logo 全曲バージョン解説15(141-150)


[141] どこにでもいる娘
アコースティック・ギターとピアノが印象的なスロー・ソング。アルバムが発表された1997年の夏に亡くなった妹のことを歌った作品だと説明されている。佐野は父親、母親を相次いで亡くした後であり、妹の死が佐野に深刻なインパクトを与えたことは容易に想像できる。この曲はおそらく妹に対するレクイエムであるとともに、佐野自身にとっても、何とかして自分の外に掻き出さなければならない切迫した感情であったのかもしれない。

そのような背景を知って聴くと、「今日で何もかもが終わる」といったような歌詞のひとつひとつが重く、逃げ場のない生の意味合いのようなものを意識しないではいられない。しかし、佐野がそこに見出そうとしたものは、果たしてやり場のない痛み、悲しみだけだっただろうか。「But It's Alright」と繰り返し、「強くあれ」と願う佐野がここで希求したものは、おそらく佐野自身が生き延びるための光であり意志であったのだと思う。
[61] THE BARN
●アルバム ●オリジナル
●1997.12.1発売 ●Epic ●ESCB 1849
●曲順:8 ●バージョン:(A)
●表記:どこにでもいる娘
●英文名:An Ordinary Girl
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[142] 誰も気にしちゃいない
アコースティック・ギターを掻きならしながら歌われるハネたワルツ。ひとつながりのコンパクトなシークエンスを淡々と繰り返して行くスタイルは、初期のボブ・ディランなどのトラディショナルなフォーク・ソングを彷彿させる。サビの繰り返しなど若干の起伏はあるものの、基本的には敢えて感情の高まりを抑え歌詞をひとつひとつ伝えるような作りになっている。シンプルな問いかけの繰り返しが、プロテスト・ソングとして効果的だ。

誇りをなくした子供たち、悲鳴を上げる母親たち、庭を荒らされても何も言えず、本当のことが知らされない、夢をなくした国。佐野はしかし、それらの原因として誰かを指弾する訳でも、戦いを組織する訳でもない。「なぜなの?とはきかないで」と歌い、「ただせつない」と嘆くことで、問題の本質は僕たち自身のコミットメントであり、すべては個的な問題なのだということを佐野は明確に指摘している。佐野の表現の成熟を感じる作品。
[61] THE BARN
●アルバム ●オリジナル
●1997.12.1発売 ●Epic ●ESCB 1849
●曲順:9 ●バージョン:(A)
●表記:誰も気にしちゃいない
●英文名:Nobody Cares
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[62] Doctor
●シングル ●オリジナル
●1998.4.22発売 ●Epic ●ESDB 3833
●曲順:2 ●バージョン:(A)
●表記:誰も気にしちゃいない
●英文名:Nobody Cares
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[143] ドライブ
佐橋佳幸のスライドが全開の快調なカントリー・ロック。このアルバムでほぼ唯一と言ってもいい陽性のバイブレーションを何の留保なく伝える曲だ。レイドバックしていると言ってしまえばそれまでだが、当時の日本でこんなアーシーな音をストレートに鳴らして来るコマーシャル・アーティストはなかった(今もたぶんない)。シンプルなバンド・サウンドだが、前述の通りライ・クーダーばりの佐橋のギターがハンパない喚起力を持つ。

ニューオリンズからニューヨークまでは1,300マイル。一方でカリフォルニアからメキシコは、LAからティファナで250マイル弱。暑く乾いた埃っぽいアメリカの荒野にのびるインターステイトが、そんなところに行ったことすらないはずの僕の脳裏にまで浮かんでくる圧倒的なリアリティ。まるで何かの救済のように響くアメリカへの憧憬。「灯を消して種まきをしよう」のところでニヤッとするのが大人のたしなみ。ライブでも演奏される。
[61] THE BARN
●アルバム ●オリジナル
●1997.12.1発売 ●Epic ●ESCB 1849
●曲順:10 ●バージョン:(A)
●表記:ドライブ
●英文名:Drive
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[144] ロックンロール・ハート
タイトルは「ロックンロール」だが曲調はゆったりしたカントリー・タッチのミドル・バラード。ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンがブルース・ハープとバック・ボーカルで参加している。アメリカのカントリー・サイドでレコーディングされ、ロックが楽天的なエネルギーのよりどころであり得た時期の残滓のようなものをモチーフにしたアルバムの中で、その夢が現代にどれだけ有効かを最も直接的に問う曲と言っていい。

「ロックンロール」をタイトルに冠するのは佐野のレパートリーの中でも『Rock & Roll Night』とこの曲だけ。彼にとってロックンロールという言葉が単に古臭くやかましい音楽を指すだけのものではなく、何かある種のスタイル、大げさにいえば思想を表すものであることが分かるだろう。ライブで演奏されることも少なくなく、佐野がこの曲を重要な作品と考えていることが窺える。揺れ、転がるという字義に忠実なロックンロールだ。
[61] THE BARN
●アルバム ●オリジナル
●1997.12.1発売 ●Epic ●ESCB 1849
●曲順:11 ●バージョン:(A)
●表記:ロックンロール・ハート
●英文名:Rock and Roll Heart
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[66] The 20th Anniversary Edition
●アルバム ●コンピレーション
●2000.1.21発売 ●Epic ●ESCB-2080/1
●曲順:30 ●バージョン:(A)
●表記:ロックンロール・ハート
●英文名:記載なし
●バージョン名:Original

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16発売 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:56(4-8) ●バージョン:(A)
●表記:ロックンロール・ハート
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[145] ズッキーニ―ホーボーキングの夢
アルバムのラストに置かれたインストルメンタル。橋幸夫と吉永小百合がデュエットした『いつでも夢を』を思わせるオルガンの主旋律は、アルバムのプロデューサーであるジョン・サイモンの作曲によるもので、佐野元春の名前が作詞・作曲にクレジットされていない数少ない曲のひとつ。左右のチャンネルに振り分けられた佐橋佳幸とKyonのギター・バトルが聴ける。タイトルはサイモンがスタジオに持参したズッキーニにちなんだものと。
[61] THE BARN
●アルバム ●オリジナル
●1997.12.1発売 ●Epic ●ESCB 1849
●曲順:12 ●バージョン:(A)
●表記:ズッキーニ―ホーボーキングの夢
●英文名:Zucchini - The Hobo King Dream
●バージョン名:Instrumental

オリジナル・バージョン。


[146] だいじょうぶ、と彼女は言った
アルバムから先行リリースされたシングル曲。ミドル・テンポのフォーク・ロックで、『ジャスミン・ガール』『レイン・ガール』など、街で生きる女性を第三者の視点で描写する一連の系譜に連なる作品。おそらく佐野の演奏と思われるアコースティック・ギターのストローク、間奏やアウトロで挿入される佐橋のスライド・ギターが印象的だ。穏やかな曲調の中に、一歩踏み出して歩き始める意志とか決意、覚悟のようなものを感じさせる。

「気にするなよ、済んだことだ」と語りかける歌詞は、ボブ・ディランの『Don't Think Twice It's All Right』を意識したものか。「大丈夫」というのはもちろん、都市生活のハードな現実の中でも何とか自分を肯定し毎日をやり繰りするための精いっぱいのオプティミズムであり、歌詞には一度も出てこない言葉。「De bop a doo」という軽快なスキャットは祈りであり赦しである。地味な曲だが自分で編集するベストには必ず入れる作品。
[63] だいじょうぶ、と彼女は言った
●シングル ●オリジナル
●1999.7.23発売 ●Epic ●ESCB 2001
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:だいじょうぶ、と彼女は言った
●英文名:Don't think twice it's over.
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[64] Stones and Eggs
●アルバム ●オリジナル
●1999.8.25発売 ●Epic ●ESCB 2022
●曲順:6 ●バージョン:(A)
●表記:だいじょうぶ、と彼女は言った
●英文名:Don't think twice it's over
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[79] THE SINGLES EPIC YEARS
●アルバム ●コンピレーション
●2006.7.12発売 ●Sony Music Direct ●MHCL-836/7
●曲順:35 ●バージョン:(A)
●表記:だいじょうぶ、と彼女は言った
●英文名:記載なし
●バージョン名:Original single version

オリジナル・バージョン。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16発売 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:60(4-12) ●バージョン:(A)
●表記:だいじょうぶ、と彼女は言った
●英文名:記載なし
●バージョン名:Original single version

オリジナル・バージョン。


[147] No surprise at all―驚くに値しない
シングル『だいじょうぶ、と彼女は言った』のカップリングとしてオーディオ・アクティブによるリミックスが先にリリースされ、その後アルバムでオリジナルが発表された。リミックスでは重く引きずるようなファンクに乗せてディストーションのかかった佐野のボーカルがカッコいい。レビューに際して久しぶりにリミックスを聴いたが断然こっちがいい。バック・トラックは佐野自身による打ちこみとギター、キーボードとのクレジット。

ボーカル・スタイルはラップ調で、アルバム「VISITORS」の頃以来の取り組み。とはいえ当時と同じくこれは必ずしも純粋なラップというよりは、佐野元春の解釈による現代ブラック・ミュージックの再構築ということか。ナンセンスな歌詞の中に尖鋭的な警句をしのばせる手法はヒップホップの常套手段。必ずしも方向性の明確でないアルバムの中でも重要なトライアル。クレジットが正確なら佐野のギター・プレイはひそかに聴きどころだ。
[63] だいじょうぶ、と彼女は言った
●シングル ●オリジナル
●1999.7.23発売 ●Epic ●ESCB 2001
●曲順:2 ●バージョン:(A)
●表記:No surprise at all―驚くに値しない
●英文名:記載なし
●バージョン名:Audio Active remixed version

オーディオ・アクティブによるリミックス。後にアルバムに収録されたオリジナル・バージョンとは演奏時間も異なる。
[64] Stones and Eggs
●アルバム ●オリジナル
●1999.8.25発売 ●Epic ●ESCB 2022
●曲順:3 ●バージョン:(B)
●表記:驚くに値しない
●英文名:No surprise at all
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[67] Club Mix Collection 1984-1999
●アルバム ●リミックス
●2000.10発売 ●Epic ●E30100002A
●曲順:8 ●バージョン:(A)
●表記:No surprise at all―驚くに値しない
●英文名:記載なし
●バージョン名:Audio Active Remixed Version

シングルのカップリングとして発表したリミックス・バージョンを収録したもの。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16発売 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:62(4-14) ●バージョン:(B)
●表記:驚くに値しない
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。


[148] GO4
先行シングル収録の『驚くに値しない』で示唆されていたラップ、ヒップホップへのアプローチだが、こちらの方がより「ラップらしい」。アルバムの冒頭にオリジナル、ラストに同じ曲のリミックスが置かれるという異例の構成は、アルバムにおけるこの曲の重要性を示している。リミックスはドラゴン・アッシュの降谷建志とBOTS。ドラゴン・アッシュに代表される若い世代のラッパーに刺激を受けて再びヒップホップにトライしたという。

この曲もバック・トラックは佐野一人による打ち込み。『GO4』というタイトルは当然ながら「Go for」のモジりであると同時に、XTCのアルバム「GO2(=Go to)」も意識したものか。のちにポエトリー・リーディング作品を中心にリリースする自主レーベルの名前にも使われた。音楽的には正直平板。リリックには過去作品からの引用が多いが、アンセムとして新しい地平を切り拓くには非力。オリジナルより『Impact』の方がアグレッシヴだ。
[64] Stones and Eggs
●アルバム ●オリジナル
●1999.8.25発売 ●Epic ●ESCB 2022
●曲順:1 ●バージョン:(A)
●表記:GO4
●英文名:GO4
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[64] Stones and Eggs
●アルバム ●オリジナル
●1999.8.25発売 ●Epic ●ESCB 2022
●曲順:10 ●バージョン:(B)
●表記:GO4 Impact
●英文名:GO4 Impact
●バージョン名:記載なし

降谷建志、BOTSによるリミックス。


[149] C'mon
ハネたリズムの軽快なソウル・ナンバー。シンプルなアレンジで小田原豊の切れ味のいいドラムが印象に残る。このアルバム特有のチープなシンセの音色が少しばかり気になるのは仕方のないところか。この時期の佐野が多用するキーワードのひとつ「残酷な世界」が冒頭に現れる。ハードでタフな現実を目の前にしながらも、「それでいいさ」「よくあることさ」と受け容れる器量はかつての若さゆえの強がりとはまた異なった次元のものだ。

微妙に味のあるリード・ギターは佐野自身によるものか、あるいはKyonか。改めて聴くとパーカッションがこの曲のビートを下支えしていることがよく分かる。顧みられることの少ない曲だが、風に揺れるタンポポのイメージに象徴されるような力の抜けた楽天性がいい。アルバム「月と専制君主」ではルーズなアコースティック・ブルースにリアレンジされたがむしろ曲のキャラクターには合っているかも。「God」への呼びかけも興味深い。
[64] Stones and Eggs
●アルバム ●オリジナル
●1999.8.25発売 ●Epic ●ESCB 2022
●曲順:2 ●バージョン:(A)
●表記:C'mon
●英文名:C'mon
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[88] 月と専制君主
●アルバム ●コンピレーション
●2011.1.26発売 ●DaisyMusic ●POCE-3808
●曲順:8 ●バージョン:(B)
●表記:C'mon
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

セルフ・カバー・アルバムのためにリテイク。よりアコースティックで軽快なタッチにリアレンジされている。


[150] 君を失いそうさ
[64] Stones and Eggs
●アルバム ●オリジナル
●1999.8.25発売 ●Epic ●ESCB 2022
●曲順:4 ●バージョン:(A)
●表記:君を失いそうさ
●英文名:I'm losing you
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョン。
[68] GRASS
●アルバム ●コンピレーション
●2000.11.22発売 ●Epic ●ESCB-2190
●曲順:6 ●バージョン:(B)
●表記:君を失いそうさ
●英文名:I'm losing you
●バージョン名:'00 mix version

渡辺省二郎がリミックス。オリジナル・バージョンではアウトロが次の曲とつながれていたが、このバージョンではフェイド・アウトになっておりその分サイズもやや短い。
[91] SOUND & VISION 1980-2010
●アルバム ●コンピレーション
●2012.5.16発売 ●Sony Music Direct ●DYCL 1821-5
●曲順:61(4-13) ●バージョン:(C)
●表記:君を失いそうさ
●英文名:記載なし
●バージョン名:記載なし

オリジナル・バージョンのエンディングをフェイド・アウトに編集したバージョン。アルバム「GRASS」収録のバージョンとも異なる。



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