Todd Rundgren
Todd Rundgren
■ 2025年3月3日(月) 20:30開演
■ Billboard LIVE TOKYO
Vocal, Guitar:Todd Rundgren
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セットリスト
● I Think You Know
● Secret Society
● Weakness
● Sweet
● Change Myself
● Buffallo Grass
● Afterlife
● Drive
● Compassion
● Open My Eyes
● Stood Up
● Love In Action
● Worldwide Epiphany
● I Saw The Light 〜 Can We Still Be Friends?
● Fade Away
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トッド・ラングレンといえば大学時代に最初に聴いた「A Wizard, A True Star」の印象が強烈で、しかも最後に買った1991年の「Second Wind」以降の展開をフォローしていなかったので、いったいどんなものを聴かされるのか不安におびえながらビルボードに出かけたのだが、結論からいえばそこにあったのはあまりにもあっけらかんとしたアメリカン・ロックであった。
トッド・ラングレンは76歳、六月には喜寿になる。まぎれもない後期高齢者であるが、歌声は驚くほど声量豊かでソウルフル。ギターも上手く、コーラスまで帯同したバンドとともに、いっさいためらいのないガッチリした演奏でグイグイ押してくる。重厚だ。アメリカのダイナーで出てくる料理のように、胃もたれするほど無反省だ。
スタジオでは新しい機材とかですぐにヘンなものをつくってしまうのだろうが、結局はバンドでせーので音を鳴らすのがおそらくは大好きであり、ギター抱えて演奏を始めると前後の見境なく音楽に没入してしまう。この日はラスト・ステージだということもあってか最後は声がかすれるまでリミッターはずしてシャウトしまくっていて、初めてバンドをやった中学生みたいだった。
頑固で偏屈な人だということは世上の評判でも伝記でもあきらかだが、ステージ上のトッドは上機嫌で終始楽しそうに演奏し、歌っていた。いつもこうなのか、ここに至ってなんらかのスピリチュアルな境地に立ち至ったのかは、今回初めてトッド・ラングレンのライブを見る僕には不明だが、なんか「トッドもまた人なり」というか、今までトッド・ラングレンという人とその音楽をむずかしく考えすぎていたのではないかと思った。それだけで来た甲斐のあるライブだった。
演奏された曲の半分くらいは何度も聴いたはずのアルバムからの選曲であるが、パワー系の押しの一手でがつがつやられると、どの曲も同じケチャップ味がしてしまい、なんか知らない曲ばかりのように感じられた。かろうじて『Drive』から『Compassion』あたりが自分的には盛り上がったが、あとでセットリストを確認したらほかにも初期のアルバムからの曲はあった。勉強不足というか、結局自分の聴きたいトッド・ラングレンしか聴いてこなかったんだな、オレは、とちょっとわが身を顧みたりした。
あとはアンコールで『I Saw The Light』をやってくれたのはベタだがうれしかった。長いあいだなんどもなんども繰り返して聴いた曲を、人生ここにきて本人の歌唱で聴くことができたのはむずかしい理屈は抜きにしてグッときた。僕自身はたとえば佐野元春のライブ・レビューなどでは「『SOMEDAY』はもういい」「直近のレパートリーだけでいい」などと書きがちで、だからこの日も最近の曲でまとめられてもそれはそれで受け入れるつもりだったが、リスナーが大事にしてきたものにきちんと仕舞いをつけてくれるのはさすがサービス業だなと思った。
トッド・ラングレンを聴きはじめたのは大学生のとき、アルバムでいえば「A Cappella」をリリースしたころだ。まだインターネットもなく、情報は断片的で、アルバムも満足に手に入らなかったので、限られた音源から想像をふくらませるしかなかった。ライノからリリースされたアナログの再発盤を待ちかねて毎月京都の十字屋で買った。そのトッド・ラングレンが実在して、すぐそこでギターを弾いて歌っているということ自体が奇跡。思考停止的だがそれだけでよかった。
繰り返しになるが「トッドもまた人なり」。自分のなかでいろんなものが整理されたライブだった。
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