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杉真理のライブはいつでも愉快だ。そこには杉のホスピタリティがあふれているのはもちろんだし、杉のMCが単純に面白いのもそうなのだが、いちばん大きいのは杉自身がライブを心から楽しんでいて、それが僕たちに伝わってくるからだと僕は思っている。 この日も最初から最後まで愉快で楽しいライブだった。だいたい出囃子にわざわざ宅録した『Nowhere Man』の替え歌を使うのからして、杉が自分で楽しんでいるのがわかる。それはサービス精神であると同時に、杉自身が「こういうの」が好きでたまらないのだ、たぶん。 今回はキャリア全般からまんべんなく選曲されたセットリストで、事前に告知のなかった安部恭弘がゲストで登場するなどリラックスして楽しめるライブとなった。まるで子供が大切なおもちゃを見せびらかすように、「じゃあこの曲はどうですか」とでも言わんばかりに名曲をくり出す杉は誇らしげであったかもしれない。 空気の乾燥のためか終盤には杉の声がかすれがちだったのは心配だが、年齢を考えれば信じられないようなのびやかな声での圧倒的なパフォーマンスは、いつでもこちらの期待を超えてくる。毎回新曲をぶっ込んでくることも含め、どのステージにも手を抜かずに取り組む杉の姿勢はこの日も変わらなかった。 新曲といえばディスコ・チューンの『バブル絶頂期』は音源化が待たれる名曲。杉のファンは最初の洋楽体験がアース・ウィンド・アンド・ファイアの『September』やビー・ジーズの『Stayin' Alive』などの1970年代後半のディスコ・ブームだった人も多いと思われ、これまであまりにベタで避けていたというディスコ・ビートを大胆に取り入れたアレンジは、しっかり振りきれていて、そこにハマった感があった。 タイトルから連想される1990年前後のディスコ(「ジュリアナ東京」など)でおもにプレーされていたユーロビート、テクノとは異なり、映画「サタデー・ナイト・フィーバー」などに代表されるいわゆるディスコ・ビートに寄せたのがよかった。橋本のナイル・ロジャーズばりのカッティングがおしゃれでカッコよかった。 個々の演奏では宮崎のサックスがいつもながら素晴しかった。特に『K氏のロックン・ロール』でのソロは、あの澄んだ音色でここまでブロウできるのかという熱のこもったパフォーマンスでありクールだった。宮崎のミュージシャンシップを見る思いで、杉が彼を必要としている理由がよくわかった。 毎回書いているような気もするが、こうしたすべてのバックグラウンドとして、杉のソングライティングの確かさがあり、それを支えるバンドの杉の音楽世界への理解があり、そしてさらにその先に音楽やその歴史に対する深い敬意と愛情があることは間違いがない。それがあってこその愉快なステージであることを、今回もまた確信したのだ。 2025 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |