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New Order

■ 2025年2月27日(月) 19:45開演
■ 有明アリーナ

Vocal, Guitar:Bernard Samner
Drums:Stephen Morris
Keyboards:Gillian Gilbert
Bass:Tom Chapman
Guitar, Keyboards:Phil Cunningham

セットリスト  
● Transmission
● Crystal
● Ceremony
● Age Of Consent
● Isolation
● Krafty
● Your Silent Face
● State Of The Nation
● Be A Rebel
● Sub-Culture
● Bizzare Love Triangle
● Vanishing Point
● Plastic
● True Faith
● Blue Monday
● Temptation

● Atmosphere
● Love Will Tear Us Apart



もうとにかくニュー・オーダーのファンというか、カネ払ってニュー・オーダーを見たいという人がこんなにたくさん日本にいたということを知っただけでおなかいっぱい、いや胸がいっぱいになるくらいの巨大会場。前座の電気グルーヴがメイン・アクトへの敬意がうかがえる抑制の効いたステージで適度に座をあたためたところに、ピーター・フックのいないニュー・オーダーは現れた。

ニュー・オーダーを最初に聴いたのはかなり前だが決して熱心なファンではなく、気が向いたら聴いてだらだらつきあってきた感じで、ライブに足を運ぶのは今回が初めて。席も遠く顔がよくわかってなくなんかおじいちゃんがモニタに映ったと思ったらバーナード・サムナーだった。一曲めが始まったが、そもそもボーカルの入らない箇所なのか、歌詞が入ってないのか、なんかモゴモゴやってて頼りないことこのうえない。「演奏はヘタ」「ステージはグダグダ」と聞いていたがこういうことかと納得した。

それでもバーニーは上機嫌でステージ上を徘徊、ギターをときおりかき鳴らしながら歌うがなんか圧倒的とかエンターテイナーという感じではまったくないカラオケ親父状態。1月に69歳になったばかりで来年は古稀、まぎれもない前期高齢者なのだから、ヘロヘロなのも全然おかしくなく、むしろこんな会場で歌っていること自体すごいのだが、おそらくは高齢者になる前からこんな感じだったのだろうと思わせる板についたヘロヘロっぷりがいい。

それでもステージがきちんと進行するのはシーケンサーが規則正しく電気信号を建屋の中の隅々まで発振しているからで、その意味では人間が信号に合わせて演奏し、さらにそれに合わせて人間がダンスしているのだ。スティーヴン・モリスは機械が容赦なく送出してくる信号に合わせて一小節に16回ハイハットをたたくのに忙しく、ジリアン・ギルバートは右手一本で同時に三つの音を鳴らすのでいっぱい。そうだよ、これを見に来たのだ。これがニュー・オーダーだ。

ニュー・オーダーの音楽はもともと凡庸で退屈であり、単調で憂鬱である。そこに音楽性のきらめきなどはない。パンクがなにかを否定しぶち壊すための音楽だったとすれば、ポストパンクはなにかが終わったあとに鳴らされるための音楽であり、空白を埋めるための音楽である。なにかが壊され、その破壊者さえもがいなくなったところから彼らは歌いはじめた。それは初めから空虚で陰鬱な音楽であった。その音楽に合わせて僕たちは陰鬱にダンスした。そして、その中心すら彼らはほどなく失った。

この日そこにあったのは間違いなくその陰鬱なダンスだった。中心に巨大な空虚を抱えたまま、戸惑うように鳴らされるビート。信頼するに足るのは機械が生真面目に刻み続けるクリックだけであり、人間はそのまわりでおろおろしながら、本当にこれでいいんだろうか、いいんだよね、いいんだと言ってくれよとでもいったような顔で演奏し、ダンスした。それは正しくニュー・オーダーの音楽だ。

イアン・カーティスが死に、ピーター・フックが去り、一人であれこれ引き受けたバーナード・サムナーは寂しいのかもしれない。なんか夢を見ていたような気持ちだったのかもしれない。そうでなければいったいだれがスクリーンに「FOREVER JOY DIVISION」なんて今さら恥ずかしげもなく映しだすだろう。あれはサービスでもスローガンでもない。バーナード・サムナーはそれを確認しないではいられなかったのだ。ニュー・オーダーはなによりもまず不在によって定義されたバンドなのだから。

スクリーンにカッコええ映像を映し、レーザーがビュンビュン飛びまわるライティングの前で、バーナード・サムナーはだれも彼もから押しつけられた遺言の執行者のように、アハシュエラスのように、ステージの上をさまよい続ける。行ってよかった。見られるときに見ておいてよかった。



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