ZEPP TOUR 2021
春に行われた日本武道館と大阪城ホールでのデビュー40周年を祝うプレミアム・コンサート以来のライブ・アピアランスとなった。横浜、東京、名古屋、大阪のZEPPを回る4か所6回のツアーの初日。 結論からいえば、佐野元春が40周年のアニバーサリー・イヤーを経て新しいモードに入りつつあることを強く感じさせるライブになったと思う。もちろん、コヨーテ・バンドとしてこれまで積み上げてきたキャリアとの連続性は保ちながら、しかしそれが佐野のそれ以前のパフォーマンスとより自然な形で統合され、それを踏まえてさらに次のステージに進もうとしているのだという印象を受けた。 40周年というひとつの区切りもあるのかもしれないが、そのより強い契機となったのは間違いなくCOVID-19のパンデミックだと思う。 COVID-19は社会のあらゆる側面に大きな影響をもたらしたが、ショー・ビジネスにおいてそのインパクトはとりわけ大きかったと思われるし、佐野の40周年のアニバーサリーもおそらくは当初想定していたものから大きな変更を強いられただろう。ライブ活動がままならない中で、佐野は何曲かの新曲をシングルとして配信リリースした。 『愛が分母』『エンターテイメント!』『合言葉』『街空ハ高ク晴レテ』そして『銀の月』。この日も演奏されたそれらの曲の多くは、COVID-19の影響で潜伏を余儀なくされ、大きな声を出すこともはばかられる生活の中で、僕たちの精神が知らぬ間にどれだけ深い傷を負っていたかを明らかにし、そこでなお信じるに足るものを示し、それを頼りに生き延びることへの希望を歌ったものだった。 それは佐野がこれまで歌ってきたことと通底するものではあるが、この直接的な魂の危機にあって、個として食いつなぐことの大切さにより強くフォーカスしたものだったと思う。この日披露された新曲『斜陽』も含め、佐野の視線はこの息苦しい世界の中で僕たちの生そのものが粗略に損なわれないよう鋭く研ぎ澄まされ、佐野の声は僕たちが不用意に大事なものを諦めてしまわないように僕たちに届けられ続けている。 佐野はレコーディングが順調に進んでいること、新しいアルバムが来年の春にリリースの予定であること、2枚組のアルバムができそうなほど多くの曲が生まれていることをアナウンスした。それはきっとこうした佐野の最新型の問題意識に裏打ちされたものになるだろう。それこそが佐野元春のニュー・モードになって行くに違いない。 ステージは初日とあってバンドの息が合わないところも散見され、佐野がプロンプタを目で追うシーンも多かったように思う。また、椅子席にしたことは有難いが、ライブハウスのフロアにパイプ椅子を隙間なく並べ、そこにフルに客を詰めこむ会場設営はかなり狭苦しく感じられた。感染防止策の観点からもそうだが、身体を揺らすことも難しく純粋に窮屈だった。 短いツアーだが、佐野が前に進もうとする動因を明らかにし、次のアルバムへと橋を架ける意味で重要なステージになると思った。 2021 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |