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WHERE ARE YOU NOW

■2022.4.9(土) 16:30開場 17:30開演
■三郷市文化会館 大ホール

佐野元春 & THE COYOTE BAND

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
●彼女はデリケート
●Happy Man
●マンハッタンブリッヂにたたずんで
●I'm in blue
●Vanity Factory
●Heart Beat
●東京に雨が降っている
●悲しい話
●禅ビート
●ポーラスタア
●世界は慈悲を待っている
●食事とベッド
●愛が分母
●銀の月
●純恋(すみれ)
●エンタテイメント!
●La Vita é Bella
●優しい闇
●約束の橋

●悲しきRADIO
●SOMEDAY
●ヤング・フォーエバー

●インディビジュアリスト
●NEW AGE



この日のライブの遠景にあったものは、遠い国で戦われている戦争だったのか。この日演奏された曲は新曲も含めすべて2月以前に作られたものであり、今の状況を意識して書かれたわけではない。それでも、理不尽な世界に対する異議申立をビート・ミュージックのフォーマットにのせて表現する佐野の、とりわけ最近の作品は、現実に起こっている事柄の個別性をこえて、そうした現実に対する僕たちのやるせなさ、怒り、悲しみ、無力感、祈りなどとより普遍的な形で共振したと僕は思った。

しかし重要なことは、それが決してシリアス一辺倒の深刻な顔つきで歌われたのではないということだ。それはあくまで商業的に流通可能な形で、ユーモアを交え、わかりやすく僕たちのうちにしみこんだ。かつて佐野が歌った「気やすめのダンス」がそこにあった。

ひととき歌い、ダンスしたとしても、世界のどこかで起こっている悲惨な戦争が終わるわけではない。その意味でそれは「気やすめ」でしかあり得ない。しかし一方で僕たちはそのような気やすめなしにこの重苦しい世界を生きのびて行くことはできない。状況がシリアスであればあるほど、気やすめもまた切実に、強く求められる。この日のライブには確かにそんな切迫した「救い」としての側面が間違いなくあった。それはポップ・ミュージックの最も重要なはたらきのひとつのはずなのだ。

僕たちは今年初めての佐野のライブを真剣に楽しんだ。

アルバム「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」「SOMEDAY」のリリース40周年ということで、そこからの何曲かでライブは始まった。2013年に行われたアルバムの完全再現ライブのビデオが5月にリリースされるのもそういう意味合いだったかと理解した。『マンハッタンブリッヂにたたずんで』や『I'm in blue』が聴けたのは率直に嬉しかったが、冒頭にこれらのアルバムからの曲を演奏したことでライブの焦点があいまいになったように思われ、それが少し残念だった。

ライブの前日にリリースされた新しいアルバム「ENTERTAINMENT!」からは、既発表のシングル曲『愛が分母』『エンタテイメント!』に加え、『東京に雨が降っている』と『悲しい話』演奏された。このセクションはもう少し充実させてもよかったと思う。ビート・ナンバーである『少年は知っている』などもライブで聴きたかった。

アルバム「Coyote」以降、佐野のアルバムにコ・プロデューサーとしてクレジットされ、パーカッショニストとしてもレコーディングやステージに参加していた大井洋輔はこの日のステージには不参加。パーカッションが不在ということでシーケンサーと同期させる曲が多めになったものと思われ、それはそれで大変だろうなと同情しながら見ていた(大井はアルバム「ENTERTAINMENT!」にもクレジットがない)。

初日ということもあってか、立ち上がりに佐野のイヤーモニターが不調だったり、たぶんそのせいで歌詞を間違ったり、演奏にもミスタッチがあったり、PAのバランスも曲によって万全でなかったりといった試行錯誤感はいくぶんあったが、全体としての流れを損なうようなものではなく、バンドとの信頼関係を基礎に、最新型の佐野元春の表現が確かな手ごたえをともなって伝わるライブであり、遠く三郷まで足を運んだ価値は十分あった。

ただ、それだけに本編の最後を『約束の橋』で締めくくったことには正直違和感があった。コヨーテ・バンドとレコーディングした曲の中にも本編ラストにふさわしいものはいくらもあるはずで、それをある種の予定調和に仕立ててしまった感は拭えない。デイジーミュージックのディストリビューションがソニーミュージックに移ったこともあって、ライブ冒頭の選曲も含め、こうした「コヨーテ以前」の曲への「揺り戻し」のようなことが起きているのではないかと邪推してしまう。

昨年11月のライブでは時代を超えたレパートリーの融合にそれなりの納得感があったが、今回はそこに必然性が希薄であるように思え、単に「ヒット曲」の力に依拠したようにも感じられたのが少し物足りなかった。

あと三郷は遠かった…。



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