logo 全曲バージョン解説17(161-170)


[161] 最後の1ピース
ハネた16ビートのファンク・ロック・チューン。印象的な山本拓のサックスで始まり、軽快なビートが時にシンコペーションの効いたキメのブレイクを伴いながらグルーヴして行く。ホーボー・キング・バンドの高い演奏能力、表現能力が佐野の楽曲と噛み合って、直線的なロックンロールとは異なった深みを見せるアルバムの特徴をよく表している。当時佐野が好んで聴いていたフィッシュなどのジャム・バンドの影響を強く感じさせる曲だ。

アルバムに収録のバージョンは4分弱に編集されているが、後に6分強のコンプリート・バージョンがリリースされており、この曲のクロスオーバー的な重層性をよりはっきりと聴くことができる。自らに言い聞かせるように「オレは強くなりつつある」と歌う歌詞には、この時期以降頻出する「残酷」というキーワードが使われ、ジャズ・トランペッターであるチェット・ベイカーの名前も登場する。事実上アルバムのみ収録だが完成度は高い。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:2 ●バージョン:(A)
●表記:最後の1ピース
●英文名:At the end of the world
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[76] THE SUN STUDIO EDITION
●アルバム ●コンピレーション
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3802
●曲順:1 ●バージョン:(B)
●表記:最後の1ピース
●英文名:記載なし
●バージョン名:complete version

アルバム収録にあたって編集される前のロング・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:2 ●バージョン:(C)
●表記:最後の1ピース
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。


[162] 恵みの雨
佐野には珍しくイントロなしでいきなり始まる。ルーズでダルなミドル・テンポの16ビートでグルーヴするブルース・ロック・チューン。重くうねるように曲を先導しながらもよく歌う井上のベースが特徴的。間奏では山本のサックス・ソロが泥臭いリードを聴かせ、そこに佐橋のギターが絡む構成。kyOnの鳴らすクラビネットの音色は70年代を意識したものか。イントロのついたオリジナルが後にリリースされ、曲の全貌が明らかになった。

「絶え間ないビートのすき間にすべりこみ」という歌詞はかつての『N.Y.C.1983-1984』の「16ビートのすき間にもぐりこもうとする電気的なカンガルー達」を思い起こさせる。「やるせない日々の孤独」の上に降り注ぐ優しい雨に濡れ、「答えはまだなくていい」「我が道を行け」と寄り添う。「この毎日の人生」と締めくくられるこの曲は、また「シャララ」の楽天性の系譜に連なる作品でもある。佐野の世界への視線を感じさせる佳曲。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:3 ●バージョン:(A)
●表記:恵みの雨
●英文名:Gentle Rain
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[76] THE SUN STUDIO EDITION
●アルバム ●コンピレーション
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3802
●曲順:2 ●バージョン:(B)
●表記:恵みの雨
●英文名:記載なし
●バージョン名:complete version

アルバム・収録にあたって編集される前のロング・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:4 ●バージョン:(C)
●表記:恵みの雨
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:69(5-5) ●バージョン:(A)
●表記:恵みの雨
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[163] 希望
アコースティック・ギターのイントロで始まるミドル・テンポのフォーク・ロック・ナンバー。大サビのない淡々としたメロディを繰り返して行く構成で、大仰なソロなどは聴かれず、ドラムのフィルインすらもほとんどない。ハネたリズムの曲が多いアルバムの中では最も地味な曲と言ってもいいだろう。しかし、その地味さにも関わらずライブではしばしば演奏されており、最近の曲の中では比較的認知度の高いもののひとつかもしれない。

「墓参りの準備で/街の市場に立ち寄った」といった歌詞に見られるように、郊外にマイホームを買い平凡で愛すべき家庭を築いた男の視線で歌われる、かなり異色な曲。「ありふれた日々/ありふれたブルー」というラインは後の『虹をつかむ人』を示唆しているようでもある。日は昇り、日は沈み、夢の続きから始めてみたくなる晴れた日のこと。この曲に敢えて「希望」というタイトルをつけた佐野の胸に去来したのは何か。重要な曲だ。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:4 ●バージョン:(A)
●表記:希望
●英文名:Hope
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:6 ●バージョン:(B)
●表記:希望
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:68(5-4) ●バージョン:(A)
●表記:希望
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[115] GREATEST SONGS COLLECTION 1980-2004
●アルバム ●コンピレーション
●2020.10.7 ●Sony Music Direct ●MHCL 30640-2
●曲順:3-14 ●バージョン:(A)
●表記:希望
●英文名:Hope
●バージョン名:Original version

オリジナル・バージョン。


[164] 地図のない旅
アコースティック・ギターの力強いストロークから始まるハネた16ビートのストレートなカントリー・ロック・ナンバー。アコースティック・ギターとピアノのシンプルなアンサンブルでグルーヴを生み出す。この曲のダウン・トゥ・ジ・アースなキャラクターを決定づけるスライドはアコースティック・ギターをボトルネック奏法で鳴らしたものか。ストレートなアレンジだが確かな技量の裏づけがあって初めて説得力を持つ難易度の高い曲。

この曲名は、レーベルの移籍をはさんで長期に亘ったアルバムのレコーディング・ドキュメンタリーを吉原聖洋がまとめた書籍のタイトルにもなった。この時期から頻出するようになる「残酷」という言葉が『最後の1ピース』と並んでここでも使われている。嘆きの境界線や、ひとりぼっちの永遠をさまよい、さすらう君の魂への鎮魂歌だが、リフレインではささやくように繰り返される「強く」のフレーズが耳に残る。硬質なメッセージだ。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:5 ●バージョン:(A)
●表記:地図のない旅
●英文名:Trail
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:8 ●バージョン:(B)
●表記:地図のない旅
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。


[165] 観覧車の夜
日本を代表するラテン・ベーシストである高橋ゲタ夫をアレンジに迎え、オルケスタ・デル・ソルのメンバーらによって演奏されたラテン・ナンバー(HKBからは佐橋佳幸のみギターで参加)。ブラス・セクションが大きくフィーチャーされており、本格的なサルサ・アレンジになっている。際立った特徴のある曲で、アルバムには4分弱に編集されたバージョンが収録されているが、5分半の編集前のロング・バージョンもリリースされている。

どこか呪術的で禍々しい雰囲気を秘めたAメロから、霧が晴れたように視界の開けるサビへと大きく展開するダイナミックな構成が曲調と呼応して強い印象を残す。英文タイトルが「Joy and Fear(悦びと不安)」なのも示唆的で、この曲の持つ二面性が意識されているかのようだ。夜空に黒々とそびえる観覧車のイメージは幻想的。プロのラテン・ミュージシャンによるアレンジ、演奏が余すところなく楽しめるロング・バージョンで聴きたい。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:6 ●バージョン:(A)
●表記:観覧車の夜
●英文名:Joy and Fear
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[76] THE SUN STUDIO EDITION
●アルバム ●コンピレーション
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3802
●曲順:3 ●バージョン:(B)
●表記:観覧車の夜
●英文名:記載なし
●バージョン名:complete version

アルバム・収録にあたって編集される前のロング・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:9 ●バージョン:(C)
●表記:観覧車の夜
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。


[166] 恋しいわが家
アルバム「THE BARN」的な手触りのあるシンプルでゆったりしたミドル・テンポのカントリー・ロック。この曲で聴くべきは何といっても間奏とアウトロの佐橋のリード・ギターだろう。エフェクトを排し、ギターの素の鳴りを中心に置きながら、オリジナリティのあるフレージングを聴かせる演奏は、佐橋が日本を代表するロック・ギタリストであることを改めて印象づける。曲中のオブリガートも含め『ヤァ!ソウルボーイ』と並ぶ名演だ。

かつて「街に出よう」と歌った佐野が、『恋しいわが家』というタイトルで「あこがれのHome Sweet Home」に言及するのは、かつて『空よりも高く』で「うちに帰ろう」と宣言したこととパラレルなのか。そこには今ここにあるものを肯定することから始めてみる生への慈しみがあり、「途方にくれてる暇なんてない」という認識に裏づけられた直接性への希求がある。「完璧とは言えないけれど気持ちのいい日」についての歌。是れ善き哉。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:7 ●バージョン:(A)
●表記:恋しいわが家
●英文名:The Homecoming
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[167] 明日を生きよう
ゆったりとしたミドル・テンポのハネた16ビート・ナンバー。サックスが自由に駆け回る一方で抑制的なフルートのフレーズも挿入されており、アルバムの中でも山本拓夫の演奏が最もよく楽しめる曲かもしれない。Dr.kyOnのピアノも躍動的で、アウトロでは裏打ちの決めが入るなどHKBの高い演奏力が素直に表現された、リラックスした仕上がり。メジャー系のコード進行で楽天的な雰囲気がチャーム・ポイントになったフュージョン調の曲。

「本当の真実が遠のいて行く」「簡単な答えさえわからなくなる」といった歌詞から想像されるようなシリアスなムードはなく、むしろ「じょじょに解き放たれてゆく」といったイメージや「Lost and Found」という英文タイトルの通り、再生や解放を感じさせる作りになっている。そのポジティブさからは、ここまでの長い道のりを思いながらも、だからこそもう時間をムダにしたくないという意志が感じられるようだ。気楽に聴きたい佳曲。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:9 ●バージョン:(A)
●表記:明日を生きよう
●英文名:Lost and Found
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:12 ●バージョン:(B)
●表記:明日を生きよう
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。


[168] レイナ
ハネた16ビートのミドル・バラード。井上鑑のアレンジによるストリングスをフィーチャーし穏やかなラブ・ソングに仕上げている。Dr.kyOnのピアノがシンプルだがエモーショナルな演奏を聴かせて印象的だ。ありそうでなかった曲調で、アルバム「Time Out」あたりの親密なバラードのいくつかを思い起こさせる。こういうタメの効いた曲を演奏させるとやはりHKBは抜群に上手い。手数の多い古田のドラム、歌うような井上のベースもいい。

「ずっとひとりで闘ってきた」女性を家に迎えて静かな夜を迎えるという歌詞。「子供達は寝かしつけておいたよ」というラインは、この女性と語り手との間の微妙な関係やこれまでの経緯、歳月を示唆しているようだ。同じアルバムの『希望』などと同様に、過ぎ去った時間を素直に受け入れて、今ここにあるものとまっすぐ向き合う、その意味で大人のラブ・ソングと言っていいだろう。優しさを裏づけているのは切実さなのかもしれない。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:10 ●バージョン:(A)
●表記:レイナ
●英文名:Leyna
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:67(5-3) ●バージョン:(A)
●表記:レイナ
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[169] 遠い声
アコースティック・ギターの印象的なストロークで始まるフォーク・ロック調のナンバーだが、リズムはHKBらしくハネた16ビート。サビで一部、カウベルをガイドにしたストレートな8ビートになる変則的なリズム・チェンジが特徴的。軽快な曲だが曲調はマイナーで、山本のサックスもどこか哀調を帯びている。タイトル通り遠い日への憧憬とか悔恨を思わせる、ユニークなスケール感のある曲だ。かっちりしたリズム構築が曲を支えている。

歌詞は誰かに会うためにクルマを走らせ「もう少しで君に会える」「少しずつ近づいて行っているよ」と歌うラブ・ソングだが、「どうにか約束に間に合いそうさ」という歌詞や『遠い声』というタイトルからは、何か大事な古い約束のために目的地に急ぐイメージもある。「1センチ、2センチ、3センチ」というフレーズは同時期にポエトリー・リーディングで披露された『何が俺達を狂わせるのか?』にも現れるもの。不思議と胸に残る曲だ。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:11 ●バージョン:(A)
●表記:遠い声
●英文名:Closer
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[170] DIG
アルバム発表前からライブでは『ブロンズの山羊』のタイトルで披露されていた曲。アルバム収録に当たってタイトルが変更されたようだ。ハネた16ビートの曲が多いアルバムの中では珍しく重たいギターのリフで始まるタメの効いたロック・チューン。佐橋とDr.kyOnに加え長田進が参加、ギターでグイグイ押してくるのはHKBの曲としてもあまりないパターンである。曲はスタジオ録音だが、なぜか冒頭にライブの歓声がダビングされている。

「彼女はいかれている」「君を見てる/夜明けにたどり着く前に/燃え尽きてしまわぬように」という歌詞からは、危なっかしいパートナーを見守るシチュエーションか。「あせらないで/肩の力を抜いていこう」というラインには、このアルバムで顕著になった、今ここにあるものをそのまま慈しむ視線が感じられる。『ブロンズの山羊』も『DIG』も曲中には登場せず、意図の分かりにくいタイトル。発表後は顧みられることの少ない曲だ。
[75] THE SUN
●アルバム ●オリジナル
●2004.7.21 ●DaisyMusic ●POCE-9380
●曲順:12 ●バージョン:(A)
●表記:DIG
●英文名:In our time
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[77] THE SUN LIVE AT NHK HALL
●アルバム ●ライブ
●2005.12.7 ●DaisyMusic ●POCE-3803
●曲順:14 ●バージョン:(B)
●表記:DIG
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

2005年2月20日、東京・NHKホールで行われた「THE SUN TOUR」最終日のライブ。



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