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Smoke & Blue 2019

■2019.3.14(木) 20:30開場 21:30開演
■Billboard Live Tokyo

Vocal, Guitar, Piano:佐野元春

Drums:古田たかし
Bass:井上富雄
Keyboards:Dr.kyOn
Guitar:長田進
●ジュジュ
●夏草の誘い
●希望
●君がいなければ
●トーキョー・シック
●エンジェル・フライ
●C'mon
●Complication Shakedown
●愛のシステム
●ハッピーエンド
●僕にできることは
●ドライブ
●最新マシンを手にした子供達
●ナポレオンフィッシュと泳ぐ日



2018年は春と秋に2回の全国ツアーを敢行したことからか実施されなかったビルボード・ライブでのシリーズ・ライブだが、2017年秋から約1年半ぶりに東京ミッドタウンのステージとなった。

今回はチェロの笠原あやのが参加せず、ギターの長田進を加えて、2018年にリリースされたセルフ・カバー・アルバム「自由の岸辺」を制作したメンバー構成。

実際、演奏された14曲のうち、「自由の岸辺」からは5曲、2011年のアルバム「月と専制君主」から4曲が演奏されており、明らかになりつつあったシリーズ・ライブとセルフ・カバー・アルバムとのシンクロニシティがよりはっきりしたライブだった。

コヨーテ・バンドとともにロック表現の最前線に切りこむようなエッジの効いた活動を展開する一方で、アット・ホームな雰囲気の中でかつてのナンバーをより深みのある表現で聴かせようとする試みを佐野が継続しているのは、リスナーとしても興味深い。

コヨーテ・バンドのライブではこのところアンコールなどを除いてほぼアルバム「Coyote」以降のレパートリーしか演奏されていない。クリスマスのライブでは『SOMEDAY』も『アンジェリーナ』も『約束の橋』も披露されなかった。佐野がそこまで思いきることができているのも、一方でこのライブやセルフ・カバー・アルバムで以前のレパートリーの洗い直しを自覚的にやっているからではないかということを改めて考えた。

「月と専制君主」や「自由の岸辺」からのナンバーはもちろんこのライブのハイライトだが、印象的だったのはむしろそれ以外の曲。特にこの編成で演奏された『Complication Shakedown』は、これまでのライブで何度も演奏されたバリエーションの中でも屈指の緊張感、危機感あふれるパフォーマンスで、このライブが決して王侯貴族のためのサロンではなく、表現者としての佐野の重要なワークショップであることを認識させた。

また、1991年のテレビ番組「Goodbye Cruel World」でのパフォーマンスを下敷きにしたアレンジで演奏された『愛のシステム』も素晴らしかった。このアレンジをライブで聴けるとは思っていなかったし、『Complication Shakedown』も含めて、佐野の過去のレパートリーの中に、現代の問題意識や危機意識にフィットする表現が既に内蔵されていたことが確認できた。それはおそらく僕たちが今直面している危機が何か普遍的な問いかけを含むものであり、また佐野の作品が初めからそのような普遍的なモメントを内包していたということだろう。

アルコールも入りながら、基本的にはリラックスして聴くことのできたライブだが、その中にもこうして思わず居ずまいを正したくなる瞬間があり、(このライブでの通例として)時間は短かったものの、手ごたえのあるパフォーマンスだった。

但し、2017年のライブ・レビューにも書いた通り、このヴェニューに対する違和感は消えず、そのことは改めて指摘しておきたい。また、アルバム「自由の岸辺」のレビューの繰り返しになるが、『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』はいささかジャム・バンド的に過ぎ、聴き手としては少なからず冗長で退屈な印象を受ける。もっとコンパクトな演奏を聴きたかった。



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