BOX LIVE 2024 Winter-Much BOX!
BOXのライブは楽しい。ライブ・レビューに「楽しかった」という感想を書くのはなにか違うような気がして、この体験のインパクトをいろんな言葉で書き表そうと苦労してみたが、結局「楽しかった」、なんなら「おもしろかった」という感想しかしっくりするものがなく、それがBOXの音楽に対する、実際のところいちばん素直で公正な評価なのだということがようやく腑に落ちてきた。 そういえば36年前、初めてBOXのアルバムを聴いたときの第一印象だって「これはおもしろい!!」だったのではなかったか。もちろんよく聴けば「スゴい」「カッコいい」みたいな感想もいくらでも出てくるが、「これはおもしろいことをやっている」というのが彼らの作品のまず最初にくるインパクトであり、そのおもしろさにつかまって聴きこむうちに「実はスゴいことをやっている」というのがしみじみとわかってくるのである。 そういうおもしろさ、音楽体験としての純粋な楽しさはこの日もライブにがっつりフィーチャーされていた。まず楽しいこと。まずおもしろいこと。杉真理と松尾清憲なのでしゃべりがおもしろいというのももちろんあるのだが、それを媒介として僕たちはその音楽の楽しさを知り、その背後にこっそり(あるいは堂々と)しのばされたもののおもしろさを発見し、そしてそれがいかに確かなソングライティングやひねりの効いたアレンジや、なにより音楽に対する限りないリスペクトと愛情に支えられたものであるかを理解する。それがBOXの音楽でありBOXのライブ・パフォーマンスなのだ。 選曲は3枚のアルバムからバランスよく、新曲も彼ららしいブリティッシュ・マナーのポップ・ソングで、この調子でアルバムをつくれる勢い。特に北欧三部作の第一弾と紹介された『フィンランドの林』は、イントロでいきなりビートルズの『ノルウェイの森』をなぞって笑いを誘うが、途中から原曲にはない展開で彼らのソングライティングの奥深さを感じさせる。BOXの音楽のもっともおもしろいところが詰まっている。そういえばBOXは「杉」と「松」であり森や林の曲とは相性がいいのであった。 ビートルズはクレジットが「レノン−マッカートニー」となっていても実際にはどちらか一人が作ったという曲が少なくない。しかしBOXの場合は、それぞれソロとしてしっかりしたキャリアをもつ二人が「BOX」を名乗る以上、杉と松尾が実際に共作していなければあまり意味がないわけで、ほとんどの曲でそれぞれの書くメロディがひとつの曲の不可欠で不可分な一部として共存している。こんな共作曲を何曲もつくり続けているソングライター・チームはちょっとほかに思いつかない。 ライブではそれがよりダイナミックなかたちで実感できる。杉のメイン・ボーカルで始まった曲の途中で松尾の硬質でクールなメロディがスッと入ってきて温度感が変わる瞬間、逆に松尾のビート・ポップに杉の柔らかい声がオーバーラップして空間が急に広がった気がする瞬間、そしてザラついた松尾の声とスムーズな杉の声が、重なり合うと区別がつかなくなるハーモニーの不思議さ、この二人がバンドとして目の前で一緒に演奏してくれることの価値がよくわかる。 オリジナル・アルバムは3枚だけだが、どの曲が演奏されても「まだこの曲があったか」と納得させるはずれのなさは、杉も松尾も自信のあるメロディを持ちよって競うように曲のレベルを上げていることの証左かもしれない。汲めど尽きせぬ泉のように、それでもまだやってない曲がいくらも残っているのがこのバンドの底知れぬ奥深さだ。 『魅惑の君』のアウトロで、池田昌子の音声と「なにしてたの?」「仕事さ」「そう」のかけ合いをする杉は楽しそうで、池田をレコーディングに招いたときのエピソードも披露された。ファースト・アルバムの収録曲では「なにしてたの?」「仕事さ」「そう」というナレーションが隠しテーマのように繰り返し挿入されていたが、原型はこの曲での映画を意識したやりとりだということがわかって長年の疑問が解けた気がした。 それから島村英二のドラムが相変わらず素晴らしすぎた。機械のように正確でありながら、島村にしか出せないヒューマンさというものがあり、それが健在であることが確認できたのはこの日のハイライトでもあった。おかずをオリジナルに忠実に、はしょらずたたいてくれるのがいちいち尊く、しばしば杉と松尾はそっちのけで島村を見ていた。BOXのドラムは島村でなければならない。BOXの音の背骨は島村のドラムだといっても過言ではなく、もうメンバーでいい。 杉の赤いリッケンバッカー、小室のヘフナーのバイオリンベースもカッコよかった。あらためていうが楽しく、おもしろいライブだった。 2024 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |