logo Rockin' Christmas 2022


L'ULTIMO BACIO Anno
2022 Rockin' Christmas 2022


■2022.12.20(火) 18:00開場 19:00開演
■恵比寿ザ・ガーデンホール

佐野元春 & THE COYOTE BAND

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
●La Vita é Bella
●銀の月
●クロエ
●ポーラスタア
●世界は慈悲を待っている
●虹をつかむ人
●みんなの願いかなう日まで
●エンタテイメント!

●私の人生
●この道
●愛が分母
●夜空の果てまで
●純恋(すみれ)
●CHRISTMAS TIME IN BLUE
●Young Bloods
●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日

●NIGHT LIFE
●スターダスト・キッズ
●アンジェリーナ



3年ぶりとなるクリスマス・ライブ。今回はファンクラブの抽選がはずれ、一般販売でもチケットを入手できなかったのであきらめていたが、行けなくなったという人からチケットを譲ってもらうことができなんとか参加できた。ありがたかった。

ガーデンホールは収容が700人強、今回は公演直前に立見も発売されたのでおそらく1,000人前後の公演が2日間だったが、それが完売したのはコロナ禍でこれまでライブを敬遠していた人たちが徐々に会場に戻ってきているということなのかもしれない。

新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まった2020年春以降、僕たちはいろいろな面で不自由な生活を余儀なくされた。音楽もまたその例外ではなく、特に2020年の初夏から夏にかけては外出すらままならなかったのでレコーディングは中断したし、ライブも人が集まって声を出すことは「あり得ない」という認識だった。あのときの状況を考えればやむを得なかったと思う。

その後、何度かの「波」を経験しつつ、最近では感染者数はそれなりでもなんとか社会生活を動かそうとする動きが定着し始めてきた。佐野も2021年3月にはキャパシティを半分にした武道館で40周年記念のライブを行い、今年は春から夏にかけてのホール・ツアー、秋にはビルボードでのシリーズ・ライブなど徐々に活動を活発化させてきた。その流れを受けての3年ぶりのクリスマス・ライブである。

この間、音楽はさまざまな揺さぶりをかけられた。パンデミックだけではなく、今年の春にはロシアがウクライナに軍事侵攻してシビアな戦争が始まったし、夏には我が国で元首相が射殺された。ドイツではクーデターが企てられていた。世界が再び混迷の時代に突入したのかと思わざるを得ないようなニュースを僕たちはたて続けに耳にし、信じられない映像を毎日のように目の当たりにした。そんななかで音楽にできることはとてもささやかなことでしかないように思うこともあった。

それでも佐野元春はそうした社会の不穏な雰囲気に正面から対峙する2枚のアルバムを今年リリースした。パンデミックのなかでリリースしたシングル群をベースに来たるべきポスト・コロナの時代を見すえた「ENTERTAINMENT!」、そして既存のシステムが機能不全に陥る世界で「希望」のありかとその意味を問うた「今、何処」。佐野はいつでも真摯に、誠実に音楽の力を僕たちにデリバリーしてくれたのだった。

初夏に行われた「WHERE ARE YOU NOW」ツアーでは7月にリリースされた新譜「今、何処」から先行シングル『銀の月』以外にアルバム収録曲が演奏されず、本格的なプロモーション・ツアーは来年とアナウンスされているが、この日のライブではアルバムから『クロエ』が披露された。MCではバンド・メンバーにささやかなプレゼントを贈る「お楽しみ」もあったものの、ライブ全体のトーンは祝祭を前提にしながらもおしなべてシリアスであり、またセット・リストも佐野とアップ・トゥ・デイトな問題意識を共有するコヨーテ・バンドとしてのレパートリーを中心に構成されていて、プレミアム・ライブとはいえこの公演が今年から来年に橋を架けるものである印象を受けた。

演奏もまた佐野と息の合ったアンサンブルを聴かせ、バンドのフォーマンスがひとつのピークを迎えていることを感じさせたし、リスナーもコール&レスポンスが許されないなか最大限の熱量でそれに応えていたと思う。前半の『エンタテイメント!』や本編最後の『Young Bloods』から『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』への流れ、アンコールなどでは曲が終わるたび拍手が鳴りやまなかった。

この困難な時代に、それでも僕たちは日々の生を生きないわけに行かず、逆にいえばそのささやかな日々の泡のなかに僕たちは常に不穏な時代の通奏低音を聞きとらずにいられない。佐野の音楽はそのような時代の音とときに共鳴し、時に激しい軋みを鳴らしながら、僕たちが今ここに生きることの意味を不断に問い直してくれる。この日、『虹をつかむ人』や『私の人生』が格別の意味を持っていたように感じられたのも決して偶然ではなかっただろう。

佐野が新譜「今、何処」で希望について歌ったのは、今、どうしても必要なことだった。その意識が年を越えて紡がれて行くことを予感させる、重要なライブだったと思う。



Copyright Reserved
2022 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com