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ROCKIN' CHRISTMAS 2018

■2018.12.25(土) 18:00開場 19:00開演
■昭和女子大学人見記念講堂

佐野元春&THE COYOTE BAND

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
Percussions:大井'スパム'洋輔

Guest Vocal:KUMI(LOVE PSYCHEDELICO)
●白夜飛行
●君が気高い孤独なら
●バイ・ザ・シー
●悟りの涙
●新しい雨
●いつかの君
●境界線
●みんなの願いかなう日まで
●純恋(すみれ)

●世界は慈悲を待っている
●君と往く道
●詩人の恋
●虹をつかむ人
●君の魂 大事な魂(w/KUMI)
●CHRISTMAS TIME IN BLUE(w/KUMI)
●La Vista é Bella
●優しい闇

●Strange Days
●Young Bloods
●彼女はデリケート
●99ブルース
●インディビジュアリスト



毎年恒例になったクリスマス・ライブだが、今年は初めて名古屋、大阪、東京での3公演となり、この日の三軒茶屋・昭和女子大学人見記念講堂が千秋楽となった。

2018年は「MANIJUツアー」「禅BEAT 2018」と2本の全国ツアーを行ったアクティブな1年となった。後者は前者の中でもビート・ナンバーを中心にコンパクトにまとめ直したライブ・ハウス・ツアーの色彩が濃かったこともあり、このクリスマス・ライブもこの2本のツアーの内容を継承したものになるのではないかと思っていたが、その予想はいい意味で当たり、またいい意味で外れていたと言うべきだろう。

今年の2本のツアーと同様、この日のライブでもコヨーテ・バンドと制作した4枚のアルバムからのナンバーが本編の大半を占めた。本編で演奏されたそれ以外の曲はゲストのKUMIが参加した『CHRISTMAS TIME IN BLUE』と『君の魂 大事な魂』の2曲のみ。

『CHRISTMAS TIME IN BLUE』は当然演奏されるべきクリスマス・ソングだし、『君の魂 大事な魂』はコヨーテ・バンド以前とはいえ2003年のシングルで、もともと女声コーラスが印象的な曲。どちらも演奏されることに納得性があり、コヨーテ・バンドと作り上げてきた清新なナンバーで勝負するという佐野の意図に揺るぎはなかった。

その意味でこの日のライブが今年の2本のツアーの延長線上にあるものだったのは間違いない。佐野がコヨーテ・バンドとの共同作業に手ごたえと自信を持ち、それをストレートに聴き手にぶつけることがそのまま彼自身の最新型のステートメントになり得ると考えていることが窺える、「攻める」セットリストだったと言っていい。

その中で、聴き手を座らせてアルバム「Zooey」から『君と往く道』『詩人の恋』『虹をつかむ人』を演奏したのはこの日のひとつのハイライトだった。今年のツアーでは演奏されなかったこれらの曲を聴かせたのはクリスマス・ライブとしてのプレミアムだろうが、ライブ・ハウス・ツアーとは異なるこのバンドの表現力の別の奥行きを感じさせて印象的だった。

しかし、このライブの最大のハイライトであり予想外だったのはアンコールだ。まず藤田にアコースティック・ギターを持たせての『Strange Days』。「何かが変わり始めている」が「僕には分からない」と歌うこの曲がライブで披露されるのは久しぶりだと思うが、この曲の持つ真摯で禁欲的なメッセージがこの2018年の終わりに改めて持ち出されることには納得感があったし、佐野の問題意識は30年以上も前から何も変わっていないと思わされた。

さらに『Young Bloods』『99ブルース』『インディビジュアリスト』とアルバム「Café Bohemia」からの曲を立て続けに演奏したことにも佐野の危機感が表れていたと思う。クリスマス・ライブということで当然2つのクリスマス・ソングを演奏し、スロー・ソングズも披露した。しかし、激しいセカンド・ラインの『99ブルース』からハード・スカにリアレンジされた『インディビジュアリスト』でアンコールの最後を締める構成は、ハッピーで親密なパーティ気分よりはむしろ、クリスマスにあってこそこの時代に困難を抱えて立ち往生している人に改めて思いを致すジャーナリスティックで批評的な視点と、人間存在そのものに対する限りない共感と慈しみとを思わせた。

結局このライブでも『SOMEDAY』は演奏されず、それどころか『約束の橋』も『アンジェリーナ』すらもなかった。ただ佐野の最も尖鋭的な問題意識のエッセンスだけをストレートにたたきつけるかのようなライブは、もちろん今年の2本のツアーの延長線上にあるものではあったが、ある意味それをも凌駕して総括するような内容のステージであり、我々自身のあり方を問うという意味で正しく「政治的」であった。

そして、あるいは蛇足かもしれないが、それにも関わらず最も重要なのは、このライブがロック・パフォーマーのステージとして文句なしに楽しく、カッコよく、エキサイティングであったということだ。そして、それは2018年のクリスマスにふさわしかった。



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