logo 全国ツアー2018「MANIJU(マニジュ)」ツアー


全国ツアー2018「MANIJU(マニジュ)」ツアー

■2018.4.1(日) 17:00開場 18:00開演
■TOKYO DOME CITY HALL

佐野元春&THE COYOTE BAND

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
Percussions:大井'スパム'洋輔
●境界線
●君が気高い孤独なら
●ポーラスタア
●私の太陽
●紅い月
●いつかの君
●世界は慈悲を待っている
●La Vista é Bella
●空港待合室
●優しい闇

●白夜飛行
●現実は見た目とは違う
●天空バイク
●悟りの涙
●詩人を撃つな
●朽ちたスズラン
●新しい雨
●夜間飛行
●純恋(すみれ)
●禅ビート
●マニジュ

●新しい航海
●レインガール
●約束の橋

●ヤァ!ソウルボーイ
●sweet16
●アンジェリーナ



ツアー初日となった日本青年館でのライブから2カ月、青年館のライブにはアルバム「Coyote」以降の曲だけで本編を固めたセット・リストを高く評価するレビューを書いたが、このツアー千秋楽となるライブでは、佐野は更にそれを越えるチャレンジを叩きつけて来た。

日本青年館では第二部に『世界は慈悲を待っている』『La Vista é Bella』を演奏、アルバム「MANIJU」からの曲は7曲であったが、この日は第二部をアルバム「MANIJU」の曲のみで固め、千秋楽で初披露となると紹介された『夜間飛行』を初め、アルバム12曲のうち『蒼い鳥』を除く11曲が演奏されたのである。

曲順も『夜間飛行』と『純恋(すみれ)』が逆になっていた以外はアルバム通り。単にアルバムの曲を演奏するというだけでなく、「MANIJU」というアルバムのコンセプトを何とかライブで再現し、リスナーに直接届けたいという佐野の強い意志――それはまた「MANIJU」というアルバムへの大きな自信に裏書されたもの――が窺われるセットになった。

『夜間飛行』のみならず、日本青年館では聴けなかった『現実は見た目とは違う』『詩人を撃つな』『朽ちたスズラン』も含めて11曲を立て続けに演奏した第二部は、間違いなくこのライブのまさに核心だった。

特に、『白夜飛行』とほぼ同じ内容の『夜間飛行』を敢えてライブで演奏したことの意味は大きかった。この2曲は歌詞とメロディが共通だが、アレンジ、曲想の異なるひとつのコインの裏と表、陰と陽のような曲。ひとつのライブで両方を演奏するのは構成として難しいし、リスナーとしても同じ曲を2回聴かせられている感を持ちかねない。

それでも佐野がこの2曲をともに演奏しようとしたのは、この陰と陽をなす2曲に、アルバムのコンセプト、主題が最もはっきりと表れているからに他ならない。「今すぐ災いを縫って/気休めのダンスに出かけよう」と歌うこの2曲は、何かを表現しようとするたびに口ごもらざるを得ない窮屈な現実の中で、それでもひとときの慰安としてのダンス(気休めのダンス)こそが僕たちの生を実感する重要な契機であることを示唆している。

アルバムの冒頭の『白夜飛行』で示されたこのライトモチーフを、アルバム終盤になだれこむ前に『夜間飛行』でもう一度繰り返し、密やかな予感として改めて喚起してアルバム全体のコンセプトを明らかにする役割をこの2曲は果たしている。そう、「ダンス!!」と。つまり、この2曲が揃って初めてアルバムの構造は完結するのだ。

だからこそ、アルバムのコンセプトをライブで再現し、届けるためには敢えて『夜間飛行』を『白夜飛行』と対をなす形で演奏する必要があった。『夜間飛行』と『純恋(すみれ)』の演奏順がアルバムとは逆になったのは意図が分かりづらかったが(『新しい雨』と『純恋(すみれ)』というアップテンポの曲が続くことを嫌ったか)、『夜間飛行』があったからこそ、『禅ビート』から『マニジュ』というラストの流れに大きな意味が生まれた。

本編ラスト、さまざまなイメージがタペストリーのように織り合わされた『マニジュ』がサイケデリックに演奏され、最後の一音が空中に消えた後も鳴りやまない拍手を受けてバンドのメンバーが一様に仁王立ちになっていたのはとりわけ印象的だった。それは確かにある種の祝福であり、佐野やバンドのメンバーとリスナーとの間にひとつのイメージの共有、契約(コヴィナント)の成立があったし、個々の存在を越えてその場に形成された何かに圧倒される感覚があった。

ライブが終わった会場に流れたBGMはアルバムから唯一演奏されなかった『蒼い鳥』。こうして「MANIJU」はライブで再現され、このアルバムが持つ重要性が佐野から僕たちに直接伝えられた。

第一部も「Coyote」以降の曲のみ10曲を演奏し、本編をコヨーテ・バンドとレコーディングした曲だけで固めた構成は変わらず。委細構わず表現の最前線に立ち続けるという佐野の意志がさらに明確になった名演だったと言っても差し支えない。



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