全国ツアー2018「MANIJU(マニジュ)」ツアー
昨年リリースの新譜「MANIJU」のツアー初日。驚いたのは、二部構成となったライブの本編を、アルバム「Coyote」以降の作品だけで固めたことだ。 まず第一部は『境界線』から。何かが始まることを予感させる印象的なピアノのイントロはオープニングにふさわしい。アルバム「Blood Moon」からの曲を中心に、『君が気高い孤独なら』『ポーラスタア』などを取り交ぜ、アップ・テンポの曲でリズムを作って行く。『優しい闇』で8曲の第一部を終えた。 20分の休憩をはさんで、ここからはアルバム「MANIJU」の曲が中心。途中『世界は慈悲を待っている』『La Vista é Bella』をはさんで『マニジュ』まで9曲、『マニジュ』以外は昨年のクリスマス・ライブで披露された曲だった。 結局本編の曲はいずれも「Coyote」以降の曲であり、ここまで直近の曲でセット・リストを固めるのはこれまでにはなかったことだ。アンコールも90年代の曲が中心で『新しい航海』『ヤァ!ソウルボーイ』など意外な選曲。クラシックスと言えるのは『約束の橋』『アンジェリーナ』程度で、『SOMEDAY』も『Rock & Roll Night』も『Young Bloods』も演奏されなかった。 クリスマス・ライブでも、コヨーテ・バンドと共に制作したアルバムの曲を中心に演奏する傾向は顕著だったが、ツアーではバランスを取るかと思いきや、逆に更にラジカルに直近の曲で勝負してきた。これは佐野の覚悟と決意、そして自信の表れだと思う。佐野自身、アルバム「MANIJU」に関し「自信がある」とMCしていた。 それはいったい何についての自信であり、何のための覚悟なのか。それは自分の音楽がこの2018年という奇妙で困難な時代ときちんと同期しているということへの自信であり、そしてまたその同時代性を引き受けながら現代の危機感をロック表現として昇華し続けることへの覚悟である。 アルバムのタイトル・ソング『マニジュ』はこのツアーで初めて披露されたが、まるで組曲のように入り組んだ複雑で重層的な構成のこの曲を、コヨーテ・バンドは(藤田を欠きながらも)地に足の着いた演奏で表現しきった。 この不確かな世界にあってすべては最後に個の領域、「わたしとあなたの間にある何か」に収斂して行くのだというこの曲のメッセージが、万華鏡のように変化する曲想に伴われてホールの隅々まで広がって行く光景は、佐野が現代という時代に対する直接性を奪還したことの高らかな宣言でもあった。 大げさに言えば、それは内戦とポピュリズムとグローバリズム、フェイク・ニュースとヘイトとポリティカル・コレクトネスといった術語で定義される2010年代においても、佐野がロック表現の前衛に立ち続けるという決意だ。 『マニジュ』を演奏し終え、鳴りやまない拍手の中で、20世紀のヒット曲をまったく演奏しないまま颯爽とステージを去る佐野とバンド。僕たちが今、どんな時代にいるのか、「今ここ」を指し示す水準点と言っていい重要なライブだった。 この日は藤田が「欠席」でギターは深沼ひとり。当然音の厚さは見劣りしたが、その分曲の骨格が露わになり、力強いリズム隊と相まって、また黒い幕だけのシンプルなセットの視覚的な印象もあってか、まるで若いパンク・バンドの演奏のようにギターの鳴りそのもので勝負をかけているようでカッコよかった。 これまで佐野のライブには何十回も足を運んでいるが、ここまでショックを受け、打ちのめされながらも、楽しくダンスできたライブはなかった。この佐野の「挑戦」に僕たちはどう答えるのか。これは他ならぬ僕たち自身の物語なのだ。 2018 Silverboy & Co. e-Mail address : silverboy@silverboy.com |