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In Motion 2017 -変容

■2017.4.4(火) 20:30開場 21:00開演
■TSUTAYA O-EAST

佐野元春 & 井上鑑ファウンデーションズ

Vocal, Guitar:佐野元春

Keyboards:井上鑑
Drums:山木秀夫
Bass:高水健司
Violin:金子飛鳥
●再び路上で
●ああ、どうしてラブソングは
●国籍不明のNeo Beatniksに捧ぐ
●植民地の夜は更けて
●ベルネーズソース
●何もするな
●まだ自由じゃない -Not Yet Free
●SHAME -君を汚したのは誰
●ブルーの見解
●ハッピーエンド
●僕にできることは
●何がおれたちを狂わせるのか



2010年の「僕が旅に出る理由」以来のポエトリー・リーディングのライブ。前回の山本拓夫(サックス)に代えて金子飛鳥(バイオリン)をフィーチャーした他は同じメンバーの井上鑑ファウンデーションズとの共演。

披露されたテキストはほぼこれまでのライブで発表済みのものだが、『国籍不明のNeo Beatniksに捧ぐ』『まだ自由じゃない』はライブ初出か。但し『国籍不明の〜』のは1980年代に発表されたテキストで「THIS」第二期創刊号所収、2011年に発表された堤幸彦監督によるドラマ「コヨーテ、海へ」の劇中でも使用されたもの。

『SHAME』『ブルーの見解』『ハッピーエンド』は佐野が自らアコースティック・ギターを抱え、弾き語りのスタイルで披露した。ポエトリー・リーディングのライブでは新しい試みで、ポップ・ミュージックとポエトリー・リーディングの接面を、言葉と音楽の関係から探る興味深いパフォーマンスだった。

特に『SHAME』はもともとメッセージ性の強い歌詞の曲。メロディは放棄されながらも言葉とリズムが呼応し合うのはスリリングだった。ポップ・ミュージックでは言葉と音楽が親密に寄り添うのに対し、ポエトリー・リーディングでは言葉と音楽は拮抗し、時にぶつかり合って反発しながらも互いを挑発してひとつのパフォーマンスに昇華される。その両者の境目にあってそれぞれの可能性を相互に拡張し合う、佐野にしかできないアプローチだったと思う。

世界が「グローバリズム」「テロリズム」「ポピュリズム」といった言葉で語られる困難な時代にあって、詩の果たすべき役割は大きい。それは、詩が物語とは別の方向から、論理を省略して、僕たちの抱える問題の本質をたったの一語で摘発する可能性を秘めたメディアだからだ。その意味で、すべての詩は政治的なものであることを免れない。

この日の佐野のパフォーマンスはその政治性を意識したものだった。ひとつひとつの言葉が意味を拡張されて、僕たちの当たり前の日常の中に潜む無意識の了解を「それは本当にそうか」「それはそれ以外の何かではないのか」と洗い直し、問い直す。昨日が今日になり、今日が明日になる連続性の自明性にダウトを突きつける。それが詩の仕事だ。

詩の政治性は、どこかにいる「悪者」の悪行を安全圏から指弾することではない。それはむしろ、僕たち自身が例えば「グローバリズム」や「テロリズム」や「ポピュリズム」とのっぴきならない関係にあることを指摘している。すべてが複雑に絡み合い、互いが互いを不可避的に侵したり侵されたりしている世界で、自分ひとりが聖者のように超然とクリーンではあり得ないことを強く指摘しているのだ。

だれのことも汚したくないし、だれにも汚されたくない、しかしそれにも関わらず僕たちは僕たち自身の手を汚すことなく生きることはできない。「強圧」や「略奪」、「悪意」や「支配」は、だれかからだれかに一方的に押しつけられるのではなく、僕たち自身がこの社会にあって「強者」でも「弱者」でもあり、互いにそれらを押しつけ合っているではないか、と佐野は看破している。『SHAME』はそのことを、もはやメロディに依拠することすらなく、直接僕たちに指し示している。

この日のライブは緊張感の高いハードなものであった。ある意味、居心地の悪いものですらあった。それは佐野が突きつけるメッセージが僕の中の問題意識と強烈にリンクしたからだし、僕自身がふだん曖昧にやり過ごしているものについて半ば強制的に向き合わされたからだと思う。それはこのライブが表現として強い通用力を具えたものであったことの証左だ。

スクリーンに映し出される映像、言葉と共鳴するモーション・タイポグラフィも効果的だった。ついつい映像に見入ってしまうこともあったが、それも含め、ライブの現場で言葉と音楽に映像を加えたコンビネーションの喚起力には大きな可能性を感じた。

この日は最後にメンバーを紹介した以外にはMCもないパフォーマンス本位のもの。真摯で直接的なステージ運びにはまったく違和感はないが、これだけ力のある表現であればこそ、作品に中にユーモアのモメントがもう少しあればいいと思った。ポエトリー・リーディングのライブ・パフォーマンスは、もっと頻繁に、できれば定期的に見たい。



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