NANO-MUGEN CIRCUIT 2025 ASH×AKG Split tour
NANO-MUGEN CIRCUIT 2025
Ash
■ 2025年10月21日(火) 18:30開演
■ KT Zepp Yokohama
[Ash]
Vocal, Guitar:Tim Wheeler
Drums:Rick McMurray
Bass:Mark Hamilton
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セットリスト
● Zarathustra
● Fun People
● Braindead
● Ad Astra
● Shining Light
● Keep Dreaming
● Orpheus
● Oh Yeah
● Jump In The Line
● Kung Fu
● Girl From Mars
● Burn Baby Burn
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アッシュというのは文脈依存性が低いというか、アート性が希薄というか、せいぜいネギくらいしか乗ってない素ラーメンのような「ただのロック」をそのまま演奏することで30年生き残ってきたバンドである。ティム・ウィーラーもなんかふつうの兄ちゃんでありそこに特別感というかプレステージ感みたいなものはない。音楽性には若干の変遷はあるものの、このなんにもなさはずっと変わらないと言っていい。
エキセントリックなヤツがいくらでもいる業界で、このアクのなさというかふつうさ、すべての余分な属性を取っ払ったプレーンバニラのような、ナントカ系でないロックをただ鳴らすことの無謀さと、それを世界的規模で流通させてしまう彼らの力の本質はなんなのか、それを確かめたくて仕事が終わってからメシも食わずに横浜に向かった。
この日のライブも、ライティング以外には特に演出も装飾もないステージで、一部に同期音源を使いながらも、基本的にはバンドの3人だけで次々と曲を演奏し続けるシンプルこの上ない構成だった。ふだん着かと思わせるウィーラーはフライングVをかき鳴らしながらうれしそうに、楽しそうに歌う。そこにはバンドで音が出せることの純粋なよろこびが惜しみなく表現されていた。
かつて、ロックがその表現をどんどん高度化させて高級、高尚なものになろうとしたとき、それにノーを唱えてギターの荒々しい鳴りを街の高校生らの手に取り戻したのがパンクだった。なんの特別な素養や技術がなくても、自分たちの手で自分たちのいらだちを音としてぶつけられるのがロックだということを、ピストルズは、クラッシュは、ザ・ジャムは示した。
それが所詮はおとなのつくり出したブームであったとしても、その初期衝動に立ち戻るという思想自体は、世界中の子供たちにショックを与え、多くの才能がそこからオーバーグラウンドに現れた。パンクと、そしてそこから始まったポスト・パンクは間違いなくロックのルネサンスであった。アッシュはそのDIY精神という観点からは、もしかしたらその最も正統な継嗣ではないかと、彼らの演奏を目の当たりにしながら僕は思ったのだった。
ちょうど新譜「Ad Astra」がリリースされたばかりのタイミングで、そこからの曲とデビュー以来のレパートリーがいいバランスでミックスされたセット・リスト。アジカンとのダブル・ヘッドライナーということで演奏時間は正味1時間と長くはなかったが、もともと耳に残るキャッチーな曲がいくらでもあるので、一切ダレることなくコスパ、タイパはたいへんよろしかった。
そう、かれらがこのナントカ系でないノン・スタイルのロックで生き残ってきたのは、ウィーラーの作曲能力の高さの賜物にほかならない。ほぼメタルといってもおかしくないハードエッジなギターだけを頼りに、そこによけいな形容を乗っけることなく楽曲勝負できる、それだけの通用力を彼らは持っている。とにかく曲がいい。それに尽きる。それが彼らの最大の売りであり、それが彼らのアイデンティティに他ならないのだ。
人ごみにまぎれたらふつうの渋谷あたりにいる白人観光客と間違いなく見わけのつかないウィーラーのパフォーマンスを見ながら、彼が神から受けた特別な祝福を僕たちは分け与えられた。音楽がことほぎ、さきわう、そんな現場に僕たちは居合わせたのだ。これまでCDでだけつきあってきたが、期待を裏切らない、いや、期待を越えてくるステージだった。
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