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Smoke & Blue 2022

■2022.9.29(木) 20:00開場 21:00開演
■ビルボードライブ東京

佐野元春 & THE HOBO KING BAND

Vocal, Piano, Guitar:佐野元春

Drums:古田たかし
Guitar:長田進
Bass:井上富雄
Keyboards:Dr.kyOn
●ハッピーエンド
●僕にできることは
●夏草の誘い
●地図のない旅
●C'mon
●ブルーの見解
●COME SHINING
●ルル(新曲)
●月と専制君主
●日曜の朝の憂鬱
●観覧車の夜
●7日じゃたりない
●ドクター
●トーキョー・シック
●最新マシンを手にした子供達



仕事を終えてミッドタウンに向かった。21時の公演なので先に食事を終え、ビルボードに着いたのは20時半ごろか。受付とバーカウンターで結構待たされたが開演には問題なく間に合った。4階サイドの席でステージを横から見下ろすような格好になった。

このシリーズ・ライブも2012年から続いているということで、最初にここに見に来てから10年以上経ったことになる。前回は2019年だったが、その後はコロナ禍や40周年などもあってかしばらくインターバルをおいての開催となった。

以前は同じツアーに何度も足を運んだりしていたが、2017年くらいからはまあツアーのうちに1回行っとけばいいかくらいの感じになり、今回もなるべくツアー終盤の回ということで東京での最終公演をブックした。このあと横浜でも4回の公演が予定されているようだ。

バッキングはHKB名義で、古田、長田のザ・ハートランドからのメンバーに、井上、Dr.kyOnを加え、アルバム「自由の岸辺」を制作した顔ぶれで2019年の公演と同じ。「『ベスト・オブ』的な内容にします」という佐野のMCどおり、その「自由の岸辺」と「月と専制君主」収録の曲を中心にしたセット・リストとなった。

その結果、新曲「ルル」を除いて初めて聴く驚きみたいなものはほぼなかったが、演奏にはこのメンバーだけで通じ合える呼吸のようなものに裏づけられた強い確信が感じられ、席としては決していい場所ではなかったにも関わらず、これまでのこの会場でのどの公演よりもグイグイと迫ってくる圧を感じた。

この会場でのライブでは、どちらかといえばシンプルなバンド編成からのセミ・アコースティック(一時期の流行でいえばアンプラグド)な、落ち着いた演奏が特徴である印象があったが、この日のステージでは東京での最終ということもあってかリミッターを外したような力強いステージングが印象に残った。

それはこの「Smoke & Blue」というステージが、「月と専制君主」「自由の岸辺」という2枚のセルフ・カバー・アルバムとの関連を強めながら、佐野の表現活動の重要な伏流水として、サブ・チャネルとして、メイン・チャネルとしてのコヨーテ・バンドとの活動に大きなエネルギーとアイデアを供給し続けていること、その意味でこれもまた佐野元春の現在進行形の表現として切迫した位相にあることを意味しているのだろう。

佐野はこれまでも、そうしたいくつかのチャネルを自在に往来しながらそれぞれの果実をフィード・バックするサイクルを通じてその表現を前進させ続けてきたし、その意味で間違いなくロック表現の前衛に立ち続けてきた。このライブでは、その表現形式自体はトラディショナルで泥臭いものではあっても、そこに立つ佐野とバンドはこの2022年という時代に鳴らされるべき音はなにかという課題と対峙していた。

だからこそその音楽は力強く、確信に満ちていたのだと思うし、聴き慣れた曲さえもがその意味を更新しながら今ここにある危機感を新たにビートしたのだと思う。このシリーズ・ライブが佐野の表現の重要なチャネルとしてもはや欠かすことのできないものになっているのを感じた。

披露された新曲『ルル』は『Bye Bye Handy Love』をちょっと思い起こさせるようなチャーミングなブギウギ。もし次のセルフ・カバー・アルバムがあるのだとすれば、このシリーズで披露されながら音源化されていない『うかつなことは言えない』『仕事帰りの女たち』などともにレコーディングしてほしい。そういえば2011年にルー・リードがメタリカとコラボしたアルバムのタイトルが「ルル」だったのを思い出した。

先にワインを飲んでいたこともあり、会場ではいい気分で座って音楽を楽しむことができた。「VISITORS」を聴きながら家に帰った。



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