logo 2018年・秋 全国ツアー「禅BEAT 2018」


2018年・秋 全国ツアー「禅BEAT 2018」

■2018.10.4(木) 18:00開場 19:00開演
■2018.10.5(金) 18:00開場 19:00開演
■Zepp DiverCity

佐野元春&THE COYOTE BAND

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
Percussions:大井'スパム'洋輔
(両日とも同じ) ●境界線
●君が気高い孤独なら
●ポーラスタア
●私の太陽
●紅い月
●いつかの君
●世界は慈悲を待っている
●La Vista é Bella
●空港待合室
●新しい雨
●純恋(すみれ)
●ライナス&ルーシー(inst.)
●禅ビート
●優しい闇
●新しい航海
●レインガール
●約束の橋

●ヤァ!ソウルボーイ
●水上バスに乗って
●インディビジュアリスト
●アンジェリーナ



春にアルバム・プロモーションのツアーを行いながら、年内にもう一度全国をツアーするのは異例。それだけ佐野とバンドが今回のアルバム、そしてそれを受けてのライブでのパフォーマンスに自信を持っているということか。今回はスタンディングもありのライブ・ハウス・ツアーという位置づけ。

だが、Zepp DiverCity東京はライブ・ハウスとはいえ椅子席でも1000人以上を収容する大バコであり、今回は1階の後方をわずかにスタンディング・エリアにした他はほぼ全席指定の椅子席仕様。スタンディング待機や場所確保などのライブ・ハウス流儀が負担となる年代の客が(僕も含め)多いことを考えればこの会場設定は嬉しいが、当然ながらライブ・ハウス感のようなものはあまりない。

セット・リストは途中まで春のツアーと同じ。メンバー紹介にこれまでにない試みがあったものの、その後のセットもすべて前回ツアーで演奏された曲となった。そのためバンドのアンサンブルもしっかりしており、安心してライブに没入することができた。スロー・ソングは一切なく、アップ・テンポのナンバーを中心にギターでドライブする傾向の顕著なライブで素直に楽しめた。

前回のツアーでは、本編をすべてアルバム「Coyote」以降の曲で固めたが、今回は本編最後の3曲を80年代から90年代の曲で締める形となった。必ずしも所謂「クラシックス」ではなかったものの、『約束の橋』で本編を締めたのはやや疑問だった。

佐野自身はMCで「エラい人は『ライブでは昔の曲をやっていればいい』言うが僕とバンドは前進中」「今日は新しい曲ばかり演奏させてくれて有難う」とコメントしていたが、そうであれば前回同様本編をすべて「Coyote」以降の曲で固めてもよかった。特に『約束の橋』は敢えてやるまでもなかったし、ましてや本編のラストに持ってくる必然性は残念ながら感じられなかった。

本編は途中休憩なく17曲、1時間半ほどで終了、アンコールでは80年代から90年代の4曲を披露、『アンジェリーナ』で幕を閉じたのは9時前で、全体でも2時間弱と、最近のライブの中ではコンパクトな構成だった。

アルバム「Blood Moon」「Maniju」で顕著になった、ヘイトやフェイク、ポピュリズムや分断といった術語で定義される時代に生きることの困難さ、それにも関わらず生き続けようとする意志を、できる限り直接的なやり方で硬質な音楽に仮託する方法論は、バンドのシンプルで力強い演奏もあって、今回のライブでも有効だった。

そしてまた、そのようなロック表現のメッセージ・ソングとしての側面と、パーティ・ソングとしての本質がどのような形で幸福に婚姻することができるのか、それがどのようにしておそらくは50歳前後と思われる大方のリスナーの現在とフックするのか、さらにどのようにしてその次の世代に(警鐘を鳴らすチャイムのように)響くのかという問題意識に対して、ひとつのあり得る「解」を示したライブでもあったと思う。

「禅ビート」をツアー・タイトルに冠し、ライブ・ハウスでアップ・テンポな曲を中心にコンパクトなセットを見せるという今回のツアーのコンセプト自体は理解できる。春のツアーのアンコール・ツアー的な意味合いもあるのかもしれない。

最近の佐野の表現が充実しているだけに、そしてコヨーテ・バンドの演奏もひとつのピークに達しつつあるだけに、アンコールも含めて2005年以降の曲だけで固めるくらいの思いきりがあってもよかった。

おそらくはこのツアーをもう一度見る機会があると思うので、そのときに僕が何を感じるのか楽しみにしている。



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