logo ハートのキングは口髭がない


TOUR 2024 『ハートのキングは口髭がない』
THE COLLECTORS

■ 2024年12月1日(日) 15:45開場 16:30開演
■ The Garden Hall

[THE COLLECTORS]
Vocal, Guitar:加藤ひさし
Guitar:古市コータロー
Bass:山森"JEFF"正之
Drums:古沢"cozi"岳之
セットリスト  
● スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない
● ぼくのプロペラ
● タイムトリッパー
● S・P・Y
● シルバーヘッドフォン
● Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
● キミに歌う愛のうた
● ワンコインT
● Hold Me Baby
● ガベル
● 未来のカタチ
● 負け犬なんていない
● (Instrumental)
● This is a True Story
● ひとりぼっちのアイラブユー
● NICK! NICK! NICK!
● パーティ・クイーン

● TOO MUCH ROMANTIC
● 僕はコレクター



コレクターズの新譜の聴き方にはコツがある。ふつうに聴くとまず歌詞に耳を持って行かれる。加藤の書く歌詞は強く、どうしても「意味」を追いかけてしまう。その次にはキーボードやブラス、ストリングスも含めたアレンジでパッケージとしての「曲」を聴いてしまう。そういうふうにできているのだ。そこでは曲としてのバランスが重視され、ポップ・チューンとしてさまざまな音が過不足なく歌が聞こえてくるように、とりわけボーカルがしっかり伝わるようにつくられている。

その結果、僕たちは往々にして「今作はなんかピンとこないな」という印象をもってしまう。もちろんよくできている。ひねりも効いている。ポップ・チューンとしての完成度は高い。だが、そこにコレクターズでなければならないものはあるか。オレたちがコレクターズに求めているのははたしてこれなのか。なんか、こう、もうちょっとなんかあるんじゃなかったっけ。

コツはギターを聴くことである。敢えて歌詞を捨て、加藤のボーカルを音として聴きつつ、その背後に配置されたコータローのギターに注意深く耳を澄ませるのだ。キーボードのオーバーダブを頭のなかでフィルタし、ギターがどんなリフを奏でているか、どんなリズムを刻んでいるか、どんなフレーズを歌っているかだけに集中してみるのだ。慣れればそんなにむずかしくない。これがコレクターズの新譜を聴くコツである。

ライブに行けばそこにキーボードはない。ブラスもストリングスもない。リズム隊のほかはコータローのギター一本しかないのだ。その場で僕たちは気づく、「これはこういう曲だったのか」と。それを自宅でもやってみるのだ。そして、やっかいなことに、そうして気づいたその曲の本質は、たいていの場合スタジオ音源のバランスのよさを軽く凌駕してくる。そこにあるのは、ビートそれ自体がもつ説得力、喚起力だ。最小の編成のバンドだけがたたき出すことのできる、最も心臓の鼓動に近いリズムだ。

ひとたびここへのアクセスが開通すれば、不思議なことにそのあとは加藤の暑苦しいボーカルや押しつけがましい歌詞が乗っかっても、キーボードがアレンジを彩っても、僕たちはもうその奥底にあるビートを聴き逃すことはない。こうやって僕はコレクターズの新譜が出るたびに、そこからひとまず意味を剥ぎ取り、装飾をスクリーン・アウトして、音楽のボトム・ラインに横たわるビートを探す。それはそれらの曲がライブではどのように演奏されるかを事前にシミュレートすることでもある。

アルバム「ハートのキングは口髭がない」では、この日のライブがその答え合わせだった。新譜からの曲を中心に構成されたステージでは、『スティーヴン・キング』も『タイムトリッパー』も『シルバーヘッドフォン』も『ワンコインT』も、ギター一本でグイグイ押してくる「本来の」スタイルで聴くことができ、もうスタジオ音源もこれでいいんじゃないかくらいの説得力があった。

コレクターズの音楽を定義しているのは、結局のところ加藤ひさしのボーカルと古市コータローのギターのアンサンブルに他ならない。それがひとつの強力な音のかたまりになってぶつかってくる現場性、その音がいままさにここで鳴らされているという直接性は、スタジオ音源では残念ながら再現できない。コレクターズは正しくライブ・バンドなのだという感をこの日も新たにした(ライブのたびに新たにしている)。

ガツンという感じで音のかたまりが聴き手にまさに衝撃する瞬間、そこにあるのは腑分けの不可能な物理的な質量である。そして「意味」はその半歩あとからやってくる。これがコレクターズを聴く正しい順番なのだ。まず音とその手ざわり、質感があって、加藤がなにを歌っているのかはその後から理解される。ビート・カムズ・ファースト。ライブはそれを体験する最適の場だ。

それに加えてこの日のライブでは山森のベースが印象的だった。音域をワイドに使ってブンブン歌うベースが4ピースのバンド構成を支えていて、コータローがソロを弾いているときも曲のドライブ感を失速させなかった。古沢のドラムも含めて、このリズム隊はコレクターズというバンドの成り立ちによくフィットしていると思った。

どうせ混むだろうし後ろの方で腕組んでゆっくり見てようと思いながら行ったのだが、会場を入ったらやはり前の方に陣取ってしまい、ライブが始まったら踊ってしまって、600円のミネラル・ウォーターはライブが終わるまでに全部飲み干した。コレクターズを腕組んでゆっくり見るとか考えてみれば初めからムリな話だった。

以前からのレパートリーでは『プロペラ』と『未来のカタチ』がうれしかった。やっぱりコレクターズはライブを見なければ語れない。このライブでアルバム「ハートのキングは口髭がない」は僕のなかでしっかりと胸に落ちた。客のM51着用率が街なか対比有意に高かった。ヴェスパで行こうかとも思ったけど寒いから電車で行った。



Copyright Reserved
2024 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com