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Smoke & Blue 2024

■ 2024年10月3日(木) 19:00開場 20:00開演
■ Billboard Live TOKYO

佐野元春 and The Hobo King Band

Vocal, Guitar:佐野元春

Keyboards:Dr.kyOn
Drums:古田たかし
Guitar:長田進
Bass:井上富雄
セットリスト  
● It's Alright
● Do What You Like
● SEASON IN THE SUN
● 月と専制君主
● こんな素敵な日には
● 二人のバースデイ
● 最後の1ピース
● 地図のない旅
● COME SHINING
● 夜のスウィンガー
● 7日じゃたりない
● 観覧車の夜
● ドクター
● トーキョー・シック
● ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
● ポップチルドレン



10月1日に僕は59回めの誕生日を迎えた。もう若くはない。足の裏やヒジに痛みが出るようになって整形外科にかよい始めた。父が死んだ。人間ドックで目の不調が見つかり再検査で緑内障と診断された。椅子の足に右足の小指をぶつけて骨を折った。たて続けにいろんなことがあり、いやおうなく老いや死について考えさせられた。自分の人生がなにかの節目みたいなものにさしかかっている実感があった。

やろうと思っていたことや欲しいと思っていたものも、父の見舞いや葬儀や法事で東京と関西を忙しく行き来するなかで先送りにしていた。なにをするにもどこかになにかのひっかかりを抱えている気がして、自分にはいいことはもうあまり残されていないような気持ちにもなった。別に毎日が灰色だというわけではなく、ことさらに落ちこんでいるつもりはなかったが、常に「終わり」とか「残り」を気にしていた。

それを「これはあかんのとちゃうか」と思わせてくれたのは、先輩から誕生日にもらった「また1年楽しんでください!」というメッセージだった。長いサラリーマン生活のなかでも数少ない、尊敬する先輩がくれたシンプルなメッセージから、「楽しんでいる人」としての僕を見つけてくれたこと、それを続けて行けよと軽くケツをけり飛ばしてくれたことが読み取れて僕は勇気づけられた。それを忘れていた、と僕は思った。けり飛ばしてシュート、まさに。

老いや死から逃れることはだれにもできない。そんなもののことを気にして、今の自分が身動きできなくなるのはナンセンスだ。そういえば僕は年初に「自分自身の生活を、自分自身の喜怒哀楽を、自分自身のラッキーやアンラッキーを、しっかり自分のものであり続けさせること。自分自身のオーディナリー・ライフを簡単に手ばなさないこと」なんて書いたのではなかったか。自分の生を確かに生きること、それが楽しむことにほかならない。そのことを忘れそうになっていた。

この日のライブで佐野は、「人はそれぞれだけど、だれもが持っていることがある。それは誕生日だ」とコメントして『二人のバースデイ』を演奏した。2日前に、人生のサブスクリプションをまた1年更新したばかりの僕にとって、それは佐野からのプレゼントであると同時に、今ここにあるものを丁寧に楽しんで行こうという先輩からのメッセージともシンクロした。よきこと、よきもの、よき瞬間はここにある、と感じた。

横浜で見たステージとセットリストが何曲か変更されており、『二人のバースデイ』のほかにも『It's Alright』『Do What You Like』『こんな素敵な日には』といった初期の曲が演奏された。これらの曲をHKBのアンプラグドに近いアレンジで聴くと、佐野の書く曲には初めから普遍的なビートが内在していたのがわかってスリリングだった。

特に『It's Alright』は、スタジオ音源ではにぎやかなポップ・ソングだが、このステージで演奏されるとアーシーなルーツ・ミュージックとのつながりが見えてくる。また、『こんな素敵な日には』はオリジナルに近いアレンジだったが、逆に20代でこんな曲を発表していた佐野の音楽的なバックボーンの広さと深さにあらためて感嘆する。こうした佐野のオルタナティブな側面が、当時僕が佐野に傾倒して行った大きな要因であったことを思い出した。

アルバム「THE SUN」からの『最後の1ピース』『地図のない旅』もよかった。『最後の1ピース』がリズムを強調したアレンジになっていたのはナゾだったが、『地図のない旅』は中東の終わりの見えない戦乱を思い起こさせた。優れた表現はときとして、まるで預言のように事実を先取りする。それはそこに変わりようのない物事の本質に対する省察があるからで、事実はいつでもその本質から繰り返し派生するからだ。そうした普遍性のある表現のスゴみを見た気がした。

とはいえこの日はそんなに小難しい顔をして曲を聴いていたわけではなかった。人生は過ぎる。人は老い、死んで行く。それは避けられないが、いや、避けられないからこそ、僕たちは今ここにある音楽を聴き、つかの間そのビートに酔い、生の悦びを享受する。59歳になって初めてのライブを僕はリラックスして楽しんだ。それがいちばん重要なことだ。



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