を引っ張って行く。小松の抑制的なドラムもいい。コヨーテ・バンド初期の、必要なものだけでできている清々しさがストレートに実感できる演奏だ。サビは声を張り上げず歌うスタイル。コンピレーションには収録されていないが、ライブではしばしば演奏されている。

佐野は繰り返し「愛のしるしを見つけに行こう」と歌う。アルバム全体をロード・ムービーに見立てた時、もっともさすらいを感じさせるナンバーと言っていいだろう。「哀しみ押さえて生き続けて行くだけの毎日じゃない」「むなしさ抱えて歩き続けて行くだけの毎日じゃない」という歌詞は、「ここではないどこか」を探して魂の遍歴を重ねて行くコヨーテ男を思わせるし、それはまた僕たち自身の姿でもあるのかもしれない。重要な曲。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:8 ●バージョン:(A)
●表記:夜空の果てまで
●英文名:Everydays
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[116] THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020
●アルバム ●コンピレーション
●2020.10.7 ●DaisyMusic ●POCE-9399/400
●曲順:2-5 ●バージョン:(A)
●表記:夜空の果てまで
●英文名:Everydays
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[186] 壊れた振り子
佐野のカウントから始まるシャッフル系のミドル・ナンバー。アコースティック・ギターのストロークだけをバックに歌われるAメロから、Bメロでバンドが入って渡辺のピアノが主導、シンプルなサビを経てアウトロは深沼の印象的なギター・ソロで終わる。1コーラスのみ3分強の短い曲だが、改めて聴いてみるまでオーソドックスな曲構成を持つ普通の曲だと思っていた。アルバム終盤への橋渡し的に歌われる幕間のような位置づけだろうか。

「怪しげな雲」や「見慣れない波」が近づいてきている。「気まぐれな野蛮人」という後の作品にもつながる語彙がここで現れる。いつの間にか風向きが変わってしまった上に土砂降りの雨だ。そして「壊れた振り子は傾いたまま」。「気をつけろKid.」というつぶやきは自分自身に宛てたものか。それは、先が見通せず、息苦しい世相の中で、せめて家まで無事に戻りたいと願う僕たちに対する鋭い警句であり、都市生活の静かなブルースだ。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:9 ●バージョン:(A)
●表記:壊れた振り子
●英文名:Broken Pendulum
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[187] コヨーテ、海へ
アルバムのタイトル・チューンであり、堤幸彦監督による同名のテレビ・ドラマも制作された。イントロを省略しピアノのストロークでおもむろに歌い始めるスタイル。徐々に音数が増えてくる重心の低いスロー・バラードで、8分に迫る長尺の重厚な作品だ。このアルバムの制作を通しバンドとしてひとつの形ができあがってきたことを窺わせるパフォーマンス。曲調は決して明るくはないが、光を求めるようなポジティブなトーンが印象的。

アルバムの主人公であるコヨーテ男が流転を続けた末に海にたどり着き、「あてのない夢」をそこに捨て去る一方で、ただひとつ「自分自身でいたい」と望むラストシーン。「勝利」という言葉はこれまでの佐野の語彙になかったもの。魂の遍歴を重ねた結果、今ここにいること、今ここにあるものを肯定しながら、何よりもまず生き延びることを希求するというこのアルバムのテーマを力強く確認した我らの時代のアンセム。波の音で終わる。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:11 ●バージョン:(A)
●表記:コヨーテ、海へ
●英文名:Coyote
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:78(5-14) ●バージョン:(B)
●表記:コヨーテ、海へ
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン(A)からアウトロ後の波の音のSEをカットしたバージョン。長崎県の「軍曹」さんの指摘により別バージョンとした。
[116] THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020
●アルバム ●コンピレーション
●2020.10.7 ●DaisyMusic ●POCE-9399/400
●曲順:1-15 ●バージョン:(B)
●表記:コヨーテ、海へ
●英文名:Coyote
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン(A)からアウトロ後の波の音のSEをカットしたバージョン。


[188] 黄金色の天使
オーソドックスな8ビートのフォーク・ロック・チューン。アルバム全体を一本のロードムービーに見立てれば、『コヨーテ、海へ』で「生き続けること」への希求を肯定して本編が終わった後、エンドロールのバックで流れるテーマ曲のイメージ。そのため曲間に波の音を配し、いばらくのインターバルを置いておもむろに曲が始まる趣向になっている。渡辺のハモンドが効果的に曲をドライブし、ストレートでのびやかな曲調が心地よい。

ここで佐野が探し求めるのは「黄金色の天使」。しかしもちろんここでいう「黄金色の天使」はただの符丁に過ぎない。「誰もがとまどいながら大人になってゆく」「今はもう戻れないあの日あのときの真実」という認識からは、それでもなお探し続ける「黄金色の天使」がそうした「大人になること」や「真実」と表裏一体の何かであることが示唆される。おそらくは決して手にすることのできない「黄金色の天使」はそれ故に美しく尊い。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:12 ●バージョン:(A)
●表記:黄金色の天使
●英文名:Golden Angel
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:79(5-15) ●バージョン:(A)
●表記:黄金色の天使
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[116] THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020
●アルバム ●コンピレーション
●2020.10.7 ●DaisyMusic ●POCE-9399/400
●曲順:1-12 ●バージョン:(B)
●表記:黄金色の天使
●英文名:Golden Angel
●バージョン名:2020 mix & radio edit

渡辺省二郎による新ミックス。イントロを4小節カットしたうえ、アウトロのフェイド・アウトを早めることでオリジナルより1分ほどサイズを短くしている。イントロのピアノのストロークが聞こえなくなるなどミックスもかなり変えられている。


[189] じぶんの詩
コメディアンの山口智充と俳優の山本耕史のユニット、The Whey-hey-hey Brothersに提供した楽曲(提供時のタイトルは『じぶんの詩―A BEAUTIFUL DAY』)のセルフ・カバー。アルバム「Coyote」のボーナス・トラックとしてダウンロードのみで配布されたが、その後、ボックス・セットにアウトロを編集されたバージョンが収録された。間奏のピアノ・ソロでkyOnがコールされており、演奏はHKB(提供時のオケの一部差替)と推測される。

曲自体は軽快なロックンロールで、饒舌に転げるピアノとアコースティック・ギターのストロークが絡み合いながらドライブして行く。他愛のない毎日の生活を「ある素晴らしい日」という表現で肯定して行く視線は、アルバム本編と共通するもの。提供曲らしい割り切りがかえって愛すべきポップ・ソングに結実したもので、かつての『Looking For A Fight』を思わせる。4分過ぎにいったんカット・アウトした後、長いアウトロが始まる。
[84] Coyote
●アルバム ●オリジナル
●2007.6.13 ●DaisyMusic ●POCE-9381
●曲順:13 ●バージョン:(A)
●表記:じぶんの詩
●英文名:記載なし
●バージョン名:Moto Vocal Version

オリジナル・バージョン。iTunes Storeでのダウンロード販売でのみ予約特典のボーナス・トラックとして収録。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:80(5-16) ●バージョン:(B)
●表記:じぶんの詩
●英文名:記載なし
●バージョン名:Fade out version

オリジナル・バージョンの長いアウトロ部分を途中でフェイドアウトしたショート・バージョン。もっともオリジナル・バージョンも最後はフェイドアウトしており、バージョン名は不正確というか不親切。


[190] 枚挙に暇がない
アルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」のロンドンでのセッションでレコーディングされたがアルバムには収録されずアウト・テイクとなっていたもの。2008年にリリースされた同アルバムの「限定編集版」にレア・トラックとして初めて収録された。軽快なスカ・ナンバーで、スペシャルズやマッドネスなどのスカ・リバイバル、2トーン・ムーブメントの影響を受けたものだろう。ライナーには「遊びでのジャム・セッション」とある。

「こんなにバカげた世界」を「どうすることもできない」と繰り返す現実認識自体は重く、シリアスなものであるが、それを強烈なスカのリズムに乗せることで、現実を受け入れたうえでビートの力を借りてそれを解放しようとする佐野の崖っぷちのオプティミズムがより明確になっている。繰り返すうちに「マイキョ」という言葉の意味が失われるゲシュタルト崩壊が印象的。力のあるポップ・ソングで、アルバム本編に収録して欲しかった。
[85] ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
   限定編集版
●アルバム ●コンピレーション
●2008.6.4 ●Sony Music Direct ●MHCL 1325-6
●曲順:18 ●バージョン:(A)
●表記:枚挙に暇がない
●英文名:記載なし
●バージョン名:Unreleased

オリジナル・バージョン。



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