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45TH ANNIVERSARY TOUR

■ 2025年10月28日(火) 19:00開演
■ LINE CUBE SHIBUYA

佐野元春 & THE COYOTE BAND

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
セットリスト  
● Young Bloods
● ガラスのジェネレーション
● だいじょうぶ、と彼女は言った
● ジュジュ
● ダウンタウン・ボーイ
● 欲望
● インディビジュアリスト
● 君をさがしている(朝が来るまで)
● 誰かが君のドアを叩いている
● 新しい航海
● レインガール
● 悲しきRADIO

● さよならメランコリア
● 銀の月
● 斜陽
● 愛が分母
● 純恋(すみれ)
● La Vita è Bella
● エンタテイメント!
● 水のように
● 大人のくせに
● NEW AGE
● スウィート16
● SOMEDAY
● 明日の誓い
● 約束の橋

● スターダスト・キッズ
● So Young
● アンジェリーナ



ツアーも終盤にさしかかり、コヨーテ・バンドの演奏も確信をもって鳴らされるようになった。ツアー序盤にあった手さぐり感も、中盤にあった調整感もなくなり、このセットリスト、このライブアレンジに対する自信がうかがえる。アルバム「HAYABUSA JET I」からの曲もライブを重ねて座りがよくなってきた(こちらが慣れたというのもある)。

「HAYABUSA JET II」のリリースも発表され、このツアーで演奏されているコヨーテ・バンド以前のレバートリーの多くがそこに収録されることもわかって、このライブの構成の意図もかなりはっきりしてきたように思う。コヨーテ・バンドとしての演奏のベースを広げること、今の温度感、スピード感で佐野の表現をアップデートすること。佐野が「再定義」という言葉で表現しようとしているのはざっくりそういうことなんだろうというのがライブを重ねるなかで実感できるようになった。

この日、僕は2階席のいちばん後ろから見ていたが、ステージ全体の様子と1階席のオーディエンスの様子が俯瞰できたのがよかった。前橋では前から3列めで間近にライブの迫力を体感することができたが、引いて見ることでライブの全体をバランスよく感じられた。セットリストもだいたい頭に入っているので、新しい驚きというよりもある種の納得感のあるライブ体験になった。

正直、ハヤブサ系と今ドコ系の楽曲がどこまでひとつのものとして統合されているかというとまだまだなんとも言えない部分があり、実際ライブ自体も二部構成になっていて、その間にはいろいろな意味でのギャップというか位相の違いというか、別物感が払拭できないという感覚はある。その間を埋めるのが「II」なのか。アルバムの発表と12月の横浜公演、3月のガーデンホールを待ちたいと思った。

『明日の誓い』はアルバム「今、何処」でも好きな曲だ。この曲は「希望」についての曲である。かつて「真実」を中心的なテーマとして繰り返し歌ってきた佐野は、ある時期から「希望」について歌うことが増えたように思う。この、複雑ででたらめで悪意と虚偽に満ちた世界を生き延びるための、そこにはまだ生きるに値するなにかがあるはずだという希望、それが佐野の直近の問題意識として立ち上がってきたのだ。

この曲で佐野は、「希望がなければ人は死んで行く」とはっきり歌う。これは強いメッセージである。絶望に殺されないように、僕たちは僕たちの希望を自ら紡ぎださなければならない。ひとりひとりの生活のなかで、よりよい明日を信じることのできる営みを、自らの手で積み重ねて行かなければならない。残された時間が砂時計のように減って行くのを横目で見ながら、僕たちが今ここで考えるべきことはなにか、やるべきことはなにか。それを佐野は問うている。

このツアーで佐野は、この曲を『SOMEDAY』と『約束の橋』の間にブッこんできた。まだそこまでの認知のある曲とはいえないのが実感だが、それでも佐野はこの位置にこの曲を置いた。それは、この曲のメッセージをそれだけの重みで伝えたいという佐野の明確な意志だろう。生き延びることへの意志、希望。それを強く感じる。

わけのわからない世界で生き延びるために、希望を見失わないようにするために、佐野が、コヨーテ・バンドが、コヨーテ以前のレパートリーをアップデートして再装備することは大きな武器になるだろう。その途上に僕たちはいるのではないか。そう感じたステージだった。



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