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夜の科学 vol.67 - September Songs
山田稔明 with 夜の科学オーケストラ

■ 2025年9月14日(日) 18:30開演
■ 吉祥寺スターパインズカフェ

Vocal, Guitar:山田稔明

[夜の科学オーケストラ]
Pedal Steel, Mandolin:安宅浩司
Drums:itoken
Bass:五十嵐祐輔
Keyboards:佐々木真里
Guitar, Banjo:近藤研二
Flute, Key Harmonica:上野洋

Guest:カイヌシゆうさく
セットリスト  
● pilgrim
● glenville
● 月あかりのナイトスイミング
● hanalee
● 三日月のフープ
● 光の葡萄
● 吉祥寺ラプソディ
● 夢の続き(imaginary)
● きみは三毛の子
● 猫のふりをして
● ニャンとなるSONG
● シャーとニャーのはざまで
● lucky star
● 最後のお願い
● セラヴィとレリビー

● 太陽と満月
● ハミングバード
● my favorite things



本来であれば2016年の「pale みずいろの時代」以来9年ぶりの山田のオリジナル・ソロ・アルバム「シャーとニャーのはざまで」の発売記念ライブとなるはずだったが、手違いでCDが届かなかったらしく、現物のないレコ発、ステージ演奏のみでの先行お披露目となった。

とはいえアルバムの収録曲はかねてからライブで披露されていたものも少なくない。山田が愛してやまない猫テーマの曲を集めた7曲入りのニュー・アルバムの輪郭はこの日のライブで十分示されたと思う。ニューアルバムに先立ってリリースされたニャーアルバムは、(現物はないものの)まずはリスナーに温かく迎え入れられたと言っていい。

僕自身は猫への偏愛をそこまで共有はできないが、愛するものに寄せるかけがえのない心情自体はだれしも心あたりがあるはず。日々心を寄せ、愛し、そのために笑ったり泣いたり愚かになったり途方にくれたりするもの。そしておそらくいつかは失われて行くもの。山田はそのことについて歌った。

僕たちの持ち時間の大半は日常で、ハッとするような気づきのほとんどはそんなときにこそやってくる。到達よりは接近を。継続のなかの小さな、しかし不可逆的な変化を。失われたものを惜しむことよりは今そこにあることの奇跡を。それらはみんな、どこかからやってくるのではなく、あたりまえのような顔をしていつでもここにある。

この日披露されたニューアルバムの曲は、どれもそのような日常起点、生活起点の視線が、しっかりと地に足のついた「日々のうた」として結晶していて、そこに織りこまれた山田の率直な感情が、バンドの共感的で丁寧な演奏も相まって生き生きと伝わってきた。まだCDを手にしていないが、充実した仕上がりを予想させた。

ライブで印象的だったのは山田とバンドとのパートナーシップ。特に、近藤が作曲し山田が詞を書いた『猫のふりをして』は、近藤のボーカルが心に残った。また、『ニャンとなるSONG』ではゲストで登場したカイヌシゆうさくのコーラスが山田のボーカルとよく響きあって存在感があった。コーラスが入ることでこれだけ迫力が出るのかと思った。

ゴメス・ザ・ヒットマンのライブとはまた違う、シンガー・ソングライターとしての山田の、ひとつひとつの言葉を丁寧につむぐようなステージには、ここでしか得られない滋養がある。とても壊れやすそうに見えて実はしなやかでたくましいもの、それが日常であり、そんな音楽を聴いて僕はまたひとつ日々を折り返した。



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