恒例となったクリスマス・ライブ。今年も昨年と同じく「L'ULTIMO BACIO」というシリーズ・ライブの中の公演だが、2日に亘ってのライブとなった。

オープニングから『So Young』『スターダスト・キッズ』と続いたので、「これはクラシックスでパーティって感じか」と思ったが、そこからMCをはさんでアルバム「MANIJU」からの曲を6曲演奏。ここで前半が終了。

後半こそはクラシックスかと思いきや、まず『境界線』、そして『世界は慈悲を待っている』とコヨーテ・バンドとの曲が続く。途中、深沼と初めて共演した『水上バスに乗って』をはさんだ他は、ラストの『CHRISTMAS TIME IN BLUE』以外すべてコヨーテ・バンドの曲。初日は『CHRISTMAS TIME IN BLUE』にゲストのKUMIが参加した。

アンコールもいきなり『空港待合室』。そして最後にようやく『悲しきRADIO』からメドレーを演奏して終わり。結局18曲の演奏のうち80年代が4曲、90年代が1曲のみで、あとは「Zooey」以降の曲という思いきったセット・リストになった。『SOMEDAY』も『アンジェリーナ』も『Young Bloods』も『約束の橋』も演奏されなかった。

まずはこのセットリストの割り切りが潔い。クリスマス・ライブということで、クラシックスで盛り上げる演出を予想していたが完全に裏を取られた。来年の2月から始まるツアーの前哨戦でもある訳だが、そこに合わせて「MANIJU」の曲を入れてくるのはまだしも、休憩後の第二部でも新しい曲で押しきってきたのは、佐野の、コヨーテ・バンドに対する信頼と、ここ数年作り出してきた音楽への自信を窺わせる。

もちろん『SOMEADY』が聴きたかった人、『約束の橋』を楽しみにしていた人もたくさんいただろうが、敢えてそこに配慮することなく、新しい曲で勝負したのは、そうしたリスナーに対しても今の佐野元春の音楽（新・佐野元春宣言）がクラシックスと同等に、いや、それ以上にリアルに響くと判断したからだろう。

実際、ツイン・ギターをメイン・エンジンとしたこのバンドのドライブ力は、彼ら自身がレコーディングした新しい曲でこそフルに発揮されるのは間違いない。佐野自身の今現在の危機感と直接呼応した、ソリッドでスピード感のある2010年代の曲がライブを牽引して行くのは自然な流れだ。

『境界線』『世界は慈悲を待っている』『La Vita é Bella』『優しい闇』そして『空港待合室』、どれも止めようもなく過ぎ去る時間の中で現実に向かい合う硬質なメッセージをその核にした曲だ。それらが、クリスマス・ライブという場でも迫真性を失わなかったのは、このバンドの力量だと思う。

アルバム「MANIJU」からの曲もよかった。この最新アルバムからはほぼ初演となったが、『新しい雨』『純恋（すみれ）』などのシングル曲はもちろん、シーケンサーでストリングスを表現した『悟りの涙』、軽快なビートと複雑な奥行きを兼ね備えた『禅ビート』など、それぞれの曲のキャラクターが際立つ誠実で丁寧な演奏が印象的。来年のツアーに期待の持てるパフォーマンスだったと思う。

クリスマス・ライブという、本来アット・ホームで親密な場に、この清新なセット・リストで窓を大きく開け放ち、新しい空気を呼びこんだ佐野の決断を支持するし、この風通しのよさが来年のツアーにも引き継がれることを期待している。