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ヤァ! 40年目の武道館

■2021.3.13(土) 15:45開場 17:00開演
■日本武道館

佐野元春 & THE COYOTE GRAND ROCKESTRA

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ

Keyboards:Dr.kyOn
Percussions:大井スパム
Saxophones:山本拓夫
Trumpet:西村浩二
●ジュジュ
●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
●新しい航海
●レインガール
●ダウンタウン・ボーイ
●レインボー・イン・マイ・ソウル
●Heart Beat
●Wild Hearts
●愛が分母
●合言葉‐Save It for a Sunny Day
●ヤァ!ソウルボーイ
●Rock & Roll Night
●Young Forever
●朽ちたスズラン
●禅ビート
●ポーラスタア
●バイ・ザ・シー
●東京スカイライン
●La Vita é Bella
●エンタテイメント!
●純恋(すみれ)
●誰かの神
●空港待合室
●優しい闇
●New Age
●悲しきRADIO
●SOMEDAY
●アンジェリーナ

●約束の橋



佐野元春のデビュー40周年を記念し行われた武道館公演。3月13日は佐野の誕生日でもある。単独での武道館は2000年の「20th Anniversary Tour」以来か。僕自身は佐野元春を武道館で見るのは初めてだ。

感染症対策として1席ずつ空けての会場設営となったため、本来の収容1万人に対して5千人程度での実施を余儀なくされ、また午後8時までに公演を終了する必要があるため開演は午後5時に設定された。春の嵐となる激しい雨風の1日で、九段下の駅から傘を飛ばされそうになりながら坂道を登って会場を目指した。

最近のライブでは、アンコールを除けばほぼアルバム「COYOTE」以降の曲しか演奏しないことが通常になっているが、この日は周年記念ということでデビューから直近までをバランスよく選曲したセット・リストとなった。

中でも強く印象に残ったのは『Heart Beat』だ。この曲はレゲエ調で演奏されるなど、かつてのライブではアレンジを変更されることも多かったが、この日はアルバム収録のオリジナル・アレンジに近いオーソドックスな演奏。若い男女が共に夜を過ごしながら見る夢の行方を追うようなこの曲が、飛び越えるべきテラスも海岸沿いのポーチもシボレーのピックアップトラックもなかった田舎の高校生にリアルに響いたのは、そこにこの年代特有の自意識とか、世界と対峙することへの憧憬と畏怖とか、そういう普遍的なものにアプローチするキーのようなものが確かに内包されていたからだった。

この曲のアウトロで佐野はブルースハープを演奏する。かつて映画「No Damage」でもそうしたように、佐野は言葉にならない胸の鼓動をブルースハープに吹きこむ。細く、太く、強く、弱く。オレの鼓動が聞こえるかい、と佐野は問いかける。ビートは続いて行く。僕たちの心臓は打ち続けている。それはあの1983年から今日まで間違いなく続いている。

かつて僕はこのシーンのことをこう書いた。

「『Heart Beat』のアウトロで身体を折るようにしてブルースハープを演奏する佐野。最後の一息を吹き込む前に大きくブレスする、その瞬間、僕たちは「真実」がどのようにして一瞬だけ顕現するのかを知る。」

この日も僕はそれを目撃した。もちろん、それは一瞬の幻に過ぎない。忽然と姿を現した真実は、次の瞬間またどこかに消えてしまい、僕たちはその残像だけを頼りに長い時間を生き続けることになる。この日、真実は確かに東京都千代田区に顕現した。

そう、すべてはあらかじめここにあったのだ。種子が既にしてその内に根や葉や花を包み持っているように、今ここにあるものは40年前に佐野が最初の声を僕たちに届けた時からその中に含まれていたのだ。すべては最初からそこにあり、僕たちはそれを見ていたのだ。褒むべきかな。僕たちは初めから祝福されていたのだ。僕たちは花束を捧げ持ちながら40年間を歩き続けたのだ。なにもかもは必然だったのだ。

物語は続いていて、僕たちはここにいる。永遠が瞬間の果てしない連なりであることの驚きと必然、それを僕たちは目の当たりにした。僕は17歳であり、同時に55歳でもあり、55歳の僕と17歳の僕がひとつのものであることを一瞬のうちに理解した。この日の白眉だった。

周年ライブなので回顧的なニュアンスはもちろんある。しかしこの日の視線は確実に現在にあり未来に向けられていた。図らずも現代に生きることの責任みたいなものを僕たちは等しく負わなければならない。この日、佐野は最初から最後までそのことについて歌っていたのだと思う。そしてそれは――繰り返しになるが――そもそもの初めからずっとそうだったのだ。



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