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The Flaming Lips

■ 2025年3月26日(水) 20:15開演
■ Zepp Haneda

セットリスト  
● Fight Test
● One More Robot / Sympathy 3000-21
● Yoshimi Battles The Pink Robots, Pt.1
● Yoshimi Battles The Pink Robots, Pt.2
● In The Morning Of The Magicians
● Ego Tripping At The Gates Of Hell
● Are You A Hypnotist??
● It's Summertme
● Do You Realize??
● All We Have Is Now
● Approaching Pavonis Mons By Balloon

● She Don't Use Jelly
● The Yeah Yeah Yeah Song
● A Spoonful Weighs A Ton
● Race For The Prize



考えてみたらフレーミング・リップスのアルバムは1999年の出世作「The Soft Bulletin」しか聴いたことがなかったのだが、今回来日公演の情報を見てチケットを買ったのは、(コーネリアスが対バンだったのを別にすれば)25年前に聴いたこのアルバムのオープニング曲『Race For The Prize』があまりに印象的で耳に残っていたからかもしれない。

今回はその「The Soft Bulletin」に続いて2002年にリリースされた「Yoshimi Battles The Pink Robots」の再現ライブということで、あわててこのアルバムを連日Spotifyで聴いて予習した。対バンのコーネリアスを見て、そこから45分のセット転換を経て彼らのステージが始まった。この立ちっぱなしはキツかった。

最初ステージ前方に置かれたピンク色の布のかたまりみたいなものは何だろうと思っていたのだが、すぐにわかった。空気を入れてふくらませる巨大なピンク・ロボットが四体。楽しすぎるやろ。

そもそも彼らの音楽はデフォルトが桃源郷だ。一般的な美しさをあえて過剰なまでに圧縮し、加速した音楽なので、狭い空間に押しこまれた音や色彩はぐにゃりと歪み、波打つことになる。限界を超えた彼岸の音楽、それが僕が25年前に初めて聞いた「The Soft Bulletin」の印象であり、それはこの日もしっかり裏づけられた。

この日のステージでもそれを目の当たりにしたわけだが、現地で見ると、彼らの音楽がどうしてそうなるかがちょっとわかった気がした。

「大変な思いをしていても、今日ここに来てくれたことは素晴らしい選択だったと思う。人生は残酷で、アンフェアなものかもしれないが、同時にとても美しいものでもあるんだ」とウェイン・コインはMCで言った。それは単なる曲間のおしゃべりではなく、きちんとしたスピーチでありひとつのステートメントであった。

すべてがハッピーでもすべてが愛に満ちているわけでもない、戦場のような世界に流れる音楽だからこそ、それは過剰にハッピーでなければならないし過剰に愛に満ちていなければならない。そうでなければ埋め合わせがつかないほど、世界にはハピネスも愛も美しさも足りていない。その認識がフレーミング・リップスの音楽の最大のジェネレータなのだと思った。

「Yoshimi Battles The Pink Robots」を全曲やったあといったん引っこみ、その後は代表曲を4曲アンコール的に演奏。「Yoshimi Battles The Pink Robots」のモデルであるボアダムズ、OOIOOのヨシミがゲストで本編に参加し、スクリーミングやパーカッションなどを担当していてカッコよかった。

後方のスクリーンには半裸の女性が躍る映像が終始映し出されて演奏と同期、併せて歌詞も全部映されるのでわかりやすくてとてもいい。YouTube的な手法だが、洋楽の場合曲の世界に引っぱりこむのにすごく効果的な方法だと思った。

ピンク・ロボッツのほかにも大きな風船をいくつも客席に飛ばし、空気で膨らませる虹をステージにかけ、空気で膨らませる唇と眼球もあり、透明な風船にコインが入る演出もあって過剰サービスが楽しすぎた。ギミック担当の黒子がとても働き者でよかった。

ハッピーの求道者は世界がハッピーでないことを知っている。だからこそここにひととき現出するハッピー空間は、それが非現実的であればあるほどリアルである。僕らはそのかけらを日常に持ち帰る。それで日常の色彩が少しだけ明るくなるのなら、それが過剰であったことには意味があったのだ。

空気で膨らませるピンク・ロボッツの30センチほどのヤツが物販であれば並んでた。ぜひ販売してほしい。



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