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L'ULTIMO BACIO Anno 16

■2016.12.20(月) 18:00開場 19:00開演
■恵比寿ザ・ガーデンホール

佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド

Vocal, Guitar:佐野元春

Drums:小松シゲル
Guitar:深沼元昭
Guitar:藤田顕
Bass:高桑圭
Keyboards:渡辺シュンスケ
Percussions:大井'スパム'洋輔
●境界線
●La Vita e Bella
●夜空の果てまで
●新しい雨
●或る秋の日
●バイ・ザ・シー
●虹をつかむ人
●みんなの願いかなう日まで
●優しい闇

●ポーラスタア
●私の太陽
●世界は慈悲を待っている
●空港待合室
●COME SHINING
●CHRISTMAS TIME IN BLUE
●約束の橋

●So Young
●誰かが君のドアを叩いている
●NIGHT LIFE
●アンジェリーナ



『境界線』はオープニングに相応しい曲だ。これから何かが始まることを示唆する渡辺の力強くしなやかなピアノのストローク。佐野の曲の中でも出色のイントロで、リスナーの期待も高まる。

2年間の「自主公演」を経て今年は「L'ULTIMO」のパッケージ・ラインアップに復帰、恵比寿での3年ぶりのクリスマス・ライブになった。「グランド・ロッケストラ」としての35周年ツアーはあったものの、コヨーテ・バンドとしてのフル・メンバーでは久しぶりのワンマン・ライブだ。

バンドはアルバム「COYOTE」以降の曲を次々に演奏して行く。リリースされたばかりの3トラックEP「或る秋の日」からも、タイトルソングと『新しい雨』が披露されたが、シンプルでオーソドックスな曲構成の中に、佐野の現在がくっきりと投影されていて鮮烈だった。

恒例の二部構成となっており一部は『優しい闇』で幕に。9曲を演奏したがいずれも「COYOTE」以降のナンバーで、佐野がこのバンドを信頼し、彼らと作った最近の作品に自信を持っていることが分かる。実際、バンドの演奏も確信に満ちてシュア、どの曲も歯切れがよく明快だ。

クリスマス・ソング『みんなの願いかなう日まで』は前半に。昨年は前半終了後のくじ引きに当たったリスナーがルーレットにダーツを投げて後半最初の演奏曲を決めるという趣向があったのだった。今年はそういう類の演出はなかった。

二部も冒頭から『ポーラスタア』『私の太陽』『世界は慈悲を待っている』そして『空港待合室』とコヨーテ・バンドのレコーディング曲で押してくる。ようやく『COME SHINING』で初めて1980年代に。その後に演奏されたのは『誰かが君のドアを叩いている』を除いていずれも80年代の曲だった。

アンコールの『NIGHT LIFE』では流行りのマネキン・チャレンジ。リハーサルを重ねただけあってなかなかの出来栄えだったと思う。コヨーテ・バンドと制作している新しいアルバムは来年夏ごろにリリースされることを示唆するMCがあった。

バラードはなく、ダンスできるパーティ・チューン中心のセット・リストに。結局本編16曲のうち実に13曲が「COYOTE」以降の曲で、佐野が現在進行形のアーティストであり、その表現を常に成長させ続けていることを強く印象づけるライブだった。

エンディングからアンコールでは古くからの定番曲の力も借りたものの、『SOMEDAY』の演奏はなく、クリスマス・ライブという、本来なら親密なサークルのミーティングでもおかしくないステージで、現代の問題意識、危機意識に敏感にフックした「コヨーテ・バンドの曲」がライブの中心に据えられた意味は決して小さくない。

佐野は身内意識に自閉するのではなく、オールド・ファンにこそ自分自身の「今」を体感させるべく敢えてオープンな戦いを挑んだ。ひとりひとりがむき出しの国際競争にさらされ、個人としての存在意義を厳しく問われる残酷な社会にあって、率直さと誠実さ、ビートとメロディを武器に生き残って行く意志を佐野は明らかにしたのだと思う。

バンドもまた余計な装飾の一切ないストレートな演奏でそれに応えた。もう、言い淀んだり口ごもったりしている余裕はないという危機感が、この風通しのよさの動機になっているのは厳しい現実だが、それをダンスすることで祝福に昇華した佐野元春の戦略は正当なものだ。

現実には難しいとは思うが、もうライブ全編「コヨーテ・バンドの曲」でいいと思った。佐野の「今」はここにある。



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