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MEMENTO - TOKYO

■2020.2.25(火) 19:00開場 19:30開演
■渋谷WWW

GOMES THE HITMAN
Vocal, Guitar:山田稔明
Keyboards:堀越和子
Drums:高橋結子
Bass:須藤俊明

GUEST
Guitar, Vocal:高田タイスケ(PLECTRUM)
Guitar:藤田顕(PLECTRUM)
●metro vox prelude
●baby driver
●tsubomi
●夜明けまで
●毎日のポートフォリオ
●魔法があれば
●night and day
●夢の終わりまで
●悲しみのかけら
●午後の窓から
●小さなハートブレイク
●手と手、影と影
●サテライト
●ホウセンカ
●BOOKEND(PLECTRUM)
●houston
●ブックエンドのテーマ

●memoria
●饒舌スタッカート
●雨の夜と月の光



『午後の窓から』を演奏する前に山田稔明がアルバム「cobblestone」に言及し、「このアルバムを作るときに初めてシンガーソングライターとしての自分を意識した。それまでは自分はバンドマンだと思っていた」とコメントしたのがすごく印象的だった。シンガーソングライターとしての山田と、彼のバンドとしてのゴメス・ザ・ヒットマンの関係というのが、僕自身この日のライブで最も興味があったテーマだったからだ。

確かにこのアルバムを境に山田の書く曲は内省的な色彩が濃くなり、自分の内側に深く沈潜しながら、そこに本来あったはずのものの残像にじっと目を凝らすような、まるで間違い探しのようにわずかな昨日と今日の差分を丁寧に見つけ出そうとするような、そうした営為のことをひとつひとつ慈しむように、注意深く歌うようなものになって行ったと思う。それはおそらく自分自身の中に、いったいどのような歌うに足るもの、聴かせるに足るものがあるのかを探す旅路の始まりだったのだ。

バンドはその後、2005年のアルバム「ripple」を最後に活動を休止し、山田はソロ名義での活動を始める。そこで紡ぎ出される曲の数々は、シンガーソングライターとして自らの生の実感のさまざまな手ざわりをひとつひとつ細やかでありながらかつダイナミックなメロディに乗せた、まさに都市生活のブルースとでも呼ぶべきものだった。そのように、個の内奥深くへとダイブし、そこで息の続く限り、水の中でふだんとは違う伝わり方をする音に耳を澄ますような試みを、山田は地道に続けてきた。

ゴメス・ザ・ヒットマンが再びバンドとしての活動を始めたのは2014年のこと。そろりとライブ活動でリユニオンを果たしたバンドは、2018年に未発表曲集という形でアルバムをリリース、そして2019年12月にはついに14年ぶりとなるオリジナル・アルバム「memori」を発表した。この日はそのレコ発ライブ。500人規模のライブハウス、渋谷WWWはほぼ満員の観客で埋まった。

山田が、それなりに軌道に乗っているように見えたソロ活動の傍ら、再びバンドを動かそうと考えたのはなぜか、僕はそのことに興味があった。地に足の着いた山田のソロ活動は、「新しい青の時代」というマスターピースを生み、その先には(決して派手ではないにせよ)まだこれから山田によって表現されるべき広大な魂の荒れ野があるように見えていたからだ。バンドを卒業し、自分自身の中に表現するに足るものを見つけた山田は、それを独りで自由に表現するのが自然な成長あるいは「発展」だと僕には見えた。

その「なぜ」への答えがすべてこの日のライブにあった訳ではない。しかし、そこには少なくとも、山田がバンドに求めるもの、バンドとして表現しようとしているものが何かを理解するには十分な手がかりがあったと思う。

『小さなハートブレイク』を歌う前に山田は、この曲が愛猫の死をテーマに書かれたものであること、そうと告げず須藤にアレンジを委ねたこと、曲の背景や歌詞の内容などはいつもバンドのメンバーには説明しないことを話した後で、「そうやって曲を自分の思いとは関係なくバンドに委ねることで思いもしない作品に仕上がる。バンドでやるというのはこういうことだと改めて感じた」とコメントしたが、ここに山田がもう一度バンドをやろうと考えた理由の一端が垣間見える。

今回のアルバム「memori」には、カラフルにアレンジされたポップ・ソングが詰め込まれてる。その中には、『memoria』や『ほうせんか』のように山田のソロ・ライブでも披露された楽曲もあるが、どれもしっかりビートの効いたバンド・アレンジが施され、ゴメス・ザ・ヒットマンというバンドの出自を意識したアコースティック・ポップに仕上がった。

山田は、自分が書いた曲を、いったん自分の手から離してバンドという他者を交えたサークルに投げ込むことで、そこに起こる化学反応のようなものが、山田ですら気づいていなかったその曲の可能性を開かせるようなマジックを手にしようとしたのだろう。その結果、バンドは休止以前のゴメス・ザ・ヒットマンとも、山田のソロとも異なった、ゴメス・ザ・ヒットマン2.0とでもいった「作家性とポップさの婚姻」みたいな新しい喚起力を実装することに成功したと言っていい。

この日のライブではバンドの演奏は想像以上にラウドでワイルドだった。メンバーひとりひとりがバンドに対して負っている責任に裏づけられたそのダイナミズムは、偶発性も含め、仮にバンド編成であったとしてもソロではやはり得難いもの。山田もその「ままならなさ」を楽しみながら「バンドの一員」であることが自分の表現にもたらす広がりを実感しているように見えた。

プレクトラムの2人が退いて4人でステージに立つ姿は、ひょろっと背の高い山田を中心にして、頼りなげでありながら根拠のない自信だけを武器に世界に切りこんで行こうとするイギリスの新人バンドのように見えた。ゴメス・ザ・ヒットマンの最高傑作はまだ書かれていない。ゴメス・ザ・ヒットマンの前にも、彼らによって奏でられるべきビートの荒野が広がっている。



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